27話 瓦礫の炎
※今回は一部、非常に刺激的な描写が含まれます。充分な注意のもと、お読み下さい。
通路は幸いなことに殆ど一本道であり、三人は迷うことなく進む。そして彼らは今、上層へと続く階段を発見したのであった。
「地下水路の上か。上手く行きゃ町中に出られるが......」
「未だ我々の仲間との接触はなし......ですか。しかし、妙ですね。道すがら幾つか発見した牢、その全てがもぬけの殻とは」
スノウは現状に違和感を感じ、表情を曇らせる。しかし、それは皆も同じこと。その場に居る全員が、何やら得体の知れない靄のようなものを感じ取っていたのだ。彼の悩める様子を見たガトーは、平然を装って話しかける。
「どうせ城の中にでも囚われてるんだろ。俺たちだけがわざわざ地下に囚われていたのは、俺たちは国の騎士どもにとっちゃ危険極まりねぇ存在だったからに違いない。そうだろ?」
「......であれば良いのですがね」
二人の会話を聞いたシャヴィは、言葉を発する事なく長い階段を上り始めた。皆も、黙ってそれに続く。
階段を上りきると、目の前に現れたのは扉であった。何の装飾も施されてはいない木製のそれは、至って簡素な造りの扉である。ただ一つ奇異な点を挙げるとするならばーー
「............」
シャヴィはそれに気付くと静かに取っ手を回し、ゆっくりと開扉した。
「..................」
扉の向こうは、薄暗い小部屋であった。
そこに足を踏み入れた彼の視界に、あるモノが映る。彼はそれをじっと見つめたまま、立ち尽くす。
ーー背後からの足音。ガトーとスノウもこれを見るのだろうか。
否......確実に見る。何故ならば、それらは部屋の四方八方に、丁寧に置かれているのだから。決して見るまいと目を背けても、必ず視界に入ってしまう。
「おいお頭、どうした............っ......!?」
「? え、シャヴィさん、ガトーさんも......いきなりどうしました............ひゃうっ」
シャヴィに続いて足を踏み入れたガトーは、すぐさま言葉を失った。同時に、何かを感じ取ったスノウは即座にナズナの両目を片手で覆う。
部屋にあるモノ。それは、盗賊団の三人がよく知るはずのモノであった。
四方の壁に取り付けられている、長めの横木。その上に丁寧に並べられている、十三の球状の物体。
それは確かに、見紛うことなく、ーーであった。
表情はどれも眠っているかのように穏やかだ。彼らは気を失っている内に処分されたのだろう。
大きめの麻袋が幾つか地面に置かれている。内部から黒い液体が染み出しているようにも見えるが、恐らくこの中に切断面から下の部分が収納されているに違いない。
扉を開ける直前に感じた奇異なもの。それは間違いなく、それらの放つ腐臭であった。
シャヴィは向かいに在る扉に向かって、黙したまま歩みを進める。
「シャヴィ......?」
正気を失い呆然としているガトーは、言葉を発することなく再び歩み始めた頭領の背に語りかけた。何かしら反応が欲しかったのではない。ただ、変化を恐れたのだ。この光景がうつつであるならば、これ程残酷なことが他にあろうか。これが悪夢ならばどうか、このまま何事もなく覚めてほしい。
質実剛健であり魔獣すら恐れぬガトーでさえ、そう思わずにはいられない。しかしシャヴィはこの現実を受け入れたのか否か、迷いを一切見せず、前へと進み続けた。
ーーその刹那。
突如として眩い光が部屋中を覆い、地を割るような轟音と共に、巨大な火柱が目前に広がった。
「お、お頭............!」
先の光景を見せまいと反射的にナズナの目を覆ったスノウは、ガトーと同じく呆然としていた。しかし、いつの間にやら大剣を背負っている頭領と、彼の放った一撃によって吹き飛んだ天井や壁を目の当たりにし、無理矢理現実に引き戻され、彼の名を叫んだのだ。
