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蜃気楼の岬から  作者: ピンギーノ
一・三章 幻想河の遺歌(下)
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79話 現灯ニルヴァーナⅤ

 時は、ローグリン公国から盗賊の隠れ家への帰り道。ニケ、ミサ、そして意識の覚束ぬナズナを連れ、シャヴィら盗賊と共に巨大な亀の背に乗って平原を渡った時まで遡る。といっても、日数にして五日も経ってはいないが。


 「えっと、その、シャヴィさんはどうしてそんなに強いんですか? 城内の騎士や平原の魔獣と比較しても、何というか、正直桁が違うというか……」


 「おいおい。いきなり口を開いたと思ったら、お前にしちゃ随分と直球な質問じゃねェか」


 シャヴィの力は本当に別格であった。夢喰いや河の悪魔といった怪物たちを相手取っている今ならば、より実感できる。

 人間という枠組みでは収まり切らない、圧倒的なプレッシャー。


 彼ならば恐らく、たとえこの怪物らを纏めて一人で相手にしようとも負けることはない。彼が魔力を放つ際の威圧感は、そう感じさせるほどに強烈だった。


 「……今回みたいなこと、もう経験したくないです。俺に力があれば、仲間をこんな目に遭わさずに済んだ。無茶な行動を取ることもなかった」


 「無茶したってなぁ自覚してンのか。なら十分だろ。結局どれだけ強くなろうが、そーいう気持ちが大事なんよ」


 「……はぐらかさないで下さい」


 明らかに言葉を濁すシャヴィに対し、ジトッと湿った目を向けるウィル。シャヴィは「……ったくよぉ」と面倒くさそうにため息を吐くと、何かを思い付いたように両目を少し開いた。


 「言っとくが、おれ自身のエピソードは参考にならねぇ。何故なら、そもそものハナシ強さを得るための理由が違うからだ」


 「…………理由?」


 「まーそれに関しては後々話すこともあるだろうから、今は置いとく。んで仲間を守れるくらい強くなりたいって話だが……それを叶えるとなるとお前にゃまだまだ乗り越えなならねー壁がある。そン中でも手軽で単純な方法を紹介するなら、それは自分にあった得物を見つけることだ」


 「えもの……ですか?」


 ウィルの真剣な食い付きに心中呆れかけるシャヴィであったが、彼の境遇を哀れと思ったシャヴィは、仕方なく続ける。


 「まぁ、言い換えりゃ武器のことだ。おれの得物はコイツ。冒険者としての活動をする最中、偶然出会ったのよ。火山の秘宝を求め、探索するおれ一行。秘宝はなんと、奥底に眠る飛竜が守っていた! って懐かしいな、ガトー?」


 「……ああ、懐かしいな。たしか宝をこっそり奪おうとしたが、誰かさんがどデケェ屁をこいたせいで飛竜を起こしちまってな」


 「あァ? 屁こいたのはテメェだろ。んで飛竜から命からがら逃げ出すも、結局俺たちの手に残ったのは少量の宝石と、いっちゃん重いから最初に"収納"しといたこの緋色の大剣だけでしたってオチ」


 シャヴィは件の大剣を片手で掲げると、突然魔力を込め始めた。すると、剣身からじわじわと炎が噴き出てゆく。


 「この剣は、魔力を込めれば込めるほど炎が出ますよーって術式が内部に組み込まれてる。その術式は、どうやらおれの魔力と相性が良いらしい。……てなわけで、強くなりてェんならお前と相性の良い武器を探すこった。得物の特性を戦術に組み込めるようになれば、そりゃ結構イケると思うぜ?」




 その剣は今、拠のない経緯を経てウィルが収納している。

 剣を譲り受けた当初は、この形見を如何するつもりもなかった。これはシャヴィの得物であり、自分の得物ではない。いずれは彼の故郷まで持って行き、然るべき場所へと返すつもりだ。




 (この剣は、シャヴィさんの形見。あの人は結局、自分の願いを叶えられないまま亡くなった。そして、俺たちの旅を見守るという小さな望みすらも、遂には叶わなかった)


