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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
一年目
33/151

みんな、まだまだ、これから 2




 伊織のななめとなりに座る、千晶だった。キレイに整った顔は冷ややかに固まり、強い瞳を伊織に向けている。


「星乃のことがむかつくのは否定しないけど。自分たちが本来するべきことを棚に上げてるのは、こっちも一緒なんじゃない?」


「センターみたいな優等生は劣等生をかばうんだ? ああ、そういえば、坂口は星乃と立場が似てるもんなぁ」


 千晶は静かに眉をひそめる。会議室は、気まずく、重苦しい空気にどんどん支配されていった。


「月子にも、同じようなこと言ってたね。俺や星乃よりも歴長いくせに、揚げ足取りばっかで自分の行動は考えないんだ?」


 両者とも負けるつもりがない。伊織が口をひらいたとたん、はつらつとした声がかぶせてきた。


「確かに、純もグループのために頑張らなきゃいけない。でも何をどうがんばればいいのか、俺たちで教えるべきだろ?」


 空がにこやかに、堂々と続ける。


「誰もやるつもりがないなら、俺がやるよ」


 伊織はななめ前に座る空を見ながら、背をもたれる。冷ややかなため息をついて、意地悪く口角を上げた。


「ほんと、空は優しいね。俺は無理。仲良くできるわけない。……で? 俺以外、みんな、星乃を残したいってことでいい? でもさ、正直難しいと思うよ? 本人が辞めるって言うかもしれないし」


 伊織の言葉に空気が張り詰める中、要が発言しようと口を開く。しかし伊織がさえぎった。


「星乃が戻ってきたところでなにも変わらないと思うけど? 戻ってきたところでみんな、結局なにもしないんだろ? 空だけにフォローさせるのが目に見えてる。この場だからみんな、きれいごと言えるだけなんじゃない?」


 誰もが口を閉ざす中、伊織の視線が、千晶のとなりであり要のななめどなりに座る人物へ向かった。


「竜胆はどう思う?」


「え?」


 そこに座っていたのは歩夢だ。今までずっと、顔を伏せて目立たないようにしていた。まさか自分が名指しされるとは思っていなかったのか、伊織を見て目をぱちくりとしている。


「俺はちゃんと見てたよ。自分が嫌な目に合うのが嫌だからって、星乃から逃げたよね? ああ、それは爽太もだけど」


 ぎくりと震える爽太を横目に、伊織は続ける。


「もしかして今の時間も黙って逃げようとしてた?」


 歩夢の目が、ぎこちなく泳ぐ。


「いや、えっと……」


「別にいいけどね。どうせ他のメンバーと同じようなこと言うんだろ? 偽善ぶった優しい意見をさ」


 ヘビににらまれたカエル、とはこの状況を指すのだろう。伊織の視線に、歩夢は震えながら目を伏せる。


 伊織と決して目を合わせようとせず、ぎこちなく口を開いた。


「まだ、事務所入りたての一年目だから、なにもできないのは、あたりまえだと思う。僕たちだって、最初はなにもできなかったし……」


「だとしたら、辞退でもすればよかったんだよ。今だって、別に辞めたくても引き止める人はいないだろうし」


「そう……だけど、でも……」


「俺たちでフォローできない相手なら、抱え込むべきじゃないんだよ」


 歩夢は隣に座る千晶をチラチラと見ている。千晶は息をつき、フォローした。


「このグループが、何年続くかわからないけど、この程度のことをみんなが受け入れて乗り越えないと、長くは続かないと思う」


 今ではなく、未来を見すえて考えなければならない。グループであればなおさら、感情的に決めるべきではない。


「そもそも、星乃をスカウトしたのは会長で、グループに入れるって決めたのは社長だろ。俺たちに辞めろなんて言う権利はない」


 千晶はそこで、ためらいがちに目を伏せる。しかし決心した強い瞳を、みんなに向けた。


「俺たちがデビューする代償が星乃の存在なら、俺たちは甘んじてそれを受け入れないと。たとえ、どんなに星乃が嫌な奴だったとしてもね」


 反論は、ない。


 伊織のとなりで飛鳥がうなずき、ため息交じりに返す。


「そもそもスタッフたちが、星乃くんに辞めてほしいって思ってるんだよね」


 要も同調するように吐き捨てた。


「自分たちで社長と会長に言えばいいのに。……どうせ、俺たちは大人に従うしかないんだし」


「そうだね」


 飛鳥は伊織に顔を向ける。伊織は不満げに正面を見据え、腕を組んでいた。


「伊織が言ってることも、一理ある」


「でも星乃は残したほうがいいって?」


 ぶっきらぼうな物言いに臆することなく、飛鳥はうなずいた。


「うん。伊織の言うとおり、純くんが戻ってすぐはうまくいかないかもしれないけどね。俺たちがちゃんとかかわるようにすれば、少しずつでも変化はあると思うから」


 飛鳥は、それぞれのメンバーの顔を見渡す。爽太のとなり、誰も座っていないイスに視線を止めた。


「ほんとうはさ、こういう話し合いに、純くんもいるべきだったよ。俺たちが勝手に決めるんじゃなくてさ。純くんが今何を考えて、どういう気持ちでいるのか、誰もわからないだろ? いつかまた、純くんも含めて話し合いができるといいね」


 飛鳥の言葉に、それぞれが周りの反応を確認しながら、ぎこちなくうなずいた。


「じゃあ、辞めさせないってことで。……マネージャーには俺が報告するね」


 それ以上純のことを口に出す者はいなかった。話し合いは、終わった。


 ほとんどのメンバーは、早々に会議室を出ていく。伊織のあとに部屋を出た飛鳥は、振り返った。


「あ、二人はカギを返しといて」


 部屋に最後まで残っていたのは、最年少の歩夢と千晶だ。二人がうなずくと、飛鳥は伊織とともに離れていく。


 二人だけの会議室は静かだ。冷ややかで重苦しい空気が尾を引いている。


 歩夢は立ち上がり、テーブルに置かれたカギを手に取った。


「千晶、はやく返して帰ろう」


 千晶は顔をしかめたまま、ゆっくりと腰を上げる。その姿に、歩夢がバツの悪い顔で言った。


「ごめんね。さっき、代わりに言ってもらっちゃって」


「別に」


 そっけない返事に、歩夢は何も言えなくなる。


「誰もわからない、か。確かに、あいつのこと、よくわからない……」


「え?」


 千晶の顔には、影が差していた。言葉にならないほどの強い悲哀が浮かんでいる。


 歩夢と目が合うと、浮かんでいた感情は消えた。いつもどおりの冷徹な顔になる。


「ごめん。竜胆がカギ返しといて。俺、このあとも仕事あるから」


「あ、うん……」


 千晶は一人で、足早に部屋を出ていく。みなが向かっていった方向とは逆のほうへ歩いていった。



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