第59話(1184年12月) 備前の戦い②・ボコられる
まず、佐々木軍8000が神楽隊・蓮華軍5000に、わずかな間をおいて和田軍8000が神楽隊・小夜軍5000とぶつかった。
神楽隊は100名の民兵を一つの小隊としている。縦横10名が正方形の方陣を組み。長槍と盾を持つ。ローマ帝国なのでよく使われたファランクスに近い。小隊中央で神楽隊メンバーがコール&レスポンスで指揮を取る。
機動力は鈍いが守りに強い。民兵を殺したくないという貴一の思想が反映された隊になっている。
この隊にはもう一つ特徴があり、小隊は各メンバーのファンをメインに構成されている。だから、人気のないメンバーの小隊は他メンバーのファンで補うため、メンバーの人気によって隊の結束力が変わる。
蓮華軍も小夜軍も50の小隊を敵に向かって「T」字に配置していた。攻撃を受けると中央がゆっくり下がり「Y」字に、最後には「V」字になり、半包囲するのが基本戦略となっている。機動力が無いため、敵の突進を利用して陣形を動かしていく。
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(出雲大社軍神楽隊・小夜軍視点)
戦いが始まると、右翼の小夜の元に伝令がきた。
「和田軍の猛攻により、第46小隊壊滅! 小隊長・冬香様討死!」
「嘘! ふっちんが! まだ始まったばかりよ! 急いで十二単を回して! ふっちんの穴を塞ぐの!」
十二単とは、神楽隊の中でもひときわ人気の高いメンバー12名を指す。メンバーのためなら死も顧みない兵が多く、当然、小隊も強い。
その後も次々と伝令がやってくる。
「第50小隊壊滅! 第42小隊敗走! 第48小隊――」
――端っこの第50小隊や、第42小隊にも攻撃している……。右翼の侍大将である私を狙っての中央突破じゃない! 敵は陣形を組まずに横一線で、面全体を攻撃している!
「前面の部隊を下げて、後方部隊は左右に展開。下がりつつ『一』の字に! 端が崩されたらこっちが包囲されちゃう! 急いで!」
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(源氏軍・土肥実平視点)
「和田のやつ、一転集中ではなく面で攻撃しても破壊力が落ちぬとは。このまま自制心がつけば、間違いなくやつは名将になれる――佐々木はいつも通り、敵左翼の中央突破だな。景時、中央軍から4000を率い、佐々木の後詰にまわってくれ」
「わしを敵本陣攻めから外すつもりか?」
「たまには人のために働いても悪くなかろう。わしもおぬしも山陽道の攻略が終われば三カ国の守護が約束されておる。ここは手柄を奪って嫉妬を得るより、助けて人望を得たほうがおぬしにとって得だとは思わんか」
梶原景時は実平より年上だが、過去に頼朝にとりなしてもらった恩義があるため、実平には頭が上がらない。4000の兵とともに佐々木軍の後方に移動した。
実平は戦場全体を再び眺める。
――敵を突き抜けて後ろに回りたいが、あの煙が引っかかる。ハッタリか、罠か? そのうち佐々木が明らかにしてくれるだろう。罠が無ければ景時の軍を合わせた1万2000で敵左翼を圧倒し、佐々木が罠にやられたとしても景時が救い出す。
これで敵本陣は両翼の危機に対応せざるを得まい。わしはゆっくり軍を進め敵本陣に圧力をかけるだけでいい。
「下手に手柄首を奪ったら、横腹に和田の突撃を食らうかもしれないからな」
実平はつぶやいて、一人笑った。
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(出雲大社軍中央・貴一視点)
貴一は和田軍の猛攻を受けている小夜軍を半ばあきれて見ていた。
予想より早い戦の展開に弁慶は落ち着かない。
「無茶苦茶な攻撃力だなあ。あんな敵がいると陣形を組むのがバカバカしくなるね。鉄投隊、予定より早いが煙の後ろに回って援護の準備をしてくれ」
弁慶が貴一に向かって叫ぶ。
「早く助けに行かんか! このままだと小夜が死ぬ! わしの子も!」
「え? どゆこと? 弁慶」
「さっさと行けぃ!」
弁慶は大薙刀で、貴一の乗馬の尻を叩くと、馬が小夜軍に向かって走りだした。
騎馬隊1000も貴一に続いていく。
――わしの子? はて?
「ハッ! もしかして2人がデキてるってこと!? 弁慶のやつめ、小夜隊にバレたら源氏軍相手じゃなくスキャンダルで崩壊するぞ」
貴一は頭を抱えた。
「あの豚野郎のどこからエグってやりますか?」
騎馬隊副長の楊柳が馬を寄せて聞いてきた。この名も三十三観音からとって貴一が名付けた。
――コイツは熊若の副長やっていたときはさわやかな好青年だったのに、義仲に預けたらすっかり野蛮になっちゃって……。
最近、頬に大きな切り傷が出来て、顔まで凄みを増している。
「外側を削るだけだ。中に切り込んでも源氏は退かない。後ろで手柄首をチラつかせば、前のめりになった敵軍の足を止められるだろう」
「その後は?」
貴一は戦場を見渡して言った。
「――退却だ」