シャヴィは振り向いて三人を視界に入れると、言葉を告げる。
「お前ら、先にアジトに帰ってろ。おれは......頭としてどうしてもやらなきゃならねェ事ができちまった」
「お頭......お前マジで言ってんのか? ここで国の騎士共とやり合おうってんなら俺も......」
「......頭の命令は絶対、だろ? 今は、アジトに置いてきたリッキー達に一刻も早く顔を見せてやれ。恐らくナズナの仲間もそこに居るだろうから」
シャヴィは、一歩、また一歩と足を動かす。そして、目の前に広がる殺気の群れを睥睨した。気が付けば、小部屋の外は大量の騎士によって囲まれている。まるで、最初から待ち伏せていたかのように。
「......あのあの、すみません。そろそろ手をどかしてほしいのですが......」
「......ああ......で、では、一旦部屋の外に出ましょう......か」
目隠しを解くよう求めるナズナに対し、スノウは言葉を詰まらせながらも、柔らかい声色で言葉を返した。
部屋の外は、広い空間であった。豪華な装飾がふんだんに使われていることから、恐らく城内の何処かであることには相違ない。
全員が小部屋から出ると、一人の騎士が前へと歩み出た。その者は周囲と比較すると、一際豪勢な武具を身に付けているように見える。騎士団の中でも上位の実力者であることは明らかだ。
「......最早、本当に脱獄を果たすとは。いやはや、最悪の事態を考慮しておいて正解であった」
「その重圧をひしひしと感じる佇まい......なるほど。てめェが騎士団のトップか」
「む......あぁそうだ、因みに本来ならば、あれらは国民の目の届く所にて豪快に晒し上げる予定であった。しかし、本日は無理を言ってこの部屋にて保管させてもらった次第。お前達が脱獄する際には、必ずこの部屋を通る必要があるゆえ」
「..................」
安い挑発には乗るまいと、シャヴィは奥歯を噛み締める。
兜越しゆえその面貌は不明だが、その者の発する声はまるで脳に直接響くような低音。魔法で声色を変えている気配はない。つまり、この豪勢な鎧を見に纏った騎士は男性であると判断出来る。
しかし、特定できる情報はそれのみであった。表情が不明であることは言うまでもないが、問題はこの男がどの程度の実力者であり、どの程度のオドを有するのか、それらの一切合切を知る術が現時点では存在しないということである。
(自分のオーラを完璧に隠して、決して相手に読ませねェ。得体の知れない野郎だが、ここまで精度の高い情報遮断力だ。相当な使い手ってのは間違いねぇな。その実力、恐らくガトー以上か)
シャヴィは再び振り向くと、自分を見つめている三人に向けて、言葉を告げる。
「おれが注意を引き付けるから、その内に逃げろ。なんなら今すぐに」
「だ、だがよお頭! あいつ、相当ヤバくねぇか? さっきから探りを入れてるが、あいつの体からは殆ど何も感じねぇんだ!」
「あぁ。おめぇの言う通り、あいつは強い。しかも、おれたちは国中の騎士にマークされてる。正直言って加勢は欲しいところだが......俺らがここでやり合った場合、ナズナはどうなる?」
「............」
言葉を返そうとするも、ガトーには彼の言葉を否定することは出来ない。異様なプレッシャーに苛まれる現状が、その選択を許さなかったのだ。決意を固めたガトーは、たじろぐスノウとナズナに向けてその意を伝えようとしたーーその時であった。
「残念だが、逃がすつもりなど毛頭無い。貴様らは再び地下牢に投獄される運命である。次はより強力な拘束具を用意するゆえ、期待して待つがよい」
