表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星乃純は死んで消えたい  作者: 冷泉 伽夜
一年目
18/139

気の抜けない記者会見 1




 純がスカウトされてから一カ月弱。


 某大手放送局のホールで、イノセンスギフトのデビュー会見がもうすぐ始まろうとしていた。


 マイクを持った芸能記者に、一眼レフカメラを調整する雑誌記者、業務用のカメラを抱えるテレビカメラマン、ニュース番組から派遣されたアナウンサー。


 無人のステージの周囲を、腕章をつけたたくさんの大人たちが囲んでいる。


 会見は、早ければ夜のニュースに取り上げられ、明日の朝のニュースにも流れる予定だ。


 アイドルのデビュー会見にここまで取材陣が集まる状況は、事務所の影響力の強さを大いに物語っている。


「たいへんお待たせいたしました」


 マイクを通した女性司会者の声が響き渡る。


「ただいまより、フローリアミュージックプロダクションが手掛けたアイドルグループ、イノセンスギフトのデビュー会見を始めます。それではみなさんに出てきてもらいましょう」


 盛大な拍手が続いた。


 デビュー曲が流れる中、イノセンスギフトがステージ横から登場し、用意されたひな壇に立ち並ぶ。純の位置は下の段の端だ。


 白い生地に金色の装飾がついた派手な衣装。プロにスタイリングされたヘアセット。みんな、いつもの倍は輝いている。


 司会者が自己紹介をうながし、最年長からはじめていった。全員が自己紹介を終わらせ、最後に声を合わせる。


「僕たち八人がイノセンスギフトです。よろしくお願いします」


 笑顔の八人を撮るために、一斉にフラッシュがたかれた。強い刺激に笑顔が崩れないよう、純はぐっと我慢する。


 しばらくすると司会に指示され、全員着席した。このあとは質疑応答だ。


「坂口君にいいですか? 」


「もうすでにドラマの主演が決まっていますね……」


「坂口くん、今後の抱負を……」


 千晶に対する記者の興奮は尋常ではない。大人たちの視線が、すべて千晶に向いている。


 どんな質問にも、千晶は美しい笑みで真摯しんしに答えていた。金色のまぶしいオーラは他のメンバーと格が違う。くぎ付けになるなというほうが無理な話だ。


 端で大人しくしている純は、千晶以外のメンバーが笑みを保ちつつ、いたたまれない気持ちでいるのを感じ取っていた。

 カメラのフラッシュより、背後やとなりからのしかかる嫉妬、イラ立ちのほうが苦痛だ。


 本来であれば純も同じように、うらやましいなり不快感なり、複雑な感情を持つべきなのだろう。しかし純はこのとき、別のことを考えて気を紛らわせていた。


 この会見はいつ終わるのだろう、ダンスの自主練の時間はあるか、学校の宿題や受験勉強はどうしようか――。


 純が注目されているわけではないため、わざわざ力む必要がない。純一人だけ、明後日の方向を見つめている。


 そう。このときの純は、思い切り気が抜けていた。


「ジャパンTV、ニュースアウトの赤元です。星乃くんに質問いいですか?」


「ふえ?」


 いきなりの指名に、変な声が出た。記者たちはくすくすと笑いながら、純にカメラと視線を向けなおしている。


 純は苦笑しながら、名前を出した記者に目を向けた。


 爽やかにスーツで決めているその男性は、朝のニュース番組でよく見かけるアナウンサーだ。


「星乃くんのお父さまはあの星乃恵さんで、お母さまは美浜妃さんだとお聞きしているんですが」


「はい、そうです」


 取材陣がざわめきたった。純の両親に関する情報を、事務所はすでに広めていたらしい。


 このとき、純は両親のことをすっかり忘れていた。とはいえ聞かれないはずがないのだ。純の両親はテレビを見る人ならだれでも知っている、大物芸能人なのだから。


「今回のデビューに関して、ご両親はどういった反応をされてましたか? 」


「……えっと」


 記者たちの顔を見渡す。誰もが、期待と好意に満ちた目を向けていた。


 純はキツネ目を細める。少なくともスタッフやメンバーには見せたことのない、穏やかな笑みだ。


 息をのむ取材陣。母親のような妖艶さもなく、父親のような快活さもない。しかし二人とは違う、柔らかな魅力を感じさせた。


「両親は、心配してました」


「心配ですか? 」


「特に父が……」


 その瞬間、記者たちの目の色が変わった。純は頭をフル回転させ、おちゃめに笑う。


「おまえは俺に似てダンス下手だからやめときなって」


 どっと笑いが起こる。カメラマンですら歯を見せていた。


 これで正解のようだ。


「確かに、お父さまも苦手にされてますもんね」


 星乃恵はダンスが苦手。アイドル時代が黒歴史でネタ扱い。バラエティの罰ゲーム内容にダンスがあがるほどだ。


 テレビを見ていれば誰もがわかる情報だった。


 いまだに笑っている男性アナウンサーが返す。


「星乃くんのダンスはお父さま譲りってことですか?」


「そうみたいです。よく言われます。おまえは父親のダメなところばっか似たなって」


「いや~、これはダンスを見るのが楽しみですね~」


 会見の場は和やかなムードに包まれる。


 良い手ごたえだ。記者たちの心はつかんだ。積極的に質問したいと、先ほどよりも手を上げる記者が増える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