第87話:絶望ヲ司ル死
side:智洋
体が鉛のように重く、肺に水が溜まっていると錯覚する程苦しい…。圧倒的な死の気配がすぐそこにいる。
(なに…これ。また、新しい奴か?!)
「…ぁ…あ」
あまりの重苦しさに言葉が出ない。声が…枯れたみたいに絞られる。
「絶対…動くなお前ら…っ」
リーダーの力強い声で震える体が収まるが、命を掌握されている感覚があって気は抜けない。
何者だ?と問うレオンさんの声がうっすらと聴こえた。敵に対しての言葉なのだが、相手は答えず沈黙が流れる。───が、それを破るように威圧がレオンさんの居る場所から放たれ、その直後に雷の落ちる音が響いた。
────本当に一瞬の出来事だった。レオンさんが死神を切りつけたかと思ったら次の瞬間、レオンさんの胸に黒い腕の様なものが貫通していたのだ。
「レオォォン!!」
気が付けばリーダーが鬼の形相でレオンさんに近づき、双剣でフードで隠れた首元を狙い確実に殺そうとしていた。その背後には…隼也が何かを発動した状態で佇んでいる。
「そこを退け!」
相手はリーダーに見向きもせずレオンさんをただ見つめている。その姿はまるで…小物には興味無いと言ってるかのようだ。
「…雑魚が…(ボソッ)」
聞き取れない程の声量で何かを言った直後だった。リーダーの剣を腕で弾き、大鎌の刃の部分を地面に突き付けて唱えた。
『深淵禁忌魔法:第三禁忌───葛藤せし絶望する厄殺の渦』
その瞬間、世界が暗転した。──否。闘技場全域が暗闇に包まれ…。
「レェオォン─────!!」
リーダーが手を伸ばす瞬間を最後に俺の意識が完全に消えた。
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機械音の鳴る音が聴こえる。何も見えない、何も感じない…聴覚だけ働いているのか…?一体何が…───。
そこで俺の意識はまた途切れ、次に目を覚ました時は既に二日経っていた。
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「……ぁ…ぁあ…ここ、は?」
目を覚ますと、白い天井に機械音が鳴る一室で寝転んでいた。横を見れば点滴が打ってあり周りを渡せばここが病院という事が分かった。
「智洋!!起きたか!?」
奥の扉から勢いよく現れた一人の男性。いや、リーダーなんだけど…凄い形相でこっちに近付いて俺を抱き締めてきた。
「え…?り、リーダー?」
「…無事でよかった…」
「…」
リーダーは泣いていた。抑えていたものが少しづつ崩壊していった様に。俺は何も答えずリーダーを抱き締め返した。
「何度も…死んだと思った…二日も寝続けて…何回も心肺停止して…植物人間になる可能性だってあったって言われて…」
「大丈夫。私は生きてるよ」
徐々に抱きしめる力を強めてくるリーダーに安心させるよう優しく囁く。
「よしよし…私は居なくならないから…大丈夫だよ」
「…」
それから数分位でようやく落ち着いたのか、俺から離れて何故か慌ててそっぽをむいた。
「…?あの、どしました?」
「…なんでもない、気にするな」
「?」
よく分からんけど、まぁ…リーダーが気にするなと言うのなら気にしないが…。
「…あの、リーダー。本当は後で訊くべきなんでしょうが教えてください。私が…俺が意識不明の間に何があったんですか?」
リーダーはそっぽ向いた顔を俺に向け、一呼吸置いてから話し出した。
「途中で現れたあの男…俺たちはそれをひとまず死神と呼ぶ事にした」
そして、それから語られた内容に目を見開いた。
「死神の放った魔法は広範囲殲滅が出来る程の威力を持っていてな、闘技場とその周辺は何もかも残らず壊滅した。生き残ったのは蒼牙と一部の強者のみだった」
「え…?」
「だが、生き残ったとは言えまだ俺と菊池しか目を覚ましていない…あの技を食らってすぐの事は俺も意識が無くて分からないが、そんな感じだ。この情報も後から聞いたヤツだから今はどうかわからねぇ…人知れず命が助かっている奴もいるかもしれん…」
すまない…。と申し訳なさそうに頭を下げるリーダーに大丈夫ですと言って頭を上げさせ、さっきの会話で一つ気になった事を尋ねた。
「…リーダー、隼也達は無事なの?」
「…あぁ、一応…な。目は覚ましてないが大丈夫みたいだ。ほぼ奇跡みたいなもんらしい、あんな攻撃を直で食らってんのに俺らが無事だったのが(笑)」
無理して作ったかのような笑みを浮かべ、下を向く。
「そう…でしたか。でも、無事でよかったです。リーダーも無事でよかった」
「…そうだな…くよくよしてても仕方ねぇよな…無事なら喜ばねぇと…」
そうは言ってもリーダーの顔は一向に明るくなっていない。そりゃそうだろう、大丈夫とは言え仲間は意識不明の状態。しかも大勢の人が殺されているんだ。ここで元気になれって言う方がどうかしている。だけど、顔は曇って、今にも泣きそう顔をしているリーダーを見て、そんな顔をされたら放って置けないと思い声をかけようとするが…。
「あの…」
「ま、今は休め」
途中で遮られた。
「え?…あ、はい」
リーダーが椅子から立ち上がり伸びをすると俺の方に顔を向けて口を開いた。
「腹減ってるだろ?二日も寝てたんだ、近くのショップで腹の足しになるもん買ってくる」
「じゃ…じゃあ…肉まん欲しいです」
「他は?」
「て、適当で…」
「分かった」
そう言うと、リーダーは背を向けて扉の方へと歩いて行った。




