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革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~  作者: キムラ ナオト
7.一ノ谷の戦い三つ巴編
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第52話(1184年2月7日) 一ノ谷の戦い②・早暁

(源氏軍主力の将軍・源範頼視点)


 戦闘開始日を迎えた早暁。源頼朝の異母弟・義経の異母兄である源範頼(のりより)は、源氏軍本隊5万の将軍として平家軍本隊3万と防衛陣地を挟んで対峙していた。

 

――昨日までは万全の状態だったのに、義仲の奴め……。


 昨日、京から急報が届いた。木曽義仲が残党を率いて京に侵入し、火を放って回っているという。

 気の荒い坂東武者に略奪をされては困ると、京に兵を置いておかなかったのが裏目に出た。5万の内、5000を京に戻そうと源氏軍の中核である関東御家人に命じたが、みな平家と戦いたいと範頼に不満を言った。


――仕方ない。関東以外の武者に任せるか。だが、そうなると5000では不安だ。


 範頼は懐から紙を取り出した。頼朝からの指示が書いてある。


・先陣争いに加わらないこと。

・御家人と争わないこと。

・西国の武者に嫌われないようにすること。

・安徳天皇を戦で殺さぬこと。

・後白河法皇と後鳥羽天皇を守ること。

・後白河法皇と近づきすぎないこと。


 他にもくどいほど細々と注意を書きつらねてある。

 上洛途中で先陣争いをしたことで、頼朝に激しく叱責を受けた範頼は、それ以来、何かあるたびに頼朝の注意書きを取り出して見るようにしていた。


「景時、京には5000ではなく1万を送った方が良いだろうか?」


 範頼は側にいる梶原景時(かじわらかげとき)にたずねる。頭が切れ、汚れ仕事も厭わずやる頼朝お気に入りの御家人だ。範頼は後で頼朝に告げ口をされないよう、常に景時に気を使っていた。


「いいでしょう。義仲は法皇を幽閉し、北陸へ連れて逃げようとした男。何をするかわかりません。我々が賊軍にならないために兵を派遣すべきです。鎌倉殿の意にも反しておりません――さあ、陽が上ります。攻撃の合図を」


 範頼軍は5万の内、1万を京に向けて派遣すると、正面の平家軍に向かって攻撃を命じた。戦いは両軍の矢合わせから始まる。

 ここから先は細かい戦術など無い。御家人は名を上げるため、後先顧みず、手柄首を求めて戦うだけだ。坂東武者には個々の武勇があるため、それだけでも充分強い軍なのだ。


――さて、後は総攻撃の合図をする機会を待つだけ。


 範頼は見晴らしのいい丘に登って、目の前の戦いの様子と遠くとを交互に見ていた。義経の別動隊が、民家に火を放つ手はずになっている。平家軍の奥から煙が見えたときが総攻撃のタイミングだ。


 だが、それよりも早く異変が範頼軍の北側で起こった。平家軍であることを示す無数の赤旗が六甲山にひるがえったのだ。


――しまった! 敵も別動隊を動かしていたのか。それも1万以上!


 範頼は旗の数を見て判断する。梶原景時に助言を求めようとしたが、すでに一族郎党を引き連れ平家軍に攻めかかっていて姿は見えなかった。景時が切れ者といってもそこは坂東武者だった。そして源氏軍の特徴として優秀な侍大将は、みな先陣争いに加わるため、軍の後方になるほど弱くなっていく傾向があった。


「ここに雪崩れ込まれたら面倒だ。誰でもいい1万の兵で早くあの山を攻めろ!」 


 京へ1万、六甲山に1万の兵が向かったことにより、源平の主力軍は3万対3万の同数になった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(貴一視点)


「ほらな!ほらな! 俺の言った通りだろ! 弁慶。義仲の悪い意味での信用度は抜群だ。1万だぞ、1万。他のやつが京に火をつけてまわっても、こんな多くの兵を京には向かわせはしない。悪名は無名に勝るってやつだね!」


「わかった。わかったから、自慢げにはしゃぐな」


 貴一たちは六甲山に偽装の旗を立てる要員として1000だけ兵を残すと、速やかに下山して源氏軍の陣地から数キロ離れた林に軍を移動していた。今は身をひそめながら前方を京へ向かう源氏軍1万が駆け抜けて行くのを見ている。


「作戦通り、まずあの部隊に後ろから攻撃を仕掛ける。崩すだけでいい、深追いはするなよ。その後、反転して源氏本隊に攻めかかる。よし行くぞ!」


 出雲大社軍が後ろから1万4000の兵で攻めかかると、隊形も組まずに京へと急いでいた源氏軍は、何が起こったかわからず、京へ向かう者、立ち止まって戦う者、引き返えそうとする者と、行動の統一が取れず、たちまち混乱した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(源氏軍主力の将軍・源範頼視点)


 範頼の視線は落ち着かない。平家が築いた防御柵を取り除こうとしている正面主力、義経が攻めたときに煙が上がる西側、そして北側の六甲山を代わる代わる見ていた。

 六甲山に向かった兵は間もなく敵とぶつかる。


「なんだ、あの煙は?」


 六甲山から無数の煙が立ち昇るのが見えた。

 だが、範頼の問いに答えられるものは誰もいなかった――。

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