エピローグ(2020年)
これで最後の投稿になります。ここまで読み進めて頂いた皆様には感謝しかありません。本当にありがとうございました。もしよろしければ、完走した筆者へのご褒美・ねぎらいとして、読み終わった後に下へスクロールしていただき、評価点を入れていただけると幸いです。
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ベッドの上で目を覚ました貴一は部屋を見渡した。転生前と何も変わっていない。
「リアルな夢だったな……」
貴一は空腹を感じるとアパートを出てコンビニに向かった。そのとき、通行人の中国語が耳に入ってくる。
「今の中国語は昔と全然違うなあ……。え? なんで中国語がわかる!?」
貴一はコンビニで傘だけを買うと、外に飛び出して振ってみた。
周りの通行人からは奇異の目で見られたが、貴一はそれよりも、達人並みに動く体に驚いていた。
「本当に転生していた!」
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貴一は現代に戻れたらやろうと決めていたことを実行すると、周りは貴一を笑って馬鹿にした。
「帝都大学の編入試験を受けるだって! ウチの大学の偏差値知っているだろ。入れるわけがないじゃん!」
――簡単じゃないのはわかっているさ。だけど、俺は諦めない。こっちの世界で1週間過ごした結果、決心はより強くなった。
数カ月後、貴一は皆の予想を裏切り、南宋と平安時代の論文で帝都大学への編入が認められた。
――俺は800年前、人類の頂点にいた。だが、今のほうがメシも美味しいし、生活も快適だ。もし、俺が今度、信長や秀吉に転生したとしても、きっと今の生活をうらやましがるだろう。現代の民の生活は過去の王者に勝る。
貴一はリニアモーターカーに乗って東京から京都へ向かう。社内に流れているCMを見て思う。
――世の中は健康食品やアンチエイジング商品であふれている。不老不死を売る相手は、始皇帝じゃなく民衆だ。歴史を通して知ったことは、庶民が手に入れることができないものは、広い土地と、人を支配できること、ぐらいだ。そして、それは無ければ不幸というものではない。
安倍反対デモの横を歩いたが、もう貴一は目もくれない。プラカードの安倍総理の顔写真が安倍国道に似ていることにも気づかなかった。
――不満がリアルじゃない。それじゃ民衆はついてこない。民衆はお前らよりずっと心が広い。投票率が低いのは、民の余裕の表れだ。本当に革命をしたいのなら、民衆の怒りに火をつけたいのなら……。
貴一は転生していたときを思い出す。
「飢えさせることだ。食が関わってはじめて、民衆は怒る」
比叡山にある帝都大学のキャンパスに入り、創設者であり初代総長・鴨長明の銅像の横を通る。
貴一が向かった先は合格した文学部のある建物ではなかった。
――俺は転生で思想より科学技術が民を幸せにできると確信した。現代に戻り、化学肥料の偉大さを知った。
俺は理工学部研究室の扉をノックした。
中に入り、白衣を着た女性に声をかける。
「チュンチュン、俺に科学を教えてくれ」
(完)