060.敢えて名産を食べない
「ま、俺達の実力を持ってすればこんなもんですよ」
そろそろ日も沈もうかと降りて来て、空の色が茜色に染まり出した頃、少し遠くに城壁に囲まれた都市が見えて来た。
まあ、俺は跨っているだけだったんだけど。
「閉門になっちゃう前に、街に入ろう」
ユースタスに騎乗したまま行くと騒ぎになるだろうから、ちょっと遠目だけどここらで降りて歩いて向かう事にする。
荷物は二つに分けてあったから、一つをユースタスが持ってくれる。
「足がガクガクかもしれないけど、頑張って」
ほら行こう。と、ヒース君の背中を軽く叩いて歩みを促した。
どうせなら野宿するより宿屋に泊まりたいし、ご飯だってちゃんとした物を食べたいと思って、当たり前のように街に向かったけれど、よく考えたらヒース君は身分証を持たないダークエルフだったんだよね。
布を巻いて顔を隠していたとして、門の所で身分証が無ければ割としっかり調べられてしまうから、どうすれば良いだろうか。
と言う事を言ったら、大丈夫だとヒース君に返された。
「ここはうちの村から一番近い都市だから、村では手に入らない物を買いに来れるように、商業ギルドの出店証が有るんだ」
との事らしい。
森で採れた薬草や、狩りで手に入れた皮何かを売りに来て、そのお金で必要な物を買うんだって。
なので街に入れるけれども、アフロスート限定になるのだとか。
まあそんな訳で、ぎりぎりとは言え閉門には間に合った。時間が押しているから衛兵さん達がやっつけでチェックしていた感も有ったけど。良いんだろうか?
こちらも犯罪を犯すつもりも無いから、良いんだけどさ。
兎も角も無事街に入れたので、先ずは宿屋を探す。門から入って大通り沿いの宿は、それなりに安全でそれなりの設備が揃っていて、そして割高気味。
ヒース君も何度かは連れて来て貰った事が有るらしいんだけど、街で泊っていく様な事は無いので、どの宿がお薦めなのか分からないそう。
「お姉さん、蒸し饅頭七個頂戴!」
困った時は屋台の年配のお姉様方ですよ。
おっちゃんでも良いんだけど、おっちゃんはおしゃべりなのとそうでないのとを見分けなければならないから、ちょっとハードルが上がる。おばちゃん達は基本おしゃべりだし、お節介過ぎるぐらいに親切だしね。
「はいはーい。あら、あんた達見ない顔だね」
屋台のお姉さんは蒸し籠の蓋を開けて竹製の火ばさみで熱々の饅頭を掴むと、手早く竹の皮みたいなので包んでくれようとするので、断ってそのまま受け取る。
饅頭と言っても食事寄りの奴だから、肉とか野菜が入っているんだけど、地域とか屋台毎に微妙に中身が違っていて面白いんだよね。
「そうそう、今さっき着いたばっかり。王都からこっちでしか採れない薬草とかを仕入れに来たんだけど、さっき門を潜った所で、宿も取ってないんだけどお薦めの所とか無いかな?」
自分の分の饅頭はユースタスに持っていて貰って、妖精達にも熱々の饅頭を渡していく。
オスカーとエドワードは丸ごと一つ渡しても、器用に口に咥えて食べている。
ララとゾーイは口が小さいから、四分の一に割ってから、差し出して上げる。
饅頭は割ると、更に湯気が噴き出して食欲をそそる。割った断面を見ると青菜の刻んだのと、筍の針切りが入ってるのかな。
これから夕飯を食べるんだけど、まあこれ一個ぐらい食べても大丈夫だろう。
そんな訳でまんまとお薦めの宿を教えて貰って、屋台のお姉さんにお礼に鞄に入れておいたハンドクリームを一瓶渡した。傷の治る奴ね。軽い怪我とか火傷ぐらいなら治るからって説明して渡したら、とても喜ばれました。
こっちの方まではレシピが回って来ていないのかな? まあ、王都でも生産が追い付かないから、大々的には売り出していない訳だし、仕方が無いのかも。
教えてもらった宿に行って、俺とユースタスで一部屋(狼型で従魔として一人部屋を取っても良かったけど、妖精達も居るから二人部屋の方が広くて良いかなと思って)ヒース君で一部屋確保して、受付のお姉さんに流行りの食堂を聞く。
ここら辺の地方は花が綺麗で有名なんだけど、食事にも花が使われていたりするんだって。
花から取った香油とかが特産品なんだそうです。
へ~っと思って頷きながら、花がメインじゃない食事処を紹介して貰いました。
綺麗なのとかは良いとは思うんだけど、これから森に向かう訳だし、がっつり食べたい気分なんだよね。
森っていうと肉っていう貧相な連想から、魚の美味しいお店に食べに行く事にしました。
魚のぶつ切りが入って辛くて赤いスープとか、白身魚のフリッターとか、丸ごと一匹の魚に香草と餡が掛かった奴とか、どれも美味しかった。
割と大き目の魚が獲れるのは、近くに大きな湖が有るからだそうです。羨ましい。王都だと干物か出ても川魚ぐらいだけど、頻繁に食べられるほどは出回って居ないんだよね。
貴族とか大商人とかだと、魔道具で凍らせた魚を海から運んで食べたりするらしいけど。
お腹いっぱい食べたら宿に戻って、身体を清めるのは桶にお湯一杯幾らみたいな方式だったから、盥だけ借りてオスカーとゾーイに頼んでお湯を作って貰って、盥に入って掬ってお湯を掛けつつ済ませたんだけど、お湯代が勿体無いと思っている人は、井戸端で頭から水を被って布でちょっと擦って済ませるんだって。
何と60話です。話の内容は何時もの通りですが。ここまでお付き合いいただいてありがとうございます。この先もこんな感じです。
本日6時よりカクヨムさんで先行公開していた新作を投稿します。『猫のナオさんと私の異世界ダンジョン物語~飼い猫を【撫でる】スキルがチートだった件~』です。6時12時18時に投稿する予定です。ダンジョン運営物です。チートと言いつつ余りチートっぽくもなくスローライフなんですが、よろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




