05
『異世界妖精派遣ギルド』と書かれた看板がある門前にはたくさんの妖精たちが並んでいた。
ギルドに入るためにはあの門をくぐらないといけないのかもと思った私も慌てて並んだ。
そこまでは良かったのだけど……。
「ねぇ、あの子、羽なしじゃない?」
誰かがそう言ったことが合図となり私は視線を感じるようになった。
チラチラと妖精たちは私のほうを見てはひそひそと話している。
「羽なしが来る場所じゃないのにね」
「落ちこぼれの羽なしがなんでここにいる訳?」
「出来損ないのくせに」
「どっか行けよ! 羽なしが!!」
ドンッ! と背中を押され、並んでいた列から飛び出した。
(ああ〜。せっかく並んでいたのに)
最後尾まで行って並び直しか。と思った私はすぃ〜と最後尾に向かおうと思ったのだけど。
(さ、最後尾が見えないぃぃぃ!!)
最後尾がどこかわからないほど妖精たちが並んでいた。
さてどうするかな。と考えていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「出来損ないは弾かれて当然」
「落ちこぼれはどこか行け」
「いい気味」
私のほうを見ては楽しそうに羽あり妖精たちは言った。
私はにっこりと笑顔になり私の悪口を言った妖精たちに手を振った。
(私に聞こえるように言うのは陰口ではなく悪口だろうから、気にしてなんかやるものか)
陰口も悪口も人間だった時に結構言われていた。
私の反応を楽しむために言っていたのだろうが、私は一切反応しなかった。
(いちいち反応していたらこっちの身が持たないもんね)
私はそんなことを考えながら尚も笑っていた。
案の定、妖精たちはドン引きした表情になっていた。
「あの羽なし頭おかしいんじゃない?」
「笑っているとか気持ち悪いんだけど〜」
「早く消えて!」
妖精たちに散々なことを言われながらも私は最後尾を目指そうとしていたのだが……。
がしっ! と、突然、腕を掴まれた。
「へ?」
そう思ったのも束の間で私の目の前には誰かがいた。
赤い髪色の髪の毛をショートカットにしている後ろ姿は私と同じ女の子のような雰囲気を感じた。
「早く消えてってワタシに言ったの?」
声音が低くなっていることからかなり怒っていることがわかった。
「ち、ちがっ! 違うよ!」
「ルイに言った訳じゃ……っ!」
「羽なし妖精のこの子をバカにしたでしょ? ヒドイ言葉も言ってたよね?」
そこで言葉を切った彼女……、ルイと呼ばれた妖精は怒りを隠す様子がなかった。
「それはつまり、同じ羽なし妖精であるワタシにも同じことを言いたかったとそういうことでしょ?」
「ち、ちち、違う! 違いますぅぅ!」
「誤解だよぉぉ!」
私に悪口を言った妖精たちは真っ青になりながら否定していた。
私は私でハッとしてルイの後ろ姿を見てみた。
彼女の背中には私と同じく妖精が持つ羽がなかった。
(私と同じ羽なし妖精)
私以外にも羽なし妖精がいてくれたことに嬉しいという気持ちが強くなった。
「ねえ」
私は後ろからルイと呼ばれた妖精に話しかけた。
「少し黙っていて」
私の声かけにルイはそう返してきた。
(黙っているなんて無理だよ。……だって)
「抱きついていい?」
「は!?」
ルイの返答を聞かずに私は後ろからルイに抱きついた。
「ちょ、ちょっと!?」
戸惑ったかのような声が聞こえてきたがそれは聞いてないことにした。
「羽なし妖精がもう1人いてくれて良かった!!」
嬉しくて仕方ないというように私は言った。
それと同時にハッと我に返ってルイから離れた。
「何? どうしたの?」
ルイは少し疲れたような声で私に質問してきた。
「あの。ご、ごめんなさい……」
震える声で私は謝罪した。
「え? なんで謝るの?」
ルイは理解できないという表情をしながら聞いてきた。
「わ、私、私の他にも羽なし妖精がいて良かったと思ったわ」
「うん」
「け、けど。じゃあ、あなたは?」
「……ん?」
私の言葉の意味がわかっていないルイは首を傾げた。
「あなたはずっと羽なし妖精で1人だったんでしょ?」
そう考えたら喜びすぎるのは良くない気がしてきてとボソボソと言う私にルイはクスッと笑った。
「そういうことね。けど、平気よ? 1人ではなかったから」
「……へ? 羽なし妖精って他にもたくさんいるの?」
もし、羽なし妖精がまだいるなら是非、お目にかかりたいと私は目を輝かせてみたが……。
「羽なし妖精はワタシとあなただけよ」
「あ、そう、なんだ」
残念……。という気持ちが隠せそうになかった。
そんな私の様子にルイは苦笑していた。
「その話はまた追々するとして」
苦笑していた顔を引き締めたルイはチラリと私に悪口を言った妖精たちに目を向けた。
「!!」
ルイに目を向けられた妖精たちはビクゥ! と反応した。
「あなたたちがこの子に言った言葉は妖精王様も聞いていたからね」
ルイの言葉を聞いた妖精たちは顔を真っ青を通り越して真っ白になっていた。
(今から公開処刑でもするかのような雰囲気ね)
一気に重苦しい雰囲気になったなと感じた私はそんなことをぼんやり考えていたのだった。