 ふと、彼の言動が脳裏を横切る。

 シャヴィの過去については、本人の口から軽く聞いた。東方の生まれで、亡くなった姉を蘇らせるべく"白き魔法"を求めてこの地にやって来た。しかしその当ては外れ、失意の底に落ちかけたところ……ウィル達の姿を目にした。

 シャヴィは決してウィル達を見捨てなかった。この迷える子供たちの力になることが、自身の心を暗い底から呼び戻すための助けとなると薄々感じていたのだろう。


 だが、それを成すことは叶わなかった。つまり彼は、失意を抱いたままこの世を去ったのである。






 (……俺たちの恩人。旅は、これから始まるところだったんだ。だから、そんな最期は……)


 ――認められるはずもない。




 武装に搭載された煙幕魔法が展開、その数秒後。河の魔獣と対峙する、一艘の船にて。

 ウィルは両脚に意識を集中させると、瞬間的に魔力で覆い……勢い良く跳び上がった。


 「……!! ウィルさん、まさか」


 「さ、策ってそういうこと?? 無茶よ。旅人さんじゃコイツの鱗を傷付けることなんて……」


 ナズナとメナスちゃんは、少年の意図を瞬時に読み取る。彼の策とは、即ち自身が直接攻撃を仕掛けることであった。



 瞬間的な魔力暴発による飛翔。この面子の中で、魔力の出力調整が全く効かないウィルだからこそできる技術。……悲しいかな、命知らずの暴挙とも言い換えられよう。

 魔力操作が不得手とは、つまり戦闘のセンスがないという事実に等しい。例えるならば、時速百八十キロでしか走れない自動車である。融通が利かず、燃費が悪く、何より自他ともに危険に晒される。更には継戦能力に乏しく、仲間との連携も取りづらく、取れる行動の幅が狭く……

 このように惨めな点を探せば枚挙にいとまがないため、ウィルは数少ない長所のみに目を向けた。




 数少ない長所とは、他でもない、爆発力だ。


 魔力の暴発によって生み出される瞬間的なパワーとスピード。それらが乗った攻撃(突進)の威力は、毎回ウィルの想像を超えていた。


 しかし、相手はナズナの秘策を耐え凌いだ魔獣。従来通りの突進戦法では敵を倒すに至らないことは重々承知している。河の魔獣を倒すには、最低でも魔法武装を上回る攻撃力が要るのだ。


 今のウィルの継戦時間は、約十秒。許された時間はあまりに短い。しかし、少年の目は鋭い眼光を放っていた。




 (シャヴィさん、あなたの望みは潰えてなんかいない。燃え盛る炎の光を、剣撃の音を、俺が空まで届かせます)


 飛翔の勢いが停まり、ウィルの身体は河の悪魔の頭上に出た。それと同時にウィルは右手を真横に伸ばし、亜空間に"収納"されたそれを引き抜く。


 ……そして、落下。


 瞬間、ウィルは再び魔力を解き放った。

 両手に持ち替えた緋色の大剣が、爆発的な魔力に呼応して焔の輝きを帯び始める。

 河の悪魔はその煌めきを数コンマ遅れて感知し、貌を上げたが――気付いた時にはもう遅い。魔力で全身を覆う間もなく、緋色の強襲は喉元まで到達し……


 分厚い鱗を斬り裂いた。

 上空から光を纏い急降下する様は、まさしく流星。ウィルの爆発的な魔力と剣が纏う炎のエネルギー。それらに重力が加わったことにより、この一撃は魔獣の堅牢な身体に深傷を与えるのに申し分ない威力を発揮したのだ。




 (…………っ!?)


 一瞬、ウィルの顔が曇る。確かに手応えはあった。しかし、依然として魔獣の殺気は消えない。魔獣の腕に切先をめり込ませながら剣の柄に掴まり、様子を伺う。すると、目下の船から何やら声が聞こえた。

 ……その声を認識した矢先である。




 「ウィルさん……っ!」


 ナズナの魔法武装が、魔獣の腹部……ウィルの足もと付近に突き刺さる。

 ナズナはウィルの意図を理解した途端、考えるよりも先に身体を動かしていた。魔素感知能力が高まった今ならわかる。魔獣を倒すには、まだ足りないと。


 ウィルもまた、彼女の行動の意図を一瞬で見抜いた。一撃で足りないのならば、追撃。魔法武装による巨大な黒槍が、再び空へと飛翔するための足場となった。


 ――っ!!


