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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
二年目
74/151

涼しい顔してほんとうは 1




 台本を抱えた月子は、自身の楽屋へ歩いていく。その足が、止まった。


 目の前にある自身の楽屋から、一緒に仕事をしていた女性アイドルたちが出てくる。カメラの前では決して見せられない、意地の悪い笑みを浮かべながら。


「なにしてるんですか?」


 女性アイドルたちはびくりと震える。しかし月子が持っている台本に気づくと、再び下卑た笑みを浮かべ、喉を鳴らした。


 月子はため息をつき、髪を耳にかける。


「書いてる内容が陳腐すぎて笑えませんけどね。小学生並みの語彙力。低レベルすぎて目が滑ります」


「なんか言ってる~」


 アイドルたちは、小ばかにするのをやめようとしない。


「ああ、伝わりませんでした? ごめんなさい。そこまで下品で低能だとは思わなくって、難しく言いすぎちゃいましたね」


 月子はあくまでも冷徹に、かつ上品に言ってのける。


「もっとわかりやすく言ってあげますね。こんなことしかできないからドラマのチョイ役にも選ばれないんですよ? 頭もそこまでよくないから、テレビで気の利いたことひとつも言えないんですよね?」


「ふざっけんなよ! このクソガキ! ちょっとちやほやされてるからって調子乗りやがって!」


 リーダーの女性が声を荒げる。フロア中に響き渡っていた。


 月子は臆することなく、平然と言ってのける。


「三流アイドルが何か言ってる~」


「てめえ!」


「ちょっやめなよ、さすがにやばいって」


 つかみかかろうとしたのを、他のメンバーが必死に止めた。その姿を月子は冷ややかに見すえるだけだ。


「もう行こう」


 女性アイドルたちは顔をゆがませながら、そそくさと離れていく。


「あれ? 戻るんですか? 私に用があったからここにいたんじゃないんですか?」


「さっきからうっせえんだよ! 気持ちわりいな!」


 怒声は再び響き渡る。局の社員やスタッフの存在を忘れているようだ。


 月子も同じように大声で返した。


「私の楽屋から出てきたってことは私に用があったってことですよねぇ?」


 アイドルたちのリーダーが振り向き、月子をにらみつける。かわいらしさも華麗さもない、醜い顔をしていた。


 アイドルたちが去っていくと、月子は楽屋の扉を開ける。中の状況に、一瞬だけ目を見開いた。


 冷静に扉を閉め、つぶやく。


「育ちの悪さが目に見えるわ」


 すでに月子が帰る準備を終え、スタッフたちも撤収した楽屋。あとは月子がカバンを持って出るだけ、の状態だったはずなのに。


 テーブルの上で月子のカバンが開き、中身がぶちまけられている。ペンケース、ポーチの中身まで、乱雑に散らばっていた。


 カバンを手に取ってみると、中には汚れたふきんが詰め込まれている。テーブルに転がるポーチは、カッターで切り裂かれていた。


 体をかがめ、テーブルの下をのぞく。財布の中に入っていたカードやお金が落ちていた。踏みつけられて曲がったペンもある。


 月子は冷静に、カバンからスマホを取りだした。ふきんの中にあったスマホは異臭を放ち、画面にひびが入っている。


 楽屋に、シャッター音が鳴り響いた。


 カバンの中、台本、ペンケース、散らばっているものすべてを写真におさめていく。ひととおり終えると、カバンをひっくり返し、詰め込まれていたふきんを振り落とした。


「わざわざこんなことするなんて、暇な人たち」


 カバンとスマホをテーブルに置き、財布を持ってしゃがむ。


 落ちていたお札と小銭を、一つずつ拾い上げ、財布に入れる。


「こんなの、なんてことない。大丈夫。私は平気。私は、惨めなんかじゃない」


 陰鬱な声が、静かに響く。


「私はアカデミー賞を取った女優よ。映画もドラマもCMも決まってる。曲を出せば話題になるし、再生数も一千万は余裕。テレビには引っ張りだこだし爪痕を残してる」


 渡辺月子は、特別だ。普通ではない。


 普通の人間には理解できない存在であり、理解してもらおうとも思っていない。


 月子の眉が、くっと寄る。


「私は、ちゃんと結果を残してるんだから。あいつらみたいな無能な凡人とは違うの」


 仕事にのめり込み、テレビに出続けるほど、それ以外は自分から離れていく。それも仕方のないことだ。なぜなら月子は特別なのだから。


 女優として馬鹿にされまいと経験を重ね、普通の中学生と同等以上に勉学に励んできた。その気高い姿勢は、さらに凡人を遠ざける。


 学校でいい成績をとれば顰蹙ひんしゅくを買い、仕事で結果を残せば、妬み嫉みが向けられる。


 それでも月子は構わない。仕事で高い評価をもらい続ければ、自分は惨めではないと思えるから。


「こんなことで満足するようなやつらとは違うの。わたしは上に立つの。女優としても、人としても、上に……」


 立ち上がり、財布をカバンに入れた。ちゃんと数えたが、金は盗られていなかった。さすがにその勇気はないのだろう。


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