第61話(1184年12月) 備前の戦い④・反撃戦
(源氏軍右翼・佐々木盛綱軍視点)
「佐々木、何をしておる。煙の中に兵を入れるな! 土肥軍を待て!」
後詰4000を率いる梶原景時が佐々木盛綱のもとに馬を飛ばしてやってきた。
「梶原殿、我が軍は敵を押しやっただけで、損害を与えていない。後一押しで崩せるのです。私は山陽道まで相撲をしにきたわけではない。貴軍を合わせれば1万2000。追撃するには充分な数です」
「和田が後ろにいる間に手柄を取ろうと思っているのではあるまいな」
「だとしたら止めますか? 敵に翻弄された馬鹿猪のために待ってやれ、と」
「――いや、この場合は仕方あるまい。わしの軍も行く。少し待っておれ」
「申し訳ないですが戦機を逃したくありません――佐々木軍に告ぐ! 突撃せよ!」
「おい、これ!」
景時は慌てて自軍に戻っていった。
佐々木が煙の中に飛び込むと、奥から悲鳴が聞こえてきた。
――もう、敵軍を捕らえたのか。それにしては、声が近すぎる。逃げた敵がすぐ近くにいるとは思えない。煙を抜けると何がある?
煙が立ち昇っている幅は50mも無く。佐々木はすぐに煙地帯から抜け出ることができた。
「何だ! これは……」
佐々木が見たのは無数の鉄の塊だった。
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(出雲大社軍伏兵・木曽義仲軍視点)
黒旗を持つ兵が駆け抜けて行くのを見て、義仲が号令した。
「これで味方は過ぎ去ったな。全車進撃! 機甲隊! 敵を踏み殺せ!」
煙の向こう側に隠してあった蒸気トラクター500台が一斉に前進を始めた。煙を出しているカグヅチストーブを倒しながら進んでいく。
義仲と巴御前は左翼と右翼に分かれ、指揮車両として蒸気ショベルカーの土を救うバケット部分に乗っていた。アームを上げて高見から戦場を見渡す。
大弓で敵を射殺しながら義仲が、蒸気トラクターに同乗している鉄投隊に命じた。
「トラクターに上ったり、横をすり抜ける敵を許すな! 腕が千切れるまで投げ続けろ!」
右翼の巴御前もバケットから大弓で矢を放ちながら叫ぶ!
「我が子、清水義高の恨み! 虫ケラのようにお逝き!」
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(源氏軍中央・土肥兼平視点)
佐々木軍の後を追い、煙の中に突撃していく梶原軍を見て、土肥実平は怒りを爆発させた。
「梶原まで行ってどうする! 何のための後詰か!」
敵右翼を攻めていた和田軍も指揮をする和田義盛がいないため、次々と煙の中に攻め込んでいた。
――煙の中に入っていった兵は1万6000。負けない数ではないが……。
「和田を呼び戻して、前衛に付かせろ。土肥軍は3つに分け、3000ずつで新たに両翼を作る。煙の中を調べるよう騎馬兵に――いや、待て。煙が晴れてきた」
煙が薄くなっていく中、見えたのは逃げまどう源氏兵と、煙を吐く大きな鉄の塊だった。
「スサノオの異名は大魔王と聞く。あれは妖術なのか……」
鉄の塊が左翼と右翼に並んでいるが、中央だけは空いていた。そこから飛び出した銀鎧と騎馬隊が逃げる源氏兵を討っていく。
――逃げてくる兵が少ない。みな鉄の化物にやられたのか……。
「和田軍に敵騎馬隊への攻撃を命じろ! 左右両翼は逃げる味方を助けるのだ! ただし、鉄の化物とは戦ってはならぬ!」
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(源氏軍・貴一視点)
――退却するフリして、敵全軍を引き寄せてから機甲隊で仕留める予定だったのになー。和田軍の強さは見積り直さないといけないね。
逃げる敵を銀の装飾をした槍で突き殺しながら、貴一はくやしがった。
蒸気トラクターで編成した機甲隊は人が歩くスピードしか出ないので、敵が向かってこないと戦えない。
貴一は横一列のトラクターの中で歯抜けになった部分を見て言う。
――勇敢なのは計算通り。平家だったらすぐに逃げてここまでは討ち取れなかった。
トラクターのうち20台ほどは、群がり昇ってくる源氏軍によって乗員が殺され、後方で停止していた。中央から弁慶隊が姿を現す。神楽隊は方陣を再編次第、機甲隊の後ろにつくよう命じている。
「スサノオ様、弁慶兄貴も敵を始末したようですね。もうそろそろ、しつこく追いかけてくる、あの豚野郎をエグってやりましょうよ」
騎馬隊副隊長の楊柳が追いかけてくる和田軍の騎馬隊を見て言う。
「ダーメ! 機甲隊の近くに誘導したほうが楽に倒せるんだから。ほら、和田以外にも我慢できない猪が飛び出してきた。さあ誘いながら逃げるぞ」
貴一は和田軍が迫ると機甲隊の前面を横切るように逃げていく。和田軍は横から鉄投隊の攻撃にさらされ、落馬するものが増えて行った。落ちた武者はトラクターで踏みつぶされていく。
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(源氏軍・土肥実平視点)
「大魔王め、御家人を次々と誘惑しおって」
追撃を命じた和田以外にも、貴一を狙って土肥軍の中から御家人たちが次々と飛び出して行った。そして鉄の化物の前で倒れていく。
実平は兜を叩きつけた。
「馬鹿どもが! 鐘を鳴らせ! 全軍撤退する!」
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(源氏軍・貴一視点)
「楊柳、敵が退却の鐘を鳴らした。囮の仕事は終わりだ。追撃で敵を減らすぞ」
「それじゃあ、エグっていいんスね!」
――そうだ、と貴一が言おうとしたときに伝令がやってきた。
「蓮華様より報告! 後方より敵襲! 数100!」
「100? それぐらい神楽隊で対処できるだろう」
「甘い香り。蓮華様がそれだけ伝えればわかると」
――安倍国道か!
「後ろに戻るぞ、楊柳」
「え~! また、我慢っスか~」
緊張した顔の貴一の後を、不満顔の楊柳が追いかけていった。