逃走を図るべく足を進めたガトーの足下が、壮大な音と共に砕かれる。何が起きたのか分からず、咄嗟に男を見た。
騎士の手には、白銀の剣。信じ難い事にこの男の剣の一振りは、ある程度離れた距離に位置するガトーに対し、正確な狙いを持って地を這う衝撃波を放ったのだ。その事実に、驚愕する三人。
ーー同時に、シャヴィも既に動いていた。
緋色の大剣が、空を切り裂く。
その後数秒の間隔を空け、先程小部屋の壁や天井を吹き飛ばしたそれとは桁違いの大音量と共に、巨大な炎の竜巻が辺りを蹂躙した。
緋色の炎に焼かれる者、巻き起こる旋風に抗えず吹き飛ばされる者。広い室内に大勢を配置したことが災いしたのか、そこは阿鼻叫喚の光景と化し、紛乱の状態へと陥った。
そしてシャヴィの行動によって生じた隙を逃さず、ガトーら三人は外へ向かって駆けるのであった。
「............まさか騎士の数を逆手に取り、仲間の逃亡に力を貸すとは。その発想と実行力にはさすがの私も驚愕せざるを得ないな」
「......チッ、平然としやがって。本当はテメェもろとも吹き飛ばすつもりだったンだが......なッ!」
睨み合う両者の間に、火花が散る。
シャヴィは言葉を終えると共に、騎士の元へと切りかかった。騎士はそれを視認するなり、臆する事なく剣を振る。
シャヴィの爆風を纏った剣撃と、それを絶妙なタイミングで捌き続ける騎士。
暫く交戦状態が続いた後に一定の距離を置いて互いの視線を交錯させる中、唐突に騎士の男が口を開いた。
「私の名はキール。キール・ニルフェン。一応、ローグリン騎士団の長を務めている身だ。よろしく」
「............シャヴィ・ギーク。お前らがバラバラにした盗賊団の親玉だ。............これでいいかよ」
「ああ。では、誇り高き闘いを」
両者、名乗りを上げる。それと同時に、停止していた時が再び動き出したかのように、場の空気が揺れ始めた。
先に動いたのは、騎士団長キールである。重厚な鎧を身に纏っているにも関わらず、それを物ともせずにひらりと宙を舞って距離を詰めた。しかし、対するシャヴィも負けじとその動きを捉える。彼は大剣を下に構え、キールの間合いに入る寸前に、勢いよく切り上げた。
ーー瞬間、大剣を構えていた場所に急速に描かれる魔法陣と、切り上げに連動するかの如く、陣から激しく打ち上がる炎の柱。キールは咄嗟にその攻撃の初動を感知し、斬りかかる事を諦めて身体を横に逸らした。
ーー例えるならば、それは噴火であった。大規模な炎の柱は夜空を目掛けて噴き上がる。爆音と共に生じたそれは城内の悉くを破壊し、焼き尽くした。
その結果、周囲に在るのは蔓延る黒煙と焼け落ちた瓦礫のみ。彼の放った強大な力は、平野の真っ只中にて威容を放つ城郭を一撃で半壊させるに至ったのだ。
(............想像を絶する破壊力だ。決して甘く見ていた訳ではないが......なるほど。先ほど迄は仲間が側に居た故に、敢えて加減をしていたに過ぎなかったのか。しかしこれが盗賊団頭領、緋虎の最善手。仲間と共に行動するよりも、孤独の戦いに身を置いてこそ己の本領を発揮出来る。数多の盗賊を束ねる身としては、さぞ皮肉の効いた戦闘スタイルよな)
間一髪で彼の攻撃を躱したキールは、「ふう」と短い息を吐くと共に、兜越しから相手を憐れむような視線を向ける。これを感じ取ったかは定かではないが、彼はまるで余裕をひけらかすかのように飄々と構える騎士を、じっと睨みつけた。
(......あれを、躱すかよ。割と限界まで引き付けたつもりだったが......それでも奴は対処して見せた。流石は騎士団長、その機動力は賞賛に値するってカンジだな。だが)
シャヴィは、不敵に嗤う。
