40話 枕元にて囁く
――朧に霞んだ山吹の空
――広野を流れ風は藤を薙ぐ
……誰かが、歌っているのだろうか。
穏やかな温もりを含んだ空気が、身体中を柔らかく包み込む。有り余るほどの心地よさと、ふわふわとした肌触り。辛いことは考えず、今は楽になれ、と告げられている気さえした。彼はその感触に身を任せ、再び意識を深部に向ける。
――番で見渡す彼誰の色
ざあざあと、蛇口から水が流れ出るような音がする。懐かしい音だ。暫く耳にしないうちに、あたり前だった筈の日常の情景は随分と遠のいてしまったのだと感じる。その事実も踏まえ、いつの間にやら心の何処かに仕舞われていた生活音は耳を伝い、心の隅々まで沁み渡るのであった。
トントントン、と包丁が野菜を刻む音。ぐつぐつと何かを煮込む音。ふと、芳ばしい味噌の香りが鼻に流れ込んできた。彼は無意識のうちに、在りし日の台所を思い浮かべる。きっと、そこで誰かが料理をしているのだろう。
(腹、減ってきたなぁ)
耐え難い空腹感が、胃の中で暴れ出す。こうなっては、次に何かを口にするまで落ち着いてはくれないだろう。
――清き身預けてまたあした
「――っ!?」
心が洗われるような歌声が耳に触れた瞬間、全身に強烈な違和感が轟き、ウィルはすかさず飛び起きた。目を見開き、周囲を勢いよく見回す。
「ここは……寝室?」
二、三人は入れるであろう大きな布団に包まれた彼は、見慣れぬ部屋の中で眠っていた。右手に目線を落とすと、そこには枕が自分が使用していた物を含めて二つ。どうやら、自分はこの部屋で、何者かと共に眠らされていたのだと推測する。
誰と寝ていたのか――については、今はさして重要な問題ではないと判断した。その懸念を掻き消すほどの不可解な出来事が、現在自分の目の前にて起きているのである。
まず、ここは何処なのか。見たところ何処かの住居の寝室であることは間違いない。床や壁は、実際に触れて感じ取った質感や見た目から、材質は木製であることが分かった。眩い光が差し込み、部屋中を明るく照らしている。二つの窓が、自分の右手側の壁にあった。
ならば、何故自分はこの寝室に居るのか。この場所で自ら布団を被った、或いは倒れた記憶が無いため、何らかの要因によって強制的に意識を失ってしまったと考えるのが普通か。
ウィルは自身の記憶が途切れる、直前の出来事を思い返す。
(確か俺はみんなと歩いてて、それでやっとメナス河らしきものを見つけたんだ。畔まではまだ距離があったけど、それでも確かに俺は……あれ?)
記憶を辿り、徐々にそれと現状とを繋ぎ合わせようとした最中、彼は突然何らかの引っ掛かりを感じ取り、その顔にに怪訝な色を浮かべた。今一度目を瞑り、再び記憶の奥底へと意識を集中させる。にも関わらず、突っ掛かったそれの正体は、どれほど頭を回そうとも解明するに至らない。
(……なぜ。どうしてそれ以降の記憶が無いんだ。まるでその記憶だけ部分的に切り取られたみたいで、なんで俺がこんな場所に居るのかが全くもって分からない!)
