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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
二年目
49/139

間も要領も悪いばかりで 2




 純は無視を決め込むつもりだったが、ふと、要の姿が視界に入る。


 要は不満げに顔をゆがめ、マネージャーを見すえていた。それもそのはず、高校は違えど、要も同じ状況だからだ。


 仕事の空き時間に、学校の課題をするようすを純は何度か目にしていた。


「困るんだよなぁ、給料はらってるんだから、イノセンスギフトとしてちゃんと仕事してくれないと。いくら社長や会長とつながってるからって、さすがにこれだけ忙しくなったら休ませることも難しくなるんだぞ?」


 確かに、アイドルグループとして仕事が増えるのは喜ばしいことだ。しかしそれは、学業の時間を犠牲にしたうえで成り立っている。


 タレントコースや芸能科ではない高校に通う二人には、苦行を強いられるようなものだ。


「おまえらはアイドルなんだからさ。それで卒業できなくても、普通の高校選んだ自業自得、だろ?」


 要の歯ぎしりが小さく聞こえた。今にも怒鳴り散らす勢いで口を開く。


「てめっ」


「はい! お気遣いありがとうございます!」


 やけに大きい純の声が、要の言葉をさえぎった。要だけでなく、他のスタッフたちも純に顔を向ける。


「みんなに迷惑かけないように、がんばります。わざわざ心配していただいて、ありがとうございます」


 純は嫌みなく、にっこりと笑っている。膝の上に置いていた手は、震えていた。


 微妙な空気が流れるなか、マネージャーの威圧的な舌打ちが大きく響く。話はなに事もなかったかのように進んでいった。


 


          †




「じゃあ、今日のところはこの辺で」


 プロデューサーは立ち上がり、会議室を出ていく。壁際にいたスタッフたちも、ぞろぞろと続いていった。


 熊沢が部屋を出ようとしたところで、まだ残っているイノセンスギフトに顔を向ける。


「あと三十分後に新曲のダンスレッスンを始めるから。それまでに準備しとくようにな」


 一斉に返事をすると、熊沢はうなずき、去っていった。


「どうする?」


「着替えに行こうか」


 メンバーたちがそれぞれに会話している中、純はスマホを取りだし、メッセージアプリを開いた。すばやく文字を打ち込んでいく。


『パパ、どうしよう。アイドルグループが二年目で大きいライブを単独でやって、CDを三曲も出してCMを四本。これって普通なの? パパだって、一年でこんなには曲出さないでしょ?』


 忙しいのか、父親からの返信はない。既読もつかない。


『あ、でもパパはレギュラー番組を持ってるしアルバムの制作もあるから……。あれ? もしかして普通なのかな? でも、すごく不安なんだ。どうして不安なのかもわからない。忙しくなるってことに、俺がパニックになってるだけ?』


 ためらいながら、続けてメッセージを送ろうとしたときだ。


 純の前で、テーブルがたたかれる。その衝撃に、スマホを落としそうになった。なんとか落とさずに済んで顔を上げると、要が純の真横に立ち、不快気に見下ろしている。


「さっきの何?」


 静かで、トゲトゲしい声だった。この状況に、他のメンバーも凍り付いている。


「あれわざとだろ?」


「あ……その……」


 要が放つ、嫌悪と不快感がのしかかってくる。


 純の動悸どうきが激しくなり、何か言おうにも声が出ない。視線を下げると再びテーブルを叩かれ、戻さざるを得なかった。


「偽善者ヅラ気持ちよかった? それとも被害者ヅラしてる自分に酔ってるだけ? いい子ちゃんぶって、マジきしょいんだけど」


「ごめん……なさい」


 スマホをぎゅっと握り、再び視線を下げる。要を守ったつもりの行為が、要のプライドを傷つけた。


 周囲から向けられる同情の視線が痛い。激しい動悸どうきは、まだ続いている。


 要は冷たい目をしたままため息をつき、その場を離れていった。




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