#記念日にショートショートをNo.39『真面な人』(Decent person)
2020/7/24(金)スポーツの日 公開
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【関連作品】
「この空に」シリーズ
走る。走る。
インパラのように、風を走る。
速い。速い。
駆け抜けた後に、砂埃が鋭く立つ。
➖やっぱり、塁生は速い。
高校最後の体育祭、最後の締めとなる紅白リレー。今年は、私は赤組,塁生は白組と、組が分かれてしまった。
だから何だって言うのか、組が違うから何だって言うのか。
別にだからどうだ、って言うわけでもないんだけど……同じ方が良い。
野球をやっている塁生は、よくモテる。先日の告白現場を目撃してしまってから、塁生は何だか素っ気ない。
私の中にも、少しそうしたい気持ちがあった。
2人の間には、蟠りが立ち込めていた。
体育祭が終わり、何気なく校舎の脇に入る。
水道の蛇口を捻り、塁生が顔を洗っていた。
あっ、と思う間もなく、塁生と目が合った。
咄嗟に、逃げ出していた。
「おい響生!」
後ろから塁生の声が飛ぶ。感情が戻るように促す。けれど足は止まらなかった。
グイッと腕が引っ張られた。次の瞬間、校舎の壁に押し付けられる。
「何で逃げんだよ。」
手がきつく押さえられる。目の前には塁生の顔。どうすればいいか分からなくなって、千切れた言葉が、そこかしこから引っ張り出される。
「だって…この間から…塁生がおかしいんだもん……。」
俯く。
沈黙が流れる。
「響生。」
名前が呼ばれる。俯いていた顔を上げる。
と、塁生の唇が私の唇を押さえ付けた。
突然のことに思考が停止する。身体が、言葉が、止まる。押し付けられた唇の間から、舌が私の唇をくすぐる。
ビクッと肩が震えた。塁生がハッとしたように、慌てて唇を離した。
「悪い……。」
塁生が顔を伏せる。
時が、歪に流れていく。
「ごめん…忘れろ。」
視線を私に合わせないまま、塁生が足早に立ち去った。
呆然としてその場に立ち尽くす。
幼馴染という空気の膜が、膨らみを喪い、揺れ始めているように感じられた。
唇を指でなぞる。
拒絶を覚えない自分を、高みにいる自分が嘲笑している。
【登場人物】
○高瀬 響生(たかせ ひびき/Hibiki Takase)
●桐早 塁生(きりはや るい/Rui Kirihaya)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
【原案誕生時期】
公開時