その様子が面白くないのか、キールは彼に対して粘り着くような視線を向けた。そして地を蹴り上げ、先程のように一瞬にして両者の間合いを詰める。
シャヴィの頭上に、白銀の剣が迫り来る。彼はそれを間一髪で躱すと、上半身を捻り、相手を薙ぎ払うべく大剣を片手に反撃の構えを取った。しかしキールは、彼が反撃に移行する際に生じた隙を逃さない。
騎士は溢れんばかりの魔力で腕と剣、そして下半身を覆い、シャヴィの頭部へと再び斬りかかった。敵の素早い転身に気付いたシャヴィは、慌てて大剣を持たぬ方の腕で頭部を守る。だが、急な重心移動と動作の勢いが減衰したことにより、体幹を崩してしまった。
「......っ!!」
斜めに振り下ろされた白銀の剣が頭部を守る腕を完璧に捉え、触れる。
白銀の刃をまともに受けた彼は、地面に半身を叩きつけられた。幸い膨大な魔力が籠手の役割を成し、最悪の事態は防ぐことが出来た。
されど、美麗なる銀の凶器は猛攻の手を緩めない。シャヴィは瞬時に体制を立て直し、回避に専念すべく距離を取った。
執念深く追い続ける白銀の剣と、防戦一方の状態を強いられる、緋色の炎。
キールの剣撃は、それ程までに疾かった。数多の盗賊を束ね、戦闘に関しては揺るがぬ自信を抱くシャヴィであったが、その圧倒的な速度に肌で触れると、大剣で受け流す、或いは回避するという選択しか脳裏に示されないのであった。
戦いが熾烈を極める最中、シャヴィはどうにか騎士の間合いから身を遠ざけ、大剣の切っ先を地面に打ち付けて息を整える。
「......ちっ............速すぎンだろ......」
「折角の攻め時であったが、与えたのはかすり傷一つか。だが、次は逃がさん。そして斬り伏せる」
黒色の煙が無風の空間に立ち込め、夜空へと昇ってゆく。夜空を更なる黒へと染めるようなそれは、睨み合う両者が行き着くであろう不透明な終着点を覆う。しかし今、延々と昇る黒煙が僅かに揺らいだ。自然の微風によるものに違いないが、吹き渡る風の勢いは衰えることなく、青年の淡い赤髪を撫でる。
盗賊は大きく息を吸い、相手を真っ直ぐ凝視した。
「............奥術、高速装填」
シャヴィの放った一言。それに呼応するかの様に地に描かれるは巨大な魔法陣。それは幾重にも重なって規模を広げ、両者の足下は既に陣の内部へと取り込まれていた。
「......貴様。もしやその本質は術師の類......?」
「ーー逃げ切れやしねェよ。精々灰塵と化せや」
キールは胸騒ぎを覚え、離脱の姿勢を取る。しかし、その時には既に手遅れであった。
シャヴィは足裏で地面を叩く。すると、地に張り巡らされた魔法陣が急速に回転し始め、宙に浮き出た。
直後、淡い灰色の光が陣の内部を包み込みーー消滅した。
気付けば、魔法陣は消えて無くなっている。それ即ち、魔法が発動した証拠。しかし、先の魔法で生じた事象といえば、灰色の光が両者を包んだ其れのみである。あれ以降これといった変化もなく、またどちらかが地に伏せるでもなく、両者が睨み合う現状に変わりはない。
それが意味することはまさしくーー
「む、不発に終わったのか」
「..................」
「記憶に無い術式ゆえ警戒はしていたが、拍子抜けである。やはり貴様は術師に非ず。肉弾戦はそれなりに賞賛出来るが、剣術に於いては騎士団長である私には到底及ばぬ。......国賊の頭領と聞き心してかかったが、やはり蓋を開ければその中身は虎の皮を被った力なき狗。半端者もいいところよな」
キールは相手を見下ろし、再び剣を構えて近寄る。そして魔力を脚部に込めんとした刹那、彼の身体に異変が訪れた。
「......!?」
騎士団長が魔力を込めた筈の箇所。その箇所の内側に、焼ける様な痛みが走ったのだ。
(これは............一体?)