現状を解き明かすに最も重要な箇所のみが、穴が空いたかのように消失している。これでは到底条理を尽くして状況を分析することなど叶わず、彼の心の中は次第に焦燥で満ちてゆくのであった。一つだけ定かなことは、これは決して幻覚などではない。まごう事なき現実としてここに在るから、余計にタチが悪いのである。
どうしたものかと適当に目線を泳がせていると、左手側に一箇所だけ、引き戸と思わしき壁を発見した。特段驚くことではない。そこが部屋であるならば、出入り口があるのは当然だ。だが、ウィルはその引手に手を伸ばすことを躊躇してしまう。
自分の身が何故このような場所にあるのか分からない。つまり、この引き戸の先にはより大きな未知が広がっているのだ。未知への探索といえば聞こえは良いが、ここは危険極まりない異世界であり、少なくとも自分は弱者、食われる側の存在。それを充分過ぎるほど理解している彼からすれば、安直な行動に走る事は憚られるのだ。
芳ばしい香りが、より強くなる。発生源は壁の向こう側にあることは疑いようがない。今にも開けたい気持ちが暴れ出しそうになるが、彼は鉄の意志でそれを封じ込める。
(お腹は空いている。でも、もしこれが魔獣の巧妙な罠だとしたら? その可能性がある限り、俺はこの扉を開ける事はできない。それよりも建物の外だ。なんとかして脱出を図るべきか? それなら、あの窓なんかがちょうどいいかも……)
ウィルは振り向き、じっと二つの窓に目を向けたその時。
「…………」
腹の虫が猛り始めた。
彼は背後の引手目掛けて左腕を伸ばし、戸を慎重に引いた。腰をかがめて身を隠しつつ、部屋の外の様子を恐る恐る探る。ほんのりと涼しげな空気が、芳ばしい香りを乗せて漂っている。引き戸を開けた先の空間は、ウィルの居る寝室よりも広々とした部屋だった。
真っ先に目に止まったのは、部屋の中央にある囲炉裏と、それを囲うように設置されたテーブルだ。朝方故か今のところ着火されている様子はないが、天井に吊るされた支柱の大部分が黒ずんでいる事から、遠目からでも長らく使われてきた物であることは見て取れた。部屋は円型で、壁や床はやはり木をベースにした作りになっている。
更に、囲炉裏を跨いで向かい側。部屋の奥で人影が揺れ動くのを発見した。恐らく料理に夢中で、自身の背中をこっそりと覗いているウィルに気が付いていないと見える。
左を向けば二階へと続く階段が。右を向けば、外への出口と思しき扉がある。これが魔獣の罠ならば彼は一目散に右へ走り、アンティーク調の取っ手に手を伸ばすべきだろう。
ただ危惧すべき可能性として、目の前で料理をしている人物が自分を助けた恩人ならば。意識を失った彼を安全な場所まで運んだとすれば、もはや疑念を抱くことすら憚られる。向けられた善意に対して礼も言わず立ち去るなど、彼の中では言語道断だった。
部屋に満ちる空気の物柔らかさに包まれながら、少年は頭を抱えていた。何も見ぬふりをしてこの場を後にするか、罠である可能性を恐れずに話しかけるか。選択を誤れば、悔恨や消失が自分を待つ。課せられる淀みのない重圧により、彼は次の一歩を踏み切れずにいた。額から流れる汗が、床へ滴り落ちる。
「目玉焼きか卵焼き。旅人さんはどっちが好き?」
どこか気の抜けた少女の声が、前方から発せられる。目の前の人物はいつの間にか振り返っており、ウィルの目を澄んだ瞳で見つめていた。
「……っ」
予期せぬタイミングで声を掛けられたばかりに、肩がびくりと跳ね上がってしまう。つい先程までは自分に気付いているような素振りを見せなかったため、何となしに警戒を薄めていたのだ。
