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革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~  作者: キムラ ナオト
10.屋島の取引き編
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第71話(1185年2月) 平時忠の密約②

 屋島・時忠の仮屋敷の一室。


 貴一と時忠の間で平家敗北の際、天皇と敗残兵を救う密約がまとまった。


「草薙の剣を船に運ぶのを急いでください。義経がいつ攻めてきてもおかしくはありません!」


「また、貴様の予言か? いいだろう」


 時忠はうなずくと横にいた息子の時実(ときざね)に神器を運ぶよう命じた。


「俺を少しも疑わないのですね」


「答え合わせができたからな――誰かある!」


 時忠の家人がやってくると、客人を呼ぶように命じた。

 間もなく、奥の間からぬっと大男が現れた。熊若はあっと声を上げる。


「伊勢殿! 法眼様、この方は義経様の腹心です」


 貴一から少し離れたとことに座ると、大男は深く礼をした。


「伊勢義盛と申す」


 時忠が義盛に向かって言う。


「伊勢よ。義経が攻めてくるという貴様の言葉は誠のようだな。三種の神器とわが身の取引についても考えてみよう。だが、その前に互いに信頼を積み重ねようではないか。まずはそちらから証を示せ。義経が攻めてきたとき、わしはどこに逃げればよい?」


 貴一は義盛を見る。


――逃げ場所を教えれば、そこから逆に義経の攻め場所が想像できる。そこで待ち受けられたら、義経軍は壊滅するだろう。時忠様の交渉は常にリスクで相手を推し量る。


 伊勢義盛は迷うことなく懐から地図を取り出すと、指で場所を示した。

 時忠を信じているのか、待ち伏せを見抜く義経の能力を信頼しているのか、伊勢義盛の表情からはうかがえなかった。


 時忠は義盛の態度に満足したようだった。


「うむ。わしはこの場所を平家一門には教えないことで証を示す――そして、我が娘をこの屋敷の倉に残していく。人質でも妾でも好きにするがいいと、義経に伝えよ」


――うわあ、蕨ちゃんもかわいそうに。俺の次は義経か。ガンガン政略道具として使われてるなあ。


「心得申した」


 伊勢義盛は倉の合鍵を受け取ると、戦があるので、と言って屋敷から立ち去った。


 時忠が立ち上がると貴一に言った。


「我らはこれから神器と天皇を安全な場所に移し奉る。鬼一法眼よ。草薙の剣を頼むぞ」


 貴一たちも仮屋敷を出た。遠くに火が上がっているのが見えた。



 急いで屋島近くの隠し港に着くと、時忠の息子・時実が松浦高俊(まつらたかとし)とともに、蒸気船へ積み荷を載せようとしているところだった。二人とも困り顔をしている。


――戦が始まってヤキモキしているのだろう。


「時実殿! 松浦殿! 積み荷は俺がやるから、早く戻ったほうがいい!」


 二人は火が上がっている方向を見ると『申し訳ない!』と言い残し、松浦党の船で平家本隊がいる港へ向かっていった。時実が船から大声で、『誠に、誠に申し訳ない!』と叫んでいる。


「高飛車な時忠様に似ず、低姿勢な息子さんだねー」


 貴一たちは積み荷を船に担ぎこむと、すぐに蒸気船を発進させた。

 平家軍に偽装するために、黒旗から赤旗に付け替えている。


 船が岸を離れて、ほっと一息ついた貴一たちは甲板に置いてあった積み荷を船倉に持っていった。


「法眼様、草薙の剣とはこのように大きな物なのですね」


 絹で包まれた箱を二人で担ぎながら熊若は言った。


「まさか、ここまで大きくないと思うけどね。神器だから、いくつもの箱で厳重に守っているんじゃない? どんなものか見てみるか」


 箱を下すと、貴一は中を確認しようと結ばれた紐を外した。


「良いのですか? 天皇でさえめったに見ることができない物と聞いております」


「多くの寺社を潰してきた俺が、今更バチを怖れてもしょうがないさ」


 貴一が紐を外し、包まれていた絹布をほどいていくと、箱がガタガタと揺れた。


「うおっ!」


 貴一は驚いて尻もちをついた。


「ほらっ、法眼様。きっと神器が怒っているのですよ!」


「そんな馬鹿なことが――」


 貴一は箱から距離を取ると太刀を構えた。神器の蓋がゆっくりと開いていく。

中から出てくる姿を見て熊若がつぶやいた。


「――草薙剣とは女神の化身だったのですね」


「いや違う、あれは――」


 女神がいたずらっぽく微笑んだ。


「蕨ちゃんだ」

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