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革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~  作者: キムラ ナオト
終.最後の戦い編
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第117話(1192年~1195年) 農民スサノオ

 関ケ原の戦いから3カ月後。


 朝廷がある京都御所の正門を、スサノオを先頭に儀典用の装束を着た出雲大社の幹部が列をなして入っていく。

 中では後鳥羽天皇をはじめ公卿が並んで待っていた。関白・九条兼実はすでに法然の元で出家しており、ここにはいない。


「これより、国譲りの儀式を行う!」


 鴨長明が高らかに宣言すると、後鳥羽天皇が書状をもって貴一の前に来る。

 読み上げる声は声変わり前の少年のものだった。


「天孫がこの国をスサノオ神に譲ります。その代わりの住まいとしてスサノオ神の住むところと同じ大きさの宮殿を求めます。そうすれば朕は永遠に隠れ、公卿・朝臣たちも朕に従いスサノオ神に背くことはないでしょう」


 天皇の言葉は、かつて大国主神(おおくにぬし)天照大御神(あまてらすおおみかみ)に、国を譲る際に言った言葉を元に、長明が考えた文面である。


「スサノオ神が天孫よりこの国を受け取ります。天孫の望みは叶うでしょう――そして私はここに誓う。いずれ、この国を民に譲ることを」


 天皇でなくなった少年は貴一の言ったことが、理解できず、きょとんとしていた。

 大国主神は国譲りのときに出雲大社の神殿を建ててもらったが、少年には出雲にある貴一の屋敷が与えられる。宮殿には程遠い小さな屋敷を見たとき、少年は貴一の平等思想を実感するだろうか。


 しかし、これで貴一の理想国家樹立とはならなかった――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 1195年・奥州平泉


 統一から3年後、貴一はただの農民として蒸気トラクターに乗っていた。


「もういい加減、戻ってきてはもらえませんか。スサノオ様が一人頑張ったところで、耕せる土地など微々たるものです」


「それはトラクターが少ないからだ。もっとこっちに回せ」


 輿に乗った長明に、貴一は毒づき返す。


 3年の間に、蒸気トラクターや鉄道の整備は進み、農業生産は飛躍的に伸びた。民は農閑期にはライブも楽しんでいる。ただし、それは西国の話で、開発の進んでいない東国とは格差が生まれ、平等な国家とはとうてい言えなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 貴一は統一後、食糧の全国一律配給を決めたが、配給となると必然的に食糧生産の多い、山陰山陽の米を他の地域に配ることになり、出雲大社の1日米2食制度が崩れた。それでも貴一は押し切ろうとしたが、出雲大社の民が許しはしなかった。


 出雲大社を数十万の民が囲んで貴一に訴える。


「数万の戦死者を出し、源氏との戦いの勝った出雲の民が、なぜ敗者に米を渡さなければならないのですか! これでは敗戦国だ!」


 貴一が民の前で説得したが無駄だった。結局、貴一は(出雲大社に住む民の)民意により最高指導者の座を追われた。


 代わりに最高指導者となった長明は、日本をいくつかの行政ブロックに分け、ブロックごとに収穫したコメを配給することで、ブロック内平等を目指す政策に変え、民を納得させた。


 貴一だけは「地域格差が生まれる」と言って反対したが、同意する幹部は誰もいなかった。ブチ切れた貴一は最高指導者だけでなく、新政府からも去ったのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 長明が懇願を続ける。


「民も戻ってきて欲しいと言っております」


「よく言うよ。俺が東国にいるのが不気味なんだろ? 兵を集めて西国を攻めないかって。俺は西郷隆盛や足利尊氏にはならないよ。言ってもわかんないと思うけどさ。蝦夷の若者に武術を教えているのも単なる趣味だ。だいたい、俺はあんな自分勝手な出雲民の元に戻りたくはない」


「そんな民にしたのはスサノオ様です。寺社や豪族の搾取を憎むように教えたではないですか。民はスサノオ様に搾取されると感じて怒ったのです」


「俺が搾取だって?」


「出雲大社の民の米を奪うと言われました」


「貧しい国に平等に分け与えると言ったんだ」


「言葉は違えど、民にとっては同じことです。権力者によって食べる米が減らされるのですから」


「……。もういい! そんな話は聞きたくない」


「スサノオ様、この国はゆっくりですが民が米を食べられる国に代わっています。10年後には関東が、20年後には奥州も開発が終わります。待つだけで良いのです。待つだけで」


「お前さー、待つってことが、俺にとって一番残酷な言葉だと知っている癖によく言えるよな」


「スサノオ様より民が大事ですからね。これもスサノオ様の教えです」


「……」


 言い争いでは、貴一は長明の敵ではなかった。


「そう拗ねないでください。私もスサノオ様のことを考えております。ここに法然上人を連れてきております。かの者なら何か知恵を出せるかもしれません。転生の件を話してみませんか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 奥州平泉・貴一の屋敷


 貴一は法然に転生の条件を説明した。側で長明が補足説明をする。

 少し離れて、蕨姫、熊若が聞いていた。


「平等な国家の実現が800年後の転生の条件――」


 そうつぶやいた後法然はしばらく黙り込んだ。


「頼む上人。何でもいいから言ってくれ。俺はどうしたらいいのかわからないんだ」


 法然は難しい顔をする。


「これは、知恵とはいうより頓智の部類です。しかも多くの血が流れます――」


 法然は一つの可能性を話し始めた。


 すべてを聞き終わった後、貴一が頭をかきながら言った。


「大いなる矛盾だね。上人の言う通りにするためには、平等と真逆である強大な権力が必要だ。だとしても、他に選択肢は無さそうだ」


 貴一は長明を見る。


「長明、俺は中国に渡る。だが、人手が足りない」


「誰を連れて行きますか? ただ、新政府も人手不足なのは同じです」


「ああ、分かっているよ。俺も新政府の邪魔はしたくない。だから、牢の中にいるやつを貸してくれ」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 1カ月後、対馬監獄。


 洞窟内に作られた薄暗い牢の前に貴一はいた。中の囚人に話しかける。


「久しぶりだな、腹黒中年。俺を手伝ってくれ。悪だくみを考えられる謀略家が必要なんだ」


 貴一が牢の扉を開ける。


 中から文句を言いながら出てきたのは、源頼朝、梶原景時、韓侂冑、絲原鉄心の4人だった。

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