065.森の中の……
「それでは行ってきます」
そんな大したことをしに行く訳でも無いのだから、見送りは必要ないと断ったんだけど、ヒース君とシルビアさんと、それから銀髪に銀色の瞳の美人さんが村の門の所まで来てくれた。
銀髪の美人さんはマリオンさんといって、ヒース君の叔父さんのヒューバートさんの彼女さんなんだとか。へー。へー。
ウィルウルマイヨールを討伐しに行く恋人の見送りとあって、ちょっと涙目なんだけど、別にそんな危険な事は有りませんよ~。
何かもう美男美女ばっかりで一周回って普通なんだと思う事にした。
ヒューバートさんは、森の中で戦うからなのかショートソードと短弓を装備している。防具は何かの革の胸当てと籠手と脛当てという、オーソドックスなエルフのスタイルだ。
ちなみに俺はエイデンさんが作ってくれた霊銀製のナイフと解体用のナイフだけです。防具はどうしようかな~と思ったけど、長旅に余計な物を持ち歩くのは邪魔になるだけだし、そもそも門の所で装備がどうこうと言われないための飾りみたいな物だったからね。
今の所鱗より丈夫な物を見た事が無いし、そもそも俺が怪我をする様な事態になる前に、過保護な妖精達が何とかしてくれるだろうし。
それから、昨晩妖精達に手伝って貰って作った罠を麻袋に入れて持って行く。それ程重くは無いんだけど、ちょっとだけ嵩張るんだよね。
後は蜘蛛を倒した後に毒を採取して持ち帰るための瓶を、保険分も含めて数本。
それからお弁当。
食べる事は生きる事だからね。大事な事ですよ。
放っておくといつ迄も別れを惜しんでいそうなんで、適当な所で引き離して出発しました。
先導するヒューバートさんに付いて、森を歩く。
虫の声や鳥の囀りや動物か魔物の声が入り混じって、濃密な空気を醸し出している。
王都みたいな都会の雑踏も、そこそこに騒がしい物だと思うけれど、森の中はまたちょっと違った雰囲気がある。
ヒューバートさんから逸れない様にだけして、きょろきょろと周りを見回しながら進む。
森の中に土地勘は全然無いし、どっちがどの方角かなんてさっぱり分からないんだけど、何となくロスティクス村の位置はどっちに在るのかは分かる。これはよく分からないけど、ドラゴンさん的な物から来る感覚なのだろうか?
多分にあやふやで当てにならない感覚だけれど、ユースタスは匂いを辿れるし、オスカーは火の有る所なら簡単に移動できるし、とかまあ簡単に村に戻る事は出来るから、気楽な感じで歩いているのです。
「あれ? これは人工物?」
下草が少なくなって、ちょっと歩きやすくなったと思ったら、足元は少しでこぼこしているものの石畳になっているし、規則的に石柱の様な物が建っている。
「ああ。ここは我々の祖先が造ったと言われている遺跡だ」
何かを成し遂げようとする時に、祈りを捧げに来る場所なのだと言って、ヒューバートさんは石柱の苔生した表面を撫でる。
「余りにも昔過ぎて、長生きな我々でも、ここが何のために造られたのかも分からないし、そして造ったのは我々の祖先だと言われているけれども、本当の所ははっきりとはしていないのだ」
そう言いながら先に進めば、石が積み上がって祭壇の様になっている場所に出る。
「ここに供物を捧げ、祈りを捧げるのだ。……普段は獲物を持って来たりとかするんだが、今回は特別だからな」
特別に難しい事を成し遂げようと思うならば、特別な供物を捧げなければならないのだと、ヒューバートさんは振り返って言う。
「俺は特別な捧げ物にはなりませんよ?」
この後薬を作らなければならないし、まさかそんな事は無いとは思うけれど、一応釘を刺しておく。
「当たり前だろう?」
何を言っているんだという顔をされて、いやそんな風に話を振って来たのはそっちの方だしと、ちょっと理不尽な気分にさせられる。
ヒューバートさんは腰に下げた鞄から、小さな容器を取り出して祭壇に置く。
容器の中にある炭の様な物に火を点け、暫くしてから灰の中に埋める。
それから鞄の中から綺麗な布に包まれた物を大事そうに取り出して、布に包まれていた黒ずんだ木片の様な物をほんの少しだけ薄く削り取って灰の上に置いた。
「これは滅多に見付からない貴重な物だからな。こんな時に使うのこそ相応しいだろうと、村長から借り受けて来たのだ」
どうやら木片に見えた物は、お香の一種らしい。
祭壇に向かい跪いて祈りを捧げるヒューバートさんに倣う様に、俺も同様に黙祷したのだった。
デイライト君的には特に危険も感じていないのでかなり観光気分です。
そしてお香の事を書いておきながらアレですが、作者は全然詳しくありません。諏訪緑先生のうつほ草紙を思い出しながら書いてたぐらいです。
犬と暮らしていると、アロマ系とか何がどれだけ体に悪いのか詳しく分かっていない部分があって、結果使わない生活を送る事になるのです。もし間違っている様な記述があった場合は、こっそり教えて下さい。