多少驚きはしたが、すぐさま普段の冷静を取り戻して頭を回転させる。目の前の人物に認知された事から、状況はウィルにとって喜ばしくないものへと変化した。詰まるところ、行動の選択肢が狭まったのだ。目の前の人物が少女の皮を被った魔獣であるならば、この場から逃れる事は絶望的。戦闘によって切り抜ける他ないだろう。本物の人間であれば良いものの、彼はそれを見極める術を知らない。
「……ぷぷっ、さすがに驚きすぎだって。あとさ、急に顔をしかめるの面白すぎなんですけど! なんかこう、ふふ、じわじわ来るわ」
「………………」
片手で顔を隠し、堪えきれずに身体を震わせる少女。冗談を言ったつもりなどなく、寧ろ真剣に頭を悩ませていたウィルには、何がそこまで可笑しいのかが理解できない。無性にやり切れない心情に陥った彼は、若干語調を強めて言葉を発する。
「……まず君は何者で、ここは一体どこなんだ?」
「わ、ちょっとキレてる。それよりさ、あたし今からもっかいキミを驚かせるからさ、またさっきのヤツやってよ! 肩をビクッ! ってやってから、急にキリッ……とした表情になるやつ」
「…………あのさ、初対面の人に向かってその態度は失礼じゃないか? 俺は今真面目に聞いてるんだ。だから、そっちもちゃんと答えてほしい」
自分を小馬鹿にする少女に、どんよりと曇った視線を送るウィル。
少女に対する第一印象は、最悪の一言に尽きる。彼女のような性格の人間は、元の世界で飽きるほど目にしてきた。そのような人間に限って、影で自分を笑い物にしていたことも知っている。
オーディンと対峙したとき程ではないにしろ、彼は今すぐこの場から離れたい衝動に駆られていた。
「ごめん、ごめんて。あまりに反応が面白くて、ついからかっちゃった。……ここはただの集落だよ。えと……本当に何も無い所だから、特に言うこととか無いわ。旅人さんからしても、すぐそこに見えるメナス河くらいしかおもしろいとこなんて無いだろーし」
「え、あ、まぁ…………今、なんて? メナス河?」
予想に反して素直な言葉が返ってきたため、思わず口籠る。だが、彼女が述べた言葉に引っ掛かりを覚え、両目を軽く見開いた。
「? あー、キミ達気絶してたから知らない系か。……そう、ここはメナス河のほとり。旅人で賑わう観光名所ってワケでもない、何の変哲もないとこだよ」
少女はそう告げると、薄い微笑を浮かべた。
「で、結局どっちが好きなの?」
「え、な、何の話だっけ」
「目玉焼きか卵焼き」
「あ、あー? そうだな、今は……目玉焼きの気分かな?」
「ん。……もうちょっとで朝ごはんできるから、それまでテキトーにくつろいでて!」
ウィルが訳も分からぬまま言葉を垂れ流していると、少女は厨房へと戻って行った。
ダークブラウンのミディアムヘアが特徴的な少女。年齢は十六のウィルと同じか、若しくは一つか二つ下。恐らく然程変わらないと推測できる。
会話した限りでは意思の疎通自体は何ら不自然なこともなく、眼前の人間に襲い掛かるといった様子もない。これらの理由から、彼女が魔獣である可能性は格段に薄まった。しかし、ウィルは未だ天敵についての知識に乏しく、その存在が持ちうる力の底を知らない。仮に知性を持つ魔獣がいるならば、一見何の意味も持たぬような行動も、裏を覗けば獲物を誘き寄せるための罠を張り巡らせていた、ということすら大いにあり得るのだ。取り返しがつかなくなる事態を胸中に抱え、彼はゆっくりと深呼吸をした。
何事もなく、時が過ぎる。座り心地の良い、背もたれ付きのダイニングベンチに腰を掛けながら、囲炉裏を囲うテーブルの上で顔を伏せる。
朝食が出来るまで待つように言われたものの、こうして長閑な時間の流れに身を委ねている間こそ、色々と考え込んでしまうのだ。
意識を失った原因、仲間たちの行方、外の様子。瞼を閉じれば、次から次へと押し寄せる懸念の波。第一の目標であるメナス河に到着した一行の旅は、間違いなく順調に進んでいる。だが、心は妙に晴れ晴れとしない。
