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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
二年目
70/139

最低な自分 2




『ママ。大河決まったの? おめでとう! がんばってね! 次に休めるのは九月くらい? パパもそのくらいが休みだと思うから一緒にお出かけするといいよ。温泉とかどう?』


『パパ、全国ツアーお疲れさま。まだ中盤だよね? どこもかしこも熱狂してるでしょ? いいなぁ、俺も見に行けたらよかったのに』


 返事を待たずメッセージアプリを閉じて、記事漁りに戻る。


 今度は月子がインタビューを受けているものを見つけた。女性向け雑誌から抜粋されたものだ。


 記事には、さまざまなテイストで撮影された月子の写真ものせられている。これはまだほんの一部で、雑誌にはかなりの量が掲載されているらしい。


 月子の写真を、真剣な顔でスクロールしていく。


 すぐに、見抜いた。月子が疲れていることを。


 どの写真も、ある意味完璧だ。隙がない。渡辺月子としてあるべき姿を映している。それでも純がわかってしまうほどに、月子は今、危険な状況にいる。


 純はスマホをタップし、月子にメッセージを送る。


『おはよう、月子ちゃん。夏休みもずっと仕事だよね。がんばって。応援してる。でも、ほんとうにだめなときはちゃんと、マネージャーさんを頼ってね。頼ることは、難しいけど大事なことだよ』


 これだけで、解決には至らない。月子にとって気休めにしかならない。


 純は眉尻を下げる。


 月子が壊れるとわかっているのに。純には救ってあげられない。それでも、純にできることを、精いっぱい続けていくしかないのだ。


 ため息をつき、ワイヤレスイヤホンを耳にはめる。


 プレイリストに入った父親と月子の楽曲を、ランダムに流し始めた。ジャンルは違えど二人ともカリスマ性があり、激しい曲を歌う。人気が出て当然だ、と純はほほ笑みながらうなずく。


 とても穏やかで、平和な時間。一人でいる時間は、心に平穏をもたらしてくれる。ここに温かいコーヒーがあればもっとよかった。


 ここ最近で、今が一番、メンタルは安定している。


 ――せっかくこっちは、歌もダンスもできない新人を受け入れてやってるのに。――


 ――俺はみんなとは違うって行動で言われてるような気分になるんだよ。――


 ――出たい出たくないの問題じゃねえんだよ! イノギフのメンバーなんだから顔出さなきゃだめだろって言ってんの! ――


 今までメンバーに言われた言葉が、突然フラッシュバックする。顔をゆがめ、頭をかかえながらも、そのとおりなのだと自責した。


 ほんとうにグループを成長させたいのであれば――ほんとうにグループのために力を使いたいのであれば、もっとできることはある。


 両親や月子に対してするように、こまめに連絡を取り合い、感想を送りつけること。体調を読み取って気を遣ったりはげますこと。


 さきほどしていたように、どういう記事が上がっているのか、記事によってどう評価をされているのか分析だってできる。


 でも純は、イノセンスギフトのために、積極的に動こうとはしていない。


 ため息をつきながら、背もたれにのしかかる。天井を向き、目をつむった。


「俺はパパとママが大事。月子ちゃんのことも。社長の意思だって大事にしたい。……でも」


 できないのだ。それが社長に頼まれたことで、自分のやるべきことだとわかっていても。


 自分の身を削ってでもやりたいと、思えないのだ。


「最低だな……俺は」


 ふと、部屋の外から、歩き回る音が聞こえた。スマホの画面を点ける。そろそろみんなが起き始める時間だ。


 このあとは全員で朝食を食べ、荷支度を終えたら東京に帰る。もうしばらくしたら、スタッフか熊沢が起こしに来るはずだ。


 純は立ち上がり、スタッフたちが来る前に三人を起こして回った。夕飯を持ってきてくれたお礼も、忘れずに告げる。



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