魔素は普段通りに出力されている。つまり、体内魔素の流れに異常が生じている訳ではない。だが、魔力を使う度に壮絶な痛みに襲われるのだ。
その様子をじっと眺めるシャヴィは、自身の魔法の成功を確信してほくそ笑んだ。
「まァ、そういうこった。お前はもう、体内魔素を自由に扱えねぇ。ここらで大人しく死んどけや」
「貴様、何をした......!?」
興が乗ったシャヴィは、語り始める。
彼が使用した魔法、それは奥術と呼ばれる上位規模の魔法の一つであった。名称は、"廃炉の燠火"。
魔法の中でも呪術と呼ばれるカテゴリに分類されるそれは、陣の内部に足を踏み入れた対象の魔素器官を直接燃焼させるといった効果をもたらす。この場合の燃焼とは酸素との化合ではなく、魔素に命令を与えることで発生する炎によるものだ。
魔素器官とは体内外の魔素のやり取りを行う、或いは蓄える為の器官である。因みに器官と呼ぶからに、それははっきりとした形を有する臓器であるかと言うと些か語弊がある。人間ならば誰でも有するその器官に関しては、あくまで精神と肉体の狭間にある概念のようなもの、といった表現が適切なのだ。
魔素器官は人間の精神世界に根付く存在であるため、肉体と精神の結び付きが強まる瞬間、即ち魔力を発する時などに、肉体と連動して一種の共鳴現象を起こす。しかしそれは呼吸と同じく、意識しようと思わねば意識できない、いわゆる自然現象に近いものだ。だが、魔素器官に何らかの異常をきたしている状態ならば、話は別である。
魔素器官が燃焼するという事態は要するに、魔力を放つ際、結び付きの強まった肉体の箇所も同様に燃焼するということ。同時に精神世界も魔素の炎が燃え広がっている為、最悪の場合廃人と化してしまうのだ。
まさしく呪い。シャヴィが使用した魔法は、これ程までに残虐非道な呪術であった。
「............腕に多少の覚えがあるだけの、獰猛な無骨者とばかり思っていた。群盗を率い、懐豊かな旅人や商人の荷馬車を襲うかと思えば決して人的被害は与えず、各々の生活に必要な分を奪取するのみ。所詮は人を傷付ける覚悟無き青二才、と高を括っていたのだ。......私は愚かであった。其の魂、あろうことか修羅の域に達しているとは」
「......? 何故おれらの方針まで詳しく知ってンのかはしらんが、何を言っても既に手遅れだ。お前の体はじきに業火に飲まれ、黒くコゲついた心と塵の山だけが残される。......おれの仲間たちを大勢殺りやがって。残された時間、魔女サマとやらにひたすら懺悔でもしてるんだな」
己の軽率な判断に失望し、項垂れる騎士。兜で顔を覆っているためその表情は不明だ。だが、シャヴィにとってそれは無価値な零れ話。彼は騎士に背を向けると、そのまま真っ直ぐに足を進める。
「............最初に相まみえた際、全力を出していれば。いや、例え全力を出したとて敵う相手ではなかったか。それならばーー」
「......さっきから何をぶつぶつと。負け惜しみとは騎士サンらしくねーな......?」
シャヴィが背を向けた後も何かを呟き続ける騎士を見兼ね、彼は再び背後に目をやった。
「............お前......まだやる気なのかよ」
彼が目にしたものは、全身を呪われようと構わず立ち上がり、止めどなく溢れるような殺意を発する男。黒い魔力が、男の身体を徐々に蝕む。それと同時に燃焼の呪いが絶え間なく作動し、全身から魔力の炎が吹き上がった。
男の身体は次第に変貌し、人の形を辛うじて保ちながらも、誇り高き騎士団長の面影は失われてゆく。
「全身全霊を賭してなお勝てぬならば、この命を賭すまで。国賊に、死を。我が国の安寧を脅かす賊どもに、裁きを」
「......おい、おめェホントに変だぞ? マジでどうかしちまったのかよ」
直後、騎士だった男の身体から小さな魔法陣が出現した。男は宙に目をやり、その姿勢のまま硬直する。不審に思ったシャヴィもまた、男の目線を追うように空を見上げた。
「......な............っ!?」
ーーその光景に、思わず声を漏らす。
彼の目に映ったのは、星々煌めく夜空ではない。星の光を掻き消すような光彩と、そこに在るだけで恐怖心を煽るような異様な存在感。国全体を覆うほど巨大な魔法陣が、国中の民を見下ろしていた。
作者です。
次話の投稿は、2022年3月28日の21時ころになります。
間隔を開けてしまうこと、誠に申し訳なく思いますが、物語はここから更に目まぐるしく動きます。
ぜひ期待してお待ち下さい!




