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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
二年目
44/139

才能ナシは転がり続ける




 父親はマルチに仕事をこなす大物タレント。母親は元アイドルの大女優。


 その息子である星乃ほしのじゅんは――。


『ドラマの宣伝でバラエティの仕事が増えるんじゃない? 特別おもしろいことは言わなくても大丈夫。普段通りのママを出したほうが魅力的に見えると思う』


 制服姿で、スマホに文字をうちながら街を歩く。


『パパ。あの人、何かやらかしそうな気がする。たぶんお酒だね。あれはもう依存症のレベル。パパとはめったに共演しないだろうけど、知ってたほうがいいと思って』


 耳にはまったイヤホンは、音楽がランダムに流れていた。ちょうどロックの激しい曲が終わり、ゴシック調の暗い曲が流れ始める。


 ふと足をとめ、顔を上に向けた。


 大型ビルの巨大ビジョンに、星乃恵(父親)のプロモーションビデオが流れている。薄暗い照明の下でエレキギターを弾きながら、汗だくで歌っていた。近いうちに開催されるライブツアーの宣伝だ。


 別のビルの巨大ビジョンには、ボディクリームのCMが流れ、女優の美浜妃(母親)が宣伝している。


 純の顔に笑みが浮かんだ。スマホをポケットに入れ、先を急ぐ。




   †


 


「星乃ぉ! だから違うっつってんだろ!」


 ダンスレッスンの男性講師が、稽古場で怒鳴り声を響かせる。純は震えながら頭を下げた。


「すっすみません……」


「おまえアイドルとして一年過ごしてきただろ! そろそろ踊れるようになれよ!」


 大物芸能人の間に生まれた純は今、アイドルになっていた。


 父親似のこっくりとした赤毛と高い身長に、母親似の涼し気な目。見た目こそ申し分なかったが、アイドルとして致命的な欠点があった。


「一年ありゃあな、レッスン生は五分で踊れるようになんだよ! おまえレッスン生以上の努力してんのか? あぁ?」


 純は、どうしてもダンスを踊ることができなかった。振り付けを覚えるのに時間がかかり、笑みを浮かべる余裕もない。


「おまえいつになったら本気を見せてくれんだよ! イノセンスギフトとしてもっとがんばれよ!」


 イノセンスギフトは、純がメンバーとして所属する八人組のアイドルグループだ。


 大手芸能事務所のフローリアミュージックプロダクションが手掛けている。純の父親である星乃(ほしの)(めぐみ)と同じ事務所だ。


 レッスン生でもなかった純は、事務所の会長と社長にスカウトされてデビューした。ダンスも歌も、ド素人の状態で。


「あ~もう、おまえがいるとほんとイライラするんだよな! 下手すぎて!」


 純はうつむき、おなかの前で手を組んだ。講師の荒れた感情が突き刺さってくる。


 壁際にひかえていたスタッフのひそひそ声が、純の耳に嫌でも入ってきた。


「ああやって震えればなんとかなると思ってんのかな」


「これだから二世はいいね~」


 おなかが痛くなり、吐き気がする。


 誰も、助けてはくれない。


「ほんと、おまえ抜きのイノギフをずっと見てたいよ! 目障りなんだよ! 足引っ張りやがって。残って練習して、覚えるまで帰るんじゃねえぞ!」


「はい。すみません……」


 何度怒鳴られようと、何度叱られようと、この恐怖やいたたまれなさに慣れることはない。


 純がアイドルに向いていないことは、純自身が一番わかっている。


 それでもアイドルを続けるしかなかった。社長と父親の、約束のために。



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