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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
二年目
48/139

間も要領も悪いばかりで 1




 この日、制服姿の純は事務所の会議室にいた。イノセンスギフトのメンバーと一緒に、テーブルを囲うよう座っている。

 壁際には、グループに携わるスタッフたちが背をつけており、持っている資料に視線を落としていた。


 テーブルの上席に座る初老の男性プロデューサーが、にっこりと笑う。


「来て早々集まってくれてありがとうございます。今回集まってもらったのは、今後のスケジュールについて伝えておきたかったからです」


 手元の資料をちらりと見る。


「個人でのスケジュールは、各自マネージャーから確認しておいてください。……ここではグループ全体のスケジュールを伝えます」


 純はプロデューサーに顔を向け、そのキツネ目で読み取っていく。プロデューサーからにじみでている自信から、実力を感じ取った。


 数多くのアイドルを世に出してきた経験をありありと見て取れる。


「まず、新曲。今年は三曲、シングルでリリースします。三曲ともミュージックビデオと特典映像をつけることになりました。これだけでもすごく忙しくなるんですが……」


 メンバーやスタッフたちは真面目な顔でうなずいていたが、純だけは顔をしかめていた。口元に握りこぶしを添え、目を伏せる。


「なんと! CM、四本、契約が決まりました! 」


 おお~という声と一緒に拍手が上がる。純だけが、それに続かない。


「これね、すごいことですよ! グループのイメージがいいってことだし、知名度がもっと高くなるチャンスなので、頑張ってくださいね。で、これが最後」


 興奮していたプロデューサーはせきばらいをし、あらためて声を張る。


「今年、夏! イノセンスギフト、二大都市でライブ開催決定しました! 単独でアリーナレベルの規模です!」


 メンバーとスタッフから、大きな歓声が上がる。

 規模の大きいライブを開催できると聞けば、手をたたいて喜ぶのも当然だ。アイドルでありアーティストという立場なら、これほどまでに嬉しい知らせはない。


 そんな中、純は眉をひそめ、ますます考え込んでいた。


「イノセンスギフトほどの人気なら、ほんとうは全国ツアーも展開できると思います。でも、メンバー全員、まだ学生ですからね」


 純の視線が、斜め前の席に向かう。喜び、笑顔を浮かべるメンバーの中で、違和感のある者がいた。


 氷川ひかわかなめは、先ほどから純と同じように微妙な表情を浮かべ、腕を組んでいる。


 ワンレンショートのボブヘアで、華奢きゃしゃな体つき。目元のほくろが色っぽい高校二年生だ。


 純は要に視線を向けつつ、頭を回転し続けていた。


「いやあ、すごいですよ、みなさん。ファンクラブの人数も順調に増えてますし。このままいけばスターになるのも夢じゃないですね」


 プロデューサーの言葉に、首をかしげた。漠然とした不安が、純を襲ってくる。


 覚えるダンスが多くなるとか、負担が増えるとか、そのレベルの不安ではない。もっと深い場所にしこりが残るような不安だ。不安の正体がなんなのかはうまく説明できない。


「純くん……」


 となりに座る竜胆りんどう歩夢あゆむが、ひっそりと声をかけてきた。女の子のようなかわいらしい顔に、もの悲しい表情が浮かんでいる。


「どうしたの? 体調、よくない?」


 身長の低さにくわえて上目遣い。女性ファンだけでなく、男性相手にもときめかせる力がある。


「……いや」


「そうだよなぁ。星乃はこの中じゃ、一番大変だからなぁ。気が滅入るよなぁ」


 プロデューサーの隣に座る熊沢が、これ見よがしに言い放った。


「ダンスも歌も覚えることがたくさんあるし、仕事量も今まで以上に増えてくる。なんにもできないおまえが一番苦労するのは目に見えてるよなぁ」


 壁際にたつスタッフから、熊沢に同意する攻撃的な視線が向けられる。


「そのくせ、高校は名門の輝優館きゆうかんだろ? いい成績おさめないと卒業できないもんなぁ? 大人しくタレントコースいってたらこんな状況にはならなかったのにな?」

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