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星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
一年目
32/139

みんな、まだまだ、これから 1




「じゃあ、あとは七人でどうぞ」


 熊沢は会議室のカギをテーブルの中央に置いた。


 テーブルを囲んで座るのは、イノセンスギフトのメンバーだ。興味なさげに頬づえをつく者もいれば、いぶかしげに熊沢を見つめる者もいる。


「話し終わったらカギ閉めて受付に返しといてくれ」


 熊沢は座っているメンバーたちを見下ろし、鼻をならす。


「みんなで決めたことなら、さすがに社長も従わざるをえないだろ。最初は七人でデビューするはずだったんだから」


 返事のないメンバーに、圧のある笑みで続ける。


「これはおまえたちの今後につながることだからな。よぉく話し合って決めるんだぞ」


 熊沢は背を向け、部屋を出ていった。廊下から聞こえる硬い足音が、だんだん遠のいていく。


 音がまったく聞こえなくなったころ、頬づえをつく要が声を発した。


「なにあいつ。なんとしてでも星乃を辞めさせたいんだな」


 となりに座っていた空が苦笑した。


「純が辞める前提で話してたよね、あれ」


「俺たちの意思を尊重するふりして、お望みの答えが欲しいだけだろ」


 空の正面に座る、グループ最年長の飛鳥が口を開く。


「じゃあ、どうする? ……純くんのこと、このままでいいって今から伝えに行く?」


 空が意気揚々と立ち上がった。


「うん、いいよ、なんなら俺が……。あれー……?」


 メンバーたちの反応を見て、座りなおした。


 空と要、飛鳥以外は黙り込んだままだ。それぞれがそれぞれの出方をうかがっている。


 飛鳥はメンバーの姿を見渡し、ため息をついた。


「確かに、俺も正直、思うところはあるよ。でも事務所が決めたことに、俺たちが目くじらを立てることでもないと思うんだ」


 眠そうなたれ目に反し、声は堂々としている。メンバーも真面目な顔を向けた。


「とにかく、このままの状態は良くない。同じグループとして受け入れるなら、助け合う必要があるだろ。ダンスのことも仕事のことも。……少なくとも俺は、マネージャーみたいな接し方はしたくない」


「そうだよね! あんなのいじめだよね!」


 触発されたように空が声を上げる。


「ボロクソ言われてるけどダンスだってうまくなってるじゃん。一人で練習も続けてるみたいだし」


 とたんに、空気が重くなる。誰もが神妙な顔で考え込み、なかなか声を発そうとしない。その光景に、空は首をかしげた。


「え?なに?」


 向かい合う飛鳥と空の、ななめとなりに座る爽太が口を開いた。


「それは、渡辺月子がみんなの代わりに、教えてあげてたからじゃない?」


 空は目を見開く。


「え? そうなの?」


「それがなかったら、今もまったく踊れてないと思うよ?」


 飛鳥が眉尻を下げてうなずく。


「うん、俺もそう思う。純くん、稽古中もずっと委縮してるみたいだし、あれじゃ教えてもらっても身につかないんじゃない?」


 アイドルグループとしては深刻な状況だ。同じ環境の中、一人だけ、明らかに出遅れている。あの環境では、うまくいくはずもない。


 重く沈んだ空気の中、飛鳥の静かな声が続く。


「俺たちが、純くんに合わせるほうがいいと思う。純くんが俺たちに合わせるのはまだ無理だと思うから」


「あのさ」


 とげとげしい声が、飛鳥の声を遮った。飛鳥の視線がとなりに向く。


「みんなとなじもうとしないほうも悪いんじゃないの?」


 そこには、伊織が座っていた。腕を組み、不機嫌に眉を寄せている。目つきの悪さも相まって、威圧的な雰囲気に拍車をかけていた。


「ダンスが下手なのはしょうがないにしても、俺たちと関わろうとしないのはあっちのほうだろ? ダンスもわからないなら自分から聞けばいいんじゃん。ほんとうにやる気あるのかわからないんだけど」


 伊織の口調から、反論を許さないとげとげしさがにじみでている。誰もが声を出すのをためらう中、負けじと返したのは真正面に座る要だ。


「そうやって伊織が怖い顔してるから関わりたくないんじゃない? 知らんけど」


 要は頬づえをついたまま平然と続ける。


「渡辺月子も言ってたけど、そういう不満があるなら自分から話しかければ? 自分と話したがらないからどうこうって、かまってちゃんかよ。だっさ」


「協調性を持ったらどうなんだっつってんだよ。素人ってことを盾に使って、助けてもらうのを待ってるだけじゃん」


 伊織のイラ立たしいため息が響く。険悪な空気の中、爽太が冷静に手を上げた。


「沢辺くんに反論したいわけじゃないんだけど、いいかな」


 爽太に視線が集中する中、淡々と続けた。


「単純に、俺たちと話す余裕がないんじゃない? 早めに来てる星乃くんと一緒にいるのが渡辺月子なわけで……。稽古中は話せる雰囲気じゃないし、稽古がおわれば俺たちはすぐに離れるし……」


「どうだろうね? 俺たちに頼らなくても、なんやかんやで他の先輩が助けてくれると思ってるんじゃない? だから何も成長しないんだろうね」


 要が不快気に眉をひそめ、口をはさむ。


「うっざ。だから見放すんだ? 性格悪い先輩だな~」


「ああ? 言われなくても自分で考えて行動しろって話だろ! 俺たちだってそうしてきたんだから!」


 怒鳴る伊織に、要はうんざりした顔でため息をつく。伊織は高圧的に続けた。


「受験のことだってそうだろ。グループとしてこれからってときに、よく普通の高校行こうと思うよな。俺たちはほとんどタレントコースを選んでるのに。協調性もプロ意識もなさすぎ」


「……は? なにそれ、俺にケンカ売ってる? 伊織のそれ、自分に学力がないこと主張してるだけだからね? ああ、ろくに勉強してないからわからないんだ?」


「ああ、そうだったな。そういえば氷川も星乃と同じで学業優先だったんだ。そりゃ星乃の味方したいよな?」


 要が鋭い目つきでにらんでも、伊織は意に介さない。八重歯を見せながら、勝気に笑っていた。


「芸能人なら、仕事を優先するのが当たり前だろ。学業優先でダンスがついていけなかったとしても、自業自得じゃね?」


「マネージャーと同じこと言ってんじゃねえよ。こういう思考になったら人として終わりだから! クソダセえこと言ってるって気づいたほうがいいよ?」


 伊織と要の間で、険悪な空気が広がっていく。飛鳥と空が止めに入ろうとしたとき、甘い声が差し込んだ。


「楽だよね。できない人を、切り捨てるだけだったら」

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