 ウィルは剣を引き抜き、落下。迷わず黒槍へと足をかける。


 「おぉぉぉぉぉぉっ!!」


 裂帛の意志を込めた叫び声は、身を引き裂かんばかりの魔力量と相まって噴火の如き圧迫感を轟かせた。

 ――継戦時間、残り七秒。大剣を両手で振り回しながら、魔獣の鱗を斬り裂きつつ飛翔。


 ――継戦時間、残り五秒。再び魔獣の頭上に出る。


 ――継戦時間、残り四秒。許される限りのありったけの魔力を、己の得物に注ぐ。刃から滲み出る緋色の魔素塊は、まるでマグマのよう。


 ――残り三秒。飛翔は停止する。確実に仕留めるべく魔獣の喉元を見据え、剣を構える。




 ――そして、降下。


 身体を無理矢理捻りつつ、回転によって斬撃の威力を極限まで高め……切り裂く。

 その手前であった。




 (……!?)


 その時、刹那に感じた()()が彼の動きをすんでのところで鈍らせる。

 頭上に出たならば、そもそも喉元の位置など完璧に捉えることができようか。本来であれば、巨大な頭部のせいで隠れて見えないはずではないか?


 魔力を用いた視覚に関与する魔法であれば、あるいは可能かもしれない。しかし、ウィルはそういった技術を持ち合わせてはいない。それなのに、ウィルは今、確かに魔獣の喉元へと突き進んでいる。




 (…………!! しまった、雷ブレスかっ!?)


 理由は明白であった。一秒もあれば十分に理解できるほどに。

 魔獣は大きな口を開き、上空――ウィルの居る位置へと貌を向ける。溢れんばかりの青白い雷光が、視界を埋め尽くさんとしていた。


 (剣が到達するのが先……いや、ダメだ。ギリギリ間に合わない……ッ!?)


 途轍もない破壊力を秘めたエネルギーだ。至近距離で喰らって仕舞えば剣で相殺など出来る訳もなく、ウィルの身体は粉々に砕け散るだろう。彼は自らの甘さを恨む。最初の一撃で仕留めきれなかったことが、魔獣に大きな猶予を与えてしまったのだ。




 「くるァァァァ!! 喰らえやクソったりゃぁぁぁ!」


 下方から響き渡る、しゃがれた青年の怒声。

 次の瞬間、雷の魔力を帯びたエネルギーは、魔獣の口から爆音を上げながら放射された。


 その軌道は、遥か上空へと一直線。

 ウィルの頭上を、僅か数メートルだけ隔てていた。


 船の急発進による決死の突撃。それによって、魔獣の狙いを僅かに逸らすことに成功した。船大工もまたウィルを信じ、体内に残された魔素を解放したのである。




 ――ッ!!


 懸念は全て消えた。

 歯車の回転を速めるように、魔力を解き放つ。




 回転する炎の軌道は弓の弦のように弧を描き、そのままメナス河へと落ちてゆく。

 灼熱に斬り裂かれた魔獣は一度静止するも、口から放射するエネルギー塊に赤黒い液体が混じっている様を視認するなり……


 ――ォォォォォォォォォッ!!!?


