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革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~  作者: キムラ ナオト
9.蓮華と熊若編
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第66話(1185年1月) 熊若vs静御前①

 霧の神社・門前


 熊若は神社内に入ろうとする蓮華の肩をつかんだ。

 蓮華は驚いて振り向く。


「熊若君! どうして」


「蓮華ちゃんこそ、こんな所に来ちゃダメだ。ここが誰の神社か知っているのか?」


「知ってるわ……安倍国道の神社でしょ」


「安倍が危険な男なのは法眼様から聞いているはず。なら、どうして!」


 熊若の問いに、思いつめた顔で蓮華が答える。


「スサノオ様は、人は妾にできないと言った。だから、鬼になりに来たの! そうすればスサノオ様はわたしを見てくれる!」


 熊若は首を振る。


「そんなことをしても法眼様は喜ばない! いっしょに出雲大社に帰ろう。僕からも法眼様に言ってあげるから!」


 熊若の胸の奥がズキンと痛んだ。


――そこまで法眼様のことを……。


「いまさら戻れないわ!――わたしがなぜ安倍国通の居場所を知ってると思う? どうやって他の陰陽師から聞き出したかわかる?」


――そう、ここは秘密の場所のはず。


 熊若が蓮華を見ると、蓮華は胸元を隠した。瞳からは涙があふれている。


「蓮華ちゃん、まさか!」


「そうよ! 体を与えたの! 陰陽師に! しょうがないじゃない!」


「なんてことを……」


「これでわかったでしょ! もう引き返せない……」


 蓮華が肩に乗っている熊若の手を握ると肩から外した。


 そんなことは無い! そう言おうとした熊若だが、人の気配を感じて身構えた。


「誰だ!」


「それはこちらが言うことですわ、熊若様」


「静御前!」


 静御前と体中に継ぎはぎのような傷跡がある男4人が立っていた。みな手斧を持っている。


「見るところ、このお方は熊若様ではなく安倍様に御用があるよう。関係無い人は去っていただきましょう――因幡衆、あの男を境内に入れるな!」


 因幡衆と呼ばれる男たちが熊若に襲い掛かる。

 熊若は飛びのいてかわしながら、針剣を抜いた。


「蓮華ちゃん、行くな! くっ!」


 熊若が攻撃を避けている隙に、静御前が蓮華を神社内に連れて行った。


――止めないと! だけど、こいつら並みの強さじゃない。


「「「シャッ!」」」


 4人の攻撃の鋭さに、熊若はしばらく避けるだけで精一杯だった。

 だが、敵を観察していると、あることに気付いた。


――早いが、ただ力任せに攻撃し続けてくるだけだ。試してみるか。


 熊若がわざと地面に転がるように避けると、敵同士が激しくぶつかった。


――僕以外がまるで見えていないようだ。彼らも術をかけられているのか? だとすれば、法眼様や静御前と同じはず。


 熊若は門から後退し、迎え撃つ構えを取る。

 因幡衆はすぐに追いかけてきたが、熊若の目の前に迫ると急に動きが鈍くなった。

 その隙を逃さず、熊若は4人の敵を突き殺した。

 針剣についた血を布で拭う。


「やはりそうか。霧の中から出ると術が解ける」


 クナイが飛んでくるのを熊若は首を傾けるだけでかわす。

 門の前には静御前が立っていた。


「お見事ですわ。結界の秘密をすぐに見抜くなんて。あの男に教えてもらったのかしら?――霧は鬼化された者を強化し、それ以外の者を弱体化させる。だから諦めてお帰りになられてはいかが?」


「そうはいかない。僕は蓮華ちゃんを連れて帰る。邪魔するなら――殺す」


「気が合いますわね。わたしもずっと殺したかった!」


 静御前は霧を大きく吸い込むと、門から飛び出してきた。

 舞うように左右に動きながらクナイを連続で投げてくる。

 逆に熊若はその場から動かず、飛んでくるクナイを針剣でさばく。クナイは熊若を逸れて、後ろの地面に突き刺さった。


「そんな! ただの人が……」


 熊若は微笑を浮かべながら言う。


「強化された踊り子と、毎日の鍛錬を欠かさない武者。いい勝負だと思わないか?」


 静御前の表情が険しくなる。懐から小刀を2本取り出した。


「安倍様の術が人などに負けるわけがない!」


「ははは。しゃべっていると肺から霧が出ていくよ。ますます僕が有利になる」


「わたしを笑うな!」


 静御前は飛び上がると横回転しながら切りつけてきた。


「美しい舞いだ。だけど宙に浮けば的になる――」


 熊若は無数の突きを繰り出す。静御前は小刀で受けきれずバランスを崩して着地した。

 静御前の腹に蹴りを入れる。腹を抑えてうずくまる静御前を熊若が見下ろした。


「太刀を使わない戦い方もある。どうやら、霧を全部吐き出したようだね」


「ゴホッ、ゴホッ。おのれ……」


 静御前は小刀を熊若に投げつけると、身を翻して神社の中に逃げていった――。

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