これは自分の悪い癖だ、と彼は考える。些細な疑問を持ち、それを徹底して追究するのは悪いことではない。起こり得る事故を未然に防ぐこともあれば、その気付きがより良い結果をもたらすこともあるだろう。だが彼の場合は、良からぬ意味で度が過ぎていた。疑問を捉え、推測し、悲観的に解釈する。そして、そこから派生する疑問や不安を捉える。
彼の精神を形作る臆病が、ぐるぐると絶え間なく思考を掻き混ぜるのだ。先日の一件以降、それが徐々に悪化の一途を辿りゆくことは自覚していた。信頼も、友情も、希望も、瞬く間に塵と化してしまう。
何かを疑う事は、日頃から染み付いている。今の彼は、信じる事に怯えていた。
「あとは盛り付けるだけ……と」
両手を天井に向け、真っ直ぐ伸びをする少女。朝食の支度は直に終わると見える。
――ガタッ、と小さく響く物音。
少女が言葉を発すると同時に、ウィルの視界に映る、出入り口と思われる扉が動いた。突然の出来事に、彼は腰に下げている短剣の柄にそっと触れる。
「ふふっ、お陰でとても手際良くできたわ。なんだか助かっちゃった」
「……色めく美麗な花々は、貴女のような女性にこそ相応しい。僕ぁただそう思って行動しただけに過ぎません」
「あら、お上手ね」
開かれた扉から漏れる光は、二つの影を照らしだす。響く声色から察するに、艶やかな女性と垢抜けない少年といったところか。ウィルは相手の様子を伺うべく、緊張の面持ちで睨み付ける――が、両人の容貌が明るみになった途端、張り巡らされた神経の網は、ほろほろと崩れて無くなった。
「に、ニケ!?」
未知の状況、見知らぬ空間にて。彼の目線の先には、ごく見知った顔があった。
あれこれと頭を抱えるウィルとは対照的に、ニケは現状に適応し切っているようだ。そればかりか、何かと楽しんでいるようにも見える。気丈夫でなければ、特段能天気というわけでもない彼だが、普段のように何かを不安がる事もなく、横に並んで歩く女性との談笑を満喫していた。
(わかった。……肝が据わっているとか、楽観的だとか、そういう問題じゃない。今のニケは、あの女性のことしか頭にないんだ)
幼馴染の浮かれた表情に視線を向けるウィルは、無意識に溜息をついた。
「ささ、どうぞこちらへ。……ん? あ、おはようおはよう」
幼馴染も彼の冷ややかな眼差しに気付き、声をかける。すっかり元の世界にいた頃のお調子者に戻ったニケは、上機嫌な様子で女性を連れ、テーブルにつく。女性は、動作の一つ一つに一々格好つける彼の横顔を眺め、微笑んでいた。その目はまるで、幼気な年下の兄弟に向けるような慈しみに満ちている。
女性の容姿に関しては、さしものウィルも美しいと思わざるを得ない。二の腕の真ん中辺りまで伸びる長髪は、台所に立つ少女のものと同色。華奢な色白の身体、お淑やかな振る舞いと合わさり、非常に温厚な雰囲気を醸し出していた。しかし遠目で見た時の大人じみた印象とは逆に、その容貌からは僅かに幼なさが感じられる。
この女性もまた、自分とそう大差ない年齢なのではないかと漠然ながら感じ取るウィルであった。
「お姉ちゃーん! 悪いけど、ご飯運ぶの手伝ってー!」
台所から、快活な声が飛んできた。女性は「今行くよ」と柔らかく返した後、ダイニングベンチからゆっくりと立ち上がり、少女の元へと歩き始めた。
「ぼ、僕もお手伝い致しましょう!」
女性の背後に、小走りで続くニケ。
破竹の如く張り切りを見せる少年に、微笑みを崩さず彼の言葉に応じる女性。高潔な紳士とエスコートされる淑女……ではなく、可憐な令嬢とそれに仕える召使い、という構図になっていた。
