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革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~  作者: キムラ ナオト
4.戦うアイドル編
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第24話(1176年10月) 目指せ! 出雲維新

 出雲に向かって、貴一一行は紅葉に染まる山陰道を進んでいた。チュンチュンを連れていると目立つので、京都には寄らなかった。


 チュンチュンは帰りの道中、弁慶の背負い籠の中でずっと手を動かしていた。貴一の腰につけている革袋からは、丸めた紙が何本も突き出している。


「チュンチュン、この時代の紙は高価なんだから、そんなにバンバン使われるとさ……」


 チュンチュンは短い指を器用に使って筆を走らせている。


『出雲国、いえ、あたくしの未来のためですわ。はい、これは反射炉の設計図。次の紙をくださる』


「ちょっと待って。鉄鋼、造船、繊維、蒸気機関が、明治を支えた産業だってのは、わかるけどさー」


 貴一は設計図の一つを広げて見る。


「蒸気機関はいいんだけど、まだウチの国には石炭が無いんだよー。繊維産業にしてもさ、綿花は日本ではほとんど栽培していなくて、礼服以外は絹ではなく麻布がほとんどだ。チュンチュンは服を着てないから気づいてなかったんだろうけど――」


 貴一はゴワゴワとした目の粗い生地でできた服を見せる。


『そうですの? 綿花の栽培は山陰地方は不向きですし……。織機は改良して麻布の量産ができるか試してみますわ。問題は石炭です。木炭のエネルギー量は石炭の半分以下ですし、伐採しすぎて出雲の山から木が無くなってしまいそうす――確か山口県には有名な炭鉱がありましたわ。お攻めにならないの?』


「そんなことをしたら朝廷から討伐軍が来ちゃうよ。今の出雲じゃ平家には勝つのは無理。兵が1500人しかいないんだよ。だからさ、鉄砲や大砲を開発して欲しいんだ。そうすれば敵の大軍から出雲を守れる。蒸気戦車とかどう? 敵が驚いて逃げそうだ」


『でも火薬が無いのではなくって? 火薬の原料の硝石は少量を作るのにも時間がかかりすぎます。中国から輸入するしかありませんわ。蒸気戦車? 蒸気機関車のイメージで言っているのでしたら、とんだお馬鹿さんです。レールの上ではなく荒れた路面を走ったら、人が歩くより遅いですわ。そんな速度でも役立つのはトラクターぐらいじゃないかしら』


「だとすると、銀山のときのように朝廷の有力者に炭鉱開発をさせて、石炭を買うしかないのかー。金は鉄を売って調達するとしかないな――また鉄山に怒られそうだ……」


 チュンチュンは下腹を見ていた。


『あなた、お願いがあるのですけど……。さっき、服を着てないって言われてから急に恥ずかしくなってきましたわ。お召し物を作ってくれないかしら? シルクの可愛いの』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 貴一たちは出雲へ着くと、弁慶には軍の状況の確認に。熊若には牧人と共に牧場を見てくるよう指示を出した。そして、出雲国の首脳を集めた。鴨長明と絲原鉄心である。

 すでに帰国日は知らせていたので、二人ともすぐに大神殿にやってきた。


「スサノオ様! 神聖な場所に妖獣を入れるとは……」


「帰ってきたかスサノオ。おっ、変わった熊だな。珍味なのか?」


 渋い顔をする長明と、好奇の目を向ける鉄心に貴一は言った。


「珍味でも獣でもない。神の使い、チュンチュンだ」


「チュンチュン? そのような名の神はいません。異国の神ですか?」


「発明の神だ、鉄心は俺のことを福の神と言ったが、チュンチュンはさらなる福をこの国にもたらしてくれる。その証拠がこれだ」


 貴一はチュンチュンが書いた設計図を数枚、二人の前に広げた。


「チュンチュンが描いたものだ。この大きな道具を作れば、少ない人で多くの仕事ができる。だが、そのためには石炭、燃える石が必要だ」


「ククク、燃える石? ますます話が怪しくなってきましたな。スサノオ様は騙されているのです」


「俺も見たことがあるから心配するな。木炭のような石だと思ってくれ。それでな、鉄心。石炭が長門国にあるらしいんだ。長門国の国司を動かして採掘させようと思っている。だが、そのためには金がいる。鉄を取引材料にしたい。将来必ず何倍もの富となって帰ってくる! 信じないかもしれないが、そこを何とか――」


