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04

詩織としての過去→妖精になった現在へと話が切り替わります。

(…………。何あれ)

沙織の行動に呆れたように私はため息を吐いた。


「疲れてそうだな」

「え?」

ふと顔を声がしたほうに向けると沙織の部署の上司がまだいた。


「君は確か……」

「……双子の姉です」

「ああ、君か。彼女の仕事を別の人がしていると噂されていたんだ」

「……え」

沙織ではなく私がしていると気づいていた人がいるの?

(見分けがつかないことのほうが多いのに?)


「君がいる部署の上司に散々説教されていたんだ。君に仕事をさせるなと」

「え?」

(上司が? 私が沙織の代わりに仕事をしていたことに気づいていた?)

そんなまさかと思った。双子で両親すら見分けることができない私と沙織を見分けていた人がいるなんて信じられなかった。


「プロジェクトリーダーから彼女を外すね」

突然、沙織がいる部署の上司がそう言った。

「君の頑張りだったのに、彼女の手柄のようにして悪かったね」

「い、いえ」

誰にも気づかれていないと思っていた。

私が声を上げなかったから、気付く人はいないのだろうと。


(でも、気づいてくれる人もいてくれた)

それが嬉しかった。


嬉しい気持ちのまま帰宅しようとしていたら、沙織が待ち構えていた。


「プロジェクトリーダーから外すと言っていたわよね」

私と上司のやり取りを実は聞いていたのだろう。沙織はそんなことを言い出した。

「そうね」

私はそれしか言えなかった。

「私に惨めな思いをさせられて満足した?」

「………………」

その質問には答えなかった。


「いい子ちゃんぶりやがって」

沙織はぽつりと呟くように言った。

私には聞こえていたけど。


「明日からどんな顔をして職場に行けばいい? きっと噂されるに違いないっ」

(いや、噂されることはないと思う)

私はそんな風に思ったけど、沙織がフラフラだったことが気がかりだった。


お酒を大量飲みしたかのような覚束ない足取りで今にも道路に飛び出そうとしているかのようだった。


「詩織だけがこれからちやほやされるようになるのよ。良かったね〜、詩織」

「沙織、こっちに来ないと危ないわ」

沙織の言ったことを無視して私は沙織に近づいた。

猛スピードの車が近づいてきていた。


パッパーとクラクションの音が響いたと思ったら。

ドン! と私の身体が前に押し出された。


(………………え?)


そう思って沙織のほうを見たら悲鳴を上げるフリをしてニヤリと口角を上げて笑っていた。


それが私の最期だった。



***



「って! ばっちりしっかり覚えているじゃないよー!!」

嘘つきー!! 短い手足をバタバタさせて私はそう言った。


(しかも私、沙織を庇って死んだ訳じゃなかったなんて)

沙織に突き飛ばされて事故に遭って即死したという事実を知ってショックを受けた。

(だから最期に見た沙織の顔が勝ち誇ったかのような表情だったのね)

沙織にしてみれば、きっと私が死んで精々したと思っているかも。

(もう、どうでもいいけどね)


転生は無事に終わったようで私は晴れて妖精になった。

見る景色が人間の時とは明らかに違った。

身体が小さいせいなのか周りのものがみんな大きく見えた。


(そういえばここってどこ?)

自分がどこにいるのかわからない状態だった。


色々考えたいこともあったけれど、ここがどこなのか確認するべく前に進もうと思った。

けれど進めなかった。


(……あれ? 前に進まないんだけど?)

私は頭の中をはてなマークでいっぱいにしながらも前に進もうと奮闘していた。

けれど進めなかった。


(あれ? あれ? あれれ??)

これは何かがおかしいぞ。とさすがの私も思った。


前に進もうと足を出しても進めなかった。


私がもたくたしている間に妖精たちが流れるように前へと進んでいた。


(誰か! 私に前に行く方法を教えてー!!)

切実に思った。


しばらくじたばたと前に進むため更に奮闘をしていると、クスクスと笑い声がしてきた。


「さっきから何してるの? あの子」

「人間のように歩こうとしてるんじゃない?」

「羽があって浮いている状態なのに歩ける訳ないでしょ」

ヘンな子〜 と言われた私だったけど気にはならなかった。


(そうだった。私はもう人間じゃないんだ。妖精なんだ。妖精には羽があるのね。私にも羽が……)

私の背中にも羽があったかと思いきや。

(え!? 羽、羽がついてないんですけど!?)


背中に羽らしきものはなかった。

(ええ〜!? どうしよう!? わ、私、本当に妖精になったの!?)

そこまで考えて私はぴたっと止まった。


(ま、いっか。過去のこともぼんやりしてないし、真っ白な空間での謎の球体とのやり取りも覚えているけど、妖精にはしてくれているはず。それは信じよう)

人間じゃないんだから、誰かを疑うなんてする必要ないよね。そう開き直ることにした。


すると、身体が一瞬光った。光が消えると身体が軽くなったかのようだった。


羽はないままだけれど、ふわふわと前に進むことができるようになった。

(うわ! やった! やったわ! 前に進んだわ!)

両腕を前から後ろに漕ぐようにしてみるとさらにスピードが上がった。


(うわぁ〜! スゴい! 私、飛んでいるんだわ! 最高! だけど、これ、どうやって止めるの!?)

スピードを緩める方法を知らないので前を行く妖精たちにぶつからないように避けながら飛んでいると。

目の前に壁が現れた!


その壁を避けることができず、私はそのままその壁に正面衝突をしてしまった。


(痛い)

涙目になりながら、改めて前を見ると大きな建物がドーンと建っていた。


看板に書かれていた文字は……。

「異世界妖精派遣ギルド?」

そう書かれていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます

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