 大気を揺るがすような、恐るべき咆哮を上げた。


 しかしその音圧は次第に細くなり、振動の余韻が残留するのみとなった禍乱の一節。


 魔獣は河へと倒れ、周囲には静寂が訪れた。











 「ウィルさん、起きてください! ウィルさん!!」


 自分の名を呼ぶ、少女の声が聞こえる。どうやら切羽詰まっているようだが……どうにも身体が重く動かし辛いゆえ、その期待には応えられそうにもない。

 それに、この暗さ。瞼の裏からでも判る通り、辺りはまだ夜だろう。申し訳ないと思いつつも、ウィルは再び意識を閉ざし……


 「――さ、寒っ!! あれ、な、ナズナ!? 河の悪魔はどうなって……って、おい、それよりもなんか、さ、ささささ寒いな!」


 「……………………落ち着いて下さい? ちゃんと説明しますので」


 目覚めた後に襲い来るは、全身を突き刺すような強烈な冷気であった。ぶるぶると情けなく震える少年を前に、先ほどまで半泣きだったナズナの表情は一転。湿った目線で見下ろしながら、少年の側に暖房の代わりにと炎魔法を灯す。そして、現状へと至った経緯を簡潔に語り始めた。


 曰く、ウィルは河の悪魔を倒した。

 しかし、彼の身体は河の中へと一直線に落ちていったゆえ、ナズナ達はすぐさま大剣諸共引き上げることとなった。引き上げ自体もなかなか一筋縄ではいかず、ナズナの魔素感知とメナスちゃんの蔓のお陰でどうにかなったとのこと。彼が異様なまでの寒気を感じた理由は、単純に全身が河の水に浸かって濡れているからである。


 「……その、迷惑かけたな」


 「いえいえ。ウィルさんがいなければ魔獣は倒せなかったですし。当然ですよ〜」


 「……メナスちゃんも、手伝ってくれたんだって?」


 「……? そうですよ。当然のこととはいえ、いちおうお礼は言っとかないとですね」


 「………………そうか。……そうだな」


 ウィルは申し訳なさそうに頭を下げるも、ナズナはそれを止める。今回の勝利は四人全員で獲ったものであり、一番の功労者たる少年を助けるのは当たり前のことだろう。


 「……そうだ、船大工さんは」


 「あ、そ、それは、えっと……」


 功労者といえば、先ほどから妙に静かである。こういう時に真っ先に踊り出すような男が居ないと違和感を感じ取ることに、さほど時間はかからなかった。だが、ウィルはナズナの浮かべた"えも言えない"表情から瞬時に事態を読み取る。


 「そうか。彼は……」


 「…………」


 ウィルはそう呟くと、辺りを見回す。自分たちが乗っている船の彼方此方が、先の戦いによって損傷している。船大工の戦いは終始この船と共にあった。水上を駆けて、駆けて、最期にはウィルの命をも救ってみせた。

 彼の叫びと疾走は、最後の瞬間まで情熱に満ちていた。ウィルの大剣の炎にも負けないほどに。


 「最後に、何か言ってたか?」


 「…………ごめんなさい。ウィルさんを引き上げるときに、近くに寄るべく操縦をしてもらって……私が気付いた時にはもう、魔素へと還ってしまいました」


 「……いや、謝ることはない。それが聞けただけで十分だよ」


 船大工は、最後まで船と共に。

 きっと、己が願いを貫いたのだろう。





 (……)


 ……数分が経過していた。

 感傷に浸っている場合ではない。河の悪魔は倒したものの、元凶たる夢喰いは未だ剣士や長が引き留めている最中だから、彼らの為にも一秒でも早く夢の外へと出なければならない。


 「……私が操縦していきますね。なるべく速く走らせるので、ウィルさんたちは何かに掴まっててください」


 ナズナはそう告げると、ウィルたちに背を向けて操縦室に向かわんとする。


 「ナズナ、ちょっと待ってくれ」


 ウィルは突然小声で囁き、彼女の腕を掴んだ。


 「えっと……早く脱出しないとダメなんですけど?」


 「黒槍の武装、まだ一本残ってたよな」


 「残ってますけど。もっとも、魔獣はやっつけたのでもう必要ありませんが」


 「わかった」


 ナズナの返答に頷くと、ウィルはその場で振り返り船首へと歩き始めた。


 (……?)