「信じよう」


「いや、そんなこと言わずに――え!? 信じてくれるの」


 設計図の一つを見ていた鉄心は、懐から紙を取り出すと横に広げた。


「わしもおぬしが奥州に言っている間、寝ていたわけではない。これは博多で大金を払って南宋の商人から手に入れた高炉と呼ばれる物の設計図だ。見ろ、ほとんど同じだ。石炭の話も宋人から聞いている」


 貴一は鉄心の設計図を見た。チュンチュンに顔を向ける。


『何ですの、そのすでにあるじゃん、ってお顔は。高炉はそうかもしれませんけど、反射炉は違いますわよ』


 チュンチュンは反射炉の設計図を短い手でバンバン叩いた。

 鉄心が言う。


「採掘はこっちでやらせてくれ。そのほうが早い。今、日本で一番採掘技術が優秀なのはわしらだからな。実は高炉も試しで作っている。後でチュンチュンに見てもらってもいいか?」


「ああ、わかった。長明もいいな」


「まあ、鉄心殿が良いというのなら……。私の管轄でもありませんしね」


 話についていけない長明は反論を諦めたらしい。

 今度は長明が紙を取り出して、説明を始めた。


「出雲国の内政は順調です。こちらを見てください」

石高 6万石 → 9万石

人口 4万人 → 6万人

牛馬 300匹 → 600匹

鉄 180トン → 200トン


「水田は区画整理と集団農業により効率が上がり、あまった農民を開拓に回すことができました。来年もこの伸びを維持できます。予想外だったのが、人口の増加です。スサノオ様が掲げた、『一日一食は必ず米だけの飯が食べられる』、『流民用の長屋を建てる』、『月に一度の布衣の支給』が口伝てに拡がって、移民が殺到しました。このままでは『一日一食』の維持が困難なため、受け入れを制限しています」


「人口は国力だよ。もったいないなー。他国から米を買えないの? 牛馬を買う鉄がまだ残っているだろう。1000匹買う予定だったよね」


「おい、スサノオ。無茶を言うな。わしらも頑張って買い漁ったんだぞ。おぬしが思うほど、山陰山陽には牛馬がおらん。これ以上買い占めると、値段が暴騰して周りの国から恨まれる。だから止めておるのだ」


「ゴメン、ゴメン。別に責めてるわけじゃないよ。鉄心たちの買い付けと軍の傭兵仕事は、他国の情報を知るのに十分役立ってるしね。鉄を使って、周りの国に嫌われない程度に、米と麻を買ってくれ」


 長明が渋い顔をする。


「そんなに人を増やしても、開拓の場が混乱するだけです」


「だったら灌漑に回す。干ばつが来たときのために水路を張り巡らせたいんだ。チュンチュンは鉄心と二人で、これの開発を優先させて」


 貴一は1枚の設計図を指さした。


『蒸気揚水ポンプね。蒸気機関を作る手初めにちょうど良いですわ――え? 二人でって、私についてこないおつもり!』


「俺も仕事あるの。ずっといっしょにはいてやれないよ。鉄心、チュンチュンは話せないけど筆談はできるから。それと新鮮な笹をたっぷり用意してあげて」


「おぬしはどこに行く?」


「長門の国司に会って、石炭がある山林を借りられるよう話をつけてくる」


「スサノオ様が行っても無駄です。喧嘩してこじれるだけでしょう。私の弁舌を持ってしても、あの御方相手では――」


 自信家の長明が珍しく頭を抱えていた――。

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