そんな二人をぼんやりと眺めていたウィルは、慌てて立ち上がる。
(俺だけ座ってる訳にはいかないな。食事を頂くんだ。せめて皿を運ぶくらいはやらないと)
テーブルに並ぶ朝食は、簡素なものだ。味噌汁、目玉焼き、そして色鮮やかなサラダ。お世辞にも量が多いとは言えないが、献立がシンプルな一汁二菜なだけに、健康的に思えた。
そこでウィルは、卓上の光景に違和感を覚える。テーブルを囲う人数は、自分を含めて四人。だが、そこに並ぶ朝食の数は五人分。一つの空席に、何故か食事が置かれているのだ。疑問に思った彼は、これはどういう訳かと少女に訊ねる。
「気を失っていた旅人さんは、キミ達の他にもう一人いるの。今は二階にいるんだけど……」
「もう一人? それってまさか」
「ミサだよ。……困ったことに、僕が何度声をかけても部屋から出ようとしないんだ。……やっぱり結構思い詰めてる感じだったな」
二人の言葉を聞き、ウィルはほんの少しだけ安堵した。しかし、やはりと言うべきか、その直後に抱く感情は不安一色である。
昨日の時点で、彼女が相当な無理をしていたことは間違いない。いくら明るく振る舞おうと、心を癒す根本的な解決にはなり得ない。寧ろストレスが溜まる一方であることは明白だ。その矢先に何故か気を失い、目が覚めた場所は見知らぬ部屋。弱り目に次々と重なる祟り目。彼女は如何なる感情を抱けと言うのだろう。
また、忘れてはならないのはもう一人の仲間、ナズナだ。意識を失う直前は、間違いなく四人で行動していた。にも関わらず、この家に居るのは三人のみ。これに気付いた時、思わず最悪の可能性を頭に浮かべてしまったウィルは気が気でなかった。その時の記憶は無いが、それ故に如何なる可能性もを推測できよう。であれば今すぐにでもこの場を離れ、彼女の安否を真っ先に確かめる他ない。
「旅人さん。あの、二階の子をここに連れて来れるかしら……? ずっと何かに怯えているようで、わたし達の声は届かないの。お友達ならきっと話は聞いてくれると思うし……その、お腹空いてるといけないから……」
席を立とうと腰を上げようとした途端、少女の姉と思われる女性が、突然ウィルに対して物憂げな視線を送る。彼女のおどおどした態度から察するに、ミサのことを心から気にかけているようだった。
これは困った、と微かに目を伏せる。
ミサの様子が気掛かりであることは紛れもない本心だ。だが無事が確認された彼女に対し、ナズナは行方も安否も不明である。
以前のウィルならば、ナズナを探すべく迷わずこの家を飛び出しているだろう。しかし今の彼には責任がある。自分が下した選択が原因で仲間が苦しんでいるならば、逃げずに向き合わなければならないと気付いたのだ。
当然のことながら、仲間である二人の間に優劣など付けられよう筈もない。目蓋を閉じ、絡まる毛糸を延々と解き続けるように、纏まらぬ思考をひたすら巡らせる。眉間に浮かぶ苦悩の色が濃くなっていることを遠くから自覚し、ウィルは僅かに力を抜いた。
両の目蓋を押さえ付けていたものが綻び、ゆっくりと上下に離れる。瞳に映り込むは、赤の他人であるはずの少女を想う女性。
「……わかりました。俺も心配ですし、取り敢えず様子を見てきます」
「ありがとう。あの子の居る部屋は廊下の突き当たりよ。旅人さん、どうかお願いね」
彼は頷き、席を立つ。
リーダーなんて自分にはつくづく向いていない、と彼は目を細めて自嘲した。自ら"それ"になることを望んだ訳でなく、あくまで成り行きで皆の先頭に立つ役割を与えられただけに過ぎない。自分がそれをこなせるだけの器でないことは、薄々気付いていた。判断力の欠片もない意気地なし。今の彼を突き動かしているのは、望まぬ使命感であった。
憂鬱な表情の三人を背に、木製の段差に片足を乗せる。