 質問の意図がわからない。といった顔で、彼の背中をきょとんと見つめるナズナ。何せウィルの行先にあるものといえば、"一人"の人物のみ。今回の戦いの功労者の一人かつ、夢の世界の崩壊――即ち夢喰いの討伐を依頼した存在。




 「…………」


 土地の魔素は少年の両目を覗き見ながら、まるで何かを待つかのようにニヤニヤと微笑んでいる。


 「……ウィルさん、えっと?」


 「このまま外に出ても、何もしなくても。どちらにせよ夢に喰われる。……そうだろ? "メナスちゃん"」




 船首にて佇む存在――メナスちゃんは、長い髪を夜風に靡かせながら二人を見下ろす。その表情の奥の感情は、ナズナには読み取れない。


 「続けて良いわよ? 折角の推理ショーだもの。そのくらいは待ってあげるわ」


 「その言葉、もう認めてるも同然じゃないか。……違和感は割と初めからあった。『戦える力は残ってない。この空間と貴方たちの命を持たせることで精一杯』と言っていたな。だが一昨日、貴女はニケに魔法を教えていた。世界の維持に力が掛かり切りの貴女が、なぜ魔法を教えることができる?」


 「……そんな前のことよく憶えているわねぇ。黒髪の旅人さん、自分も役に立ちたいんだって躍起になっていたわ。それを断るなんて、ちょっと薄情じゃない? それに、私が魔法を使わなくても教えること自体はできるわよ?」


 「……この戦いで役に立つような魔法を、実演も無しに教えると。一体どんな魔法を教えたんですか」


 「ごく簡単な植物魔法よ? それこそ、さっき旅人さんを引き上げた、ちょっと頑丈な蔓を出すみたいな」


 「なるほど。では、実演さえできればもっと良い魔法を教えることが出来たと?」


 「ええ、そうね。彼はまだ魔法初学者レベルでしょう? 魔法で最も重要なのはイメージ力だから」


 ウィルはため息を吐くと、一瞬だけ目線を地に下ろす。そして夜風が再び肌を撫で、凍えるような冷気に包まれた後。

 今一度船上の"彼女"に向けて鋭い眼差しを送った。




 「では……先の戦いの、魔法武装の操作。本来であればミサとニケと"妹"さんの三人分の魔力を用いなければならない並列処理だったはず。それに用いる魔力は本来ニケに見せようとした魔法の実演に劣り、"ごく簡単な植物魔法"と同等程度の量だったということか?」


 「………………あら」


 旅人の少年の指摘に、()()は返す言葉を失ってしまう。

 魔法の並列処理に於いては突っ込まれるとは思ったものの、言い訳を用意しようと思えば幾らでもできた。子供三人分程度の処理であれば残った魔素でなんとかなる……とでも言えば、自分の正体を見破れる決定的な証拠にはなるまい。

 だがこの少年の言葉は、そんな逃げ道を完全に潰してのけた。もはや、適当な言い分で逃れることは叶わない。


 「……圧倒的なオドを持つ"魔女もどき"含めてもチョロい集団だと思ったけど……さっきの緋色の宝剣といい無駄に回る頭脳といい、私はとんでもない爆弾を見逃してしまっていたようね。こんなことなら、早めに処理するべきだったわ」




 「…………メナスちゃん? 嘘ですよね。たしか、言いましたよね。最後の繰り返しは自分もついてるって。そして私の勇姿を見届けるって」


 「……ナズナ、おそらく君の知ってる"メナスちゃん"は既に…………」


 ウィルとメナスちゃんとの会話の雰囲気から、只ならぬ事態が起こる予感はしていた。しかし、それが自分の想定する最悪を優に上回るようなものであることを、ナズナは頭の隅で感じ取ってしまった。

 あり得ない。こんな事が許されて良い筈がない。


 しかし、絶望と鎮静に揺れるナズナにトドメを刺すかのように、"メナスちゃん"は軽く口を開いた。




 「土地の魔素は死んだわ? このループに突入する直前、アレの意識が介入する瞬間に夢喰い(わたし)が妨げ夢喰い(わたし)が殺した。今頃、現実世界のこの地ではきっと崩壊が始まっているわ」




 夢喰いの本体は、不適な笑みを溢した。

 夜闇に包まれた集落を見据えながら。

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