066.罠を仕掛けます
「では向かうとしよう」
祈りを捧げ終えたヒューバートさんは、顔を上げるとそう言った。
香炉はまだ暫くここに置いておくらしい。狩りが終わってからか、明日になってから取りに来るつもりだそうだ。
時間が有ればこの遺跡もゆっくり見学させて欲しいと思う。石柱の彫り込まれた紋様が、ちょっと気になるのだ。
彼らの先祖の大事な遺物だから、断られるかもしれないけど頼んでみなくては。
「どの辺りに居るのか、ある程度は分かっているのですか?」
迷い無く足を進めるヒューバートさんに、蜘蛛の塒の場所を聞いてみる。
「ああ。あいつは巣を張らないタイプの蜘蛛だから、活動しない日中はこの先にある洞窟に潜んでいる事が多いみたいだ」
南の方……つまり森の更に奥の方をヒューバートさんは指差す。
ウィルウルマイヨールはダークエルフ達が数人掛かりで挑んでも倒す事が難しい強い魔物だから、なるべく遭遇しない様に居場所を把握しておく必要があったらしい。
「洞窟なら火を掛けるとか、追い込んで倒したりは出来なかったんですか?」
森の中で大型の魔物を取り囲んで戦う事は難しくとも、洞窟などの限られた空間なら追い込むことは容易なのではないだろうか?
「洞窟とは言っても、かなり広くてな。出入りできる場所も一つでは無いのだ」
雨水や地下水の流れによって岩盤が削られて出来た洞窟らしく、長い年月を掛けてその範囲を広げているのだとか。鍾乳洞の様な物だろうか。
追い込もうとしても逆に待ち伏せされて襲われる危険の方が高かったらしい。
鐘半分程歩いただろうか。
真っ直ぐに南下しているという訳では無く、時には大きく迂回しながらの道程だった。
樹上で生活する中型の生き物の鳴き声や、そこここに残された移動の痕跡などから、大型の肉食の魔物等を避けて移動していたらしい。
それでも行く先を見失わないのだから、やはり彼等は森に暮らす人なのだなあと思いながら、遅れぬ様になるべく音を立てない様にして付いて行く。
「あそこに見えるだろう? あれが洞窟の入り口だ」
大分先、木の間に紛れて影なのか岩に空いた穴なのか、はっきりとしないぐらいの位置からヒューバートさんは指差して教えてくれる。
これ以上近付くと音や臭いなどで蜘蛛に気付かれてしまうらしい。
「それで、罠に掛けると言っていたが、詳しく聞いても良いだろうか?」
あれは蜘蛛と言えど強い魔物で、生半可な武器の攻撃は通さないし、魔法耐性もかなり高いから、村の近くに出て来る様になっても我々もどうしようも無かったのだとヒューバートさんは続けた。
「罠と言ってもそんな難しい物じゃ無いですよ。そもそも相手はこちらを格下だと思って、言ってみれば舐めて掛かっている状態な訳ですよね。なので、誘き出すのは容易だと思う訳ですよ。そこで、出て来た所でこの網を被せて捕まえる訳です」
動きを封じ込めた後は、止めを刺せば良いだけなので。特に作戦という程の事は有りませんよ。簡単でしょう?
と言えば、
「あれは力も強い魔物なのだ。果たしてその網で捕らえる事が出来るだろうか?」
とヒューバートさんは不安そうに答える。
「そこら辺は大丈夫ですよ。こう見えても特別製なので、千切れたりはしないのです」
何と言ってもララ特製の蔦で編んだ網なので。
それよりも問題は、三メートル近くもある様な大きな魔物を捕らえるのに、網を上から落とすべきなのか下から跳ね上げるべきなのかという事だったんだけど、下からだと蜘蛛だし飛び跳ねて逃げられそうだから、上から落とす事にしたんだよね。ちゃんと綺麗に被さる様に、ララがサポートしてくれるそうです。
実際の所、幾ら強い蜘蛛と言っても、妖精達の魔法までは弾けないだろうし、ユースタスも居るし。
俺……は、俺はどうなんだろう? 今一自分のスペックを計りかねているんだけど。
兎も角、蜘蛛を倒すだけなら、多分それ程難しい事じゃないんだ。
でも、全部を俺達がやっちゃうっていうのは何か違うんじゃないかなって。
俺は別にボランティア精神に溢れている訳でも無いし、世の為人の為に尽くす心算も無いし、悪を倒す勇者でも無い。
ちょっと力が強いだけの、普通に楽しく生きて行きたいと思っているだけの(多分)ドラゴンなのだ。
それでも、関わった相手の事を見捨てる事も出来ないから、相手がする事に手を貸すという形を取る事が、俺に出来る俺が納得する譲歩の手段なんだと思う。
魔法薬に関してもそう。
ちゃんと対価を要求しなきゃなんだけど、市場の適正価格を請求しても無理な相手だから、お金じゃなくても俺が認められる相応の物となら取引しますよという形を取りたいのだ。
面倒だよね。
でもな~、何だろう?
相手と対等で居たいのかもしれない。
デイライト君は基本的には善良なので、知り合いが困っていたら手を貸して上げたいんだけど、手を貸す事が当たり前だと思われたくないという感じです。
人と人のお付き合いって難しいですよね。
何時もブックマークや評価などありがとうございます。少しでも面白いと思って頂けると嬉しいのですが。




