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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
一年目
41/151

ついにそのときがやってきて 1




 この日、純が到着したころから事務所全体が騒がしかった。行きかうスタッフの表情は硬く、不穏な空気をにじませている。


 ついに起こったかと、純は悟った。当然、なにが起きたのか、純は知っている。


 それでも何食わぬ顔で、バスが待つ裏口へと向かっていった。


「聞いた? プラネットの茂木さんが捕まったんだってよ」


「ああ、だから事務所のようすちょっとおかしかったんだ……」


 イノセンスギフトの耳にそのニュースが届いたのは、スタジオの控室で撮影準備をしているときだった。


 スタッフやメンバー同士のひそひそ声が、ヘアセット中の純の耳に届く。


「大麻やってたんだって」


 歩夢の声だ。千晶の声が続く。


「ヤバいでしょ。あんなに売れてる人たちなのに。どうなんの?」


 さまざまな感情をのせた、さまざまな人物の声が、控室に満ちていく。


「今年の活動全部取り消しだって」


「たしかライブ近かったんじゃなかったっけ」


「大丈夫かな」


「まさかあの茂木さんがやってたなんてね……」


「そんなようすなかったのに……」


「こないだも音楽番組の収録出てたよね? あれもカットだよね?」


 純は話し声に反応することなく、鏡を向いたままだ。髪形が変わっていくようすをじっと見つめていた。


 ヘアセットが終わると、メイクスタッフは純から離れ、別のスタッフと例の話に加わる。


 茂木が大麻所持で捕まったというニュースは、誰もが口にしなければ気が済まないほどの、大事件だった。


 気の毒だが、純が気付いた時点ではもうどうしようもない状態だった。今後は、他のメンバーがどうにか対応して、グループで芸能活動を続けていくことだろう。


 ――あのグループなら、大丈夫。誠実で、勇敢で、心根の優しい人たちだから。――


 ふと、純は鏡に映る自分の姿に目を向ける。


 セットされた赤髪がどうも跳ねすぎて不自然なように見えた。鏡を見ながら、固くなっている毛束をつまむ。


「なに自分の顔じろじろ見てんだ、ナルシスト気取りか?」


 鏡の中で、純の隣に立つ熊沢と目が合った。とりあえず顔を向け、謝っておく。


 この時点で、嫌な予感しかしなかった。熊沢は暑苦しい顔で、嫌みったらしい笑みを浮かべている。


「そういえば、おまえの父ちゃん、プラネットと仲が良かったよな」


 控室の中は静まり返った。純の心臓が、激しく脈をうち始める。


 熊沢が今からなにを言うのか嫌でもわかる。頭の中でやめてくれと悲鳴をあげる。


「おまえの父ちゃんもやってんじゃないの?」


「やってません」


 自分でもびっくりするほどの、冷めた声だった。


「憶測でモノ言うのやめたほうがいいですよ」


 純にしては攻撃的な口調だ。熊沢はさらに意地悪く口角を上げた。


「珍しく反論してくんじゃねえか。ってことはやってるな?」


「やってないって言ってますよね? なんで決めつけるんですか? どうせ本人に確認する勇気もないんでしょ?」


 不快気に見つめ返す純にイラ立ったようで、熊沢はこれ見よがしに声を張る。


「たとえやってなかったとしても、プラネットの茂木が薬やってたことは知ってたんじゃねえか? そのうえで放置してたのかも」


 純は眉を寄せ、熊沢をにらみつける。


 ――違う! 放置するよう言ったのは俺! パパは、なんとかしてあげたがってたのに! ――


 そんな余計なことを熊沢に言ったところで、変に茶化されるだけだ。


「やっぱその反応はやってんなぁ」


 熊沢は下卑た笑みで純を見下す。


「だって、誰も気づかないような影が薄い茂木をおまえが一番に気付いたんだもんな。それくらい仲がいいってことは知ってたとしてもおかしくねえだろ。で、どうなんだ? おまえの父ちゃんもやってるんじゃないのか?」


「してません!」


「やっぱりグループの中で浮いてるやつって何かあるんだよな。空気読めないくせに足だけは引っ張るお荷物だったんだよ、茂木も、おまえの父ちゃんも」


「だからやってませんってば!」


 純の否定は、熊沢の威圧的な声にさえぎられる。


「それにおまえの父ちゃん、元ヤンだもんなぁ。社長も扱いにてこずったって聞くしよ。星乃恵の身なりじゃ薬やっててもなんもおかしくねえよな」


 純はカウンターをたたき、立ち上がった。

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