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037.取り敢えず一段落

「て訳で、ちゃんとギルドに製法を登録して来たから、その内出回るんじゃないかな?」

 ユリアナさんの屋台で串焼きを買って、代金を渡しながらそう報告する。


「あら、わざわざ教えに来てくれてありがとうね」

 あらかじめ串に刺してある肉を、網の上に並べたり刷毛でタレを塗ったりそうじゃ無い奴には塩や胡椒を振ったり。朗らかに話ながらも、ユリアナさんの手は高速で動いている。

 熱さを感じ無い筈は無いのに、素手で串を掴んで丁度良い火加減になる様に、適度に引っ繰り返したり網の上の位置を換えたりしているから、指先は結構火傷が出来たりしている。

 働く強くて優しい手だから、ハンドクリームが沢山出来た時に、彼女達に上げたら喜んで貰えるだろうかと思ったのだ。


「値段も半銀貨一枚に収まる様にって条件付けといたから、買いやすいと思うよ」

 裏書の効果は抜群で、値段を抑えた事に対して不満が出るかと思ったけど、割とあっさりと受理された。

 まあちょっと受付したギルドの職員さんの眉間に、皺が寄ってたのを見ちゃったけど。


「そうそう、その事なんだけど。一月に一人一瓶分確保して置いて欲しいんだけど」

 屋台から横にちょっとずれて立ち話を続ける俺を他所に、引っ切り無しにやって来るお客さんを捌きつつ、何なら冗談と挨拶と情報収集までユリアナさんは済ませてしまう。


「うえっ?」


「あら、内緒にしてても情報なんて洩れる物なのよね。これはね、一度使ったらもう二度と元には戻れない物なのよ」

 負けられない戦いがあるみたいな事言ってるけど、皺取りクリームとして使うつもりな事知ってるし……。

 でも逆らったら駄目な事も知ってるから、大人しく取り置きを約束する。

 ハンドクリームを作るために回復薬を作って薬草の残り滓を捻出するみたいな、本末転倒な事態に陥らない事を祈るしかない。


「大丈夫よ~。うちに来るお客さん達にも、お店の事宣伝しといて上げるから」

 いきなり沢山来ても困るだろうから、様子見ながらにしとくから。などと至れり尽くせりな事を言ってくれる。


「お手柔らかにお願いします」




「ほんとユリアナさん達には頭が上がらないよね……」

 最初に屋台で買い物した時からずっと、ちょっとした情報やアドバイスをしてくれる。

 見るからにお上りさんと分かるのか、それとも物慣れない風なのが彼女達の庇護欲をそそったのか。

 ちょっと強引で、そして丁度良い塩梅に手を差し伸べてくれるのだ。


「今日はー。注文してた看板を受け取りに来ました」

 特に変わった注文を付けた訳でも無かったから、決まった形に鋳抜くだけだったので、注文してから数日で出来上がったのだった。

 礼を述べて料金を支払い、持って来た布に包んで荷物用の麻袋に入れる。


「お店の名前、結局決まらなかったけど、看板が無いとお客さんも困るだろうしね」

 ユリアナさんが宣伝してくれると言うなら、仕事の早い彼女の事だから、直ぐにでも客が来る様になるかもしれない。


「ですのう。まあ、店の名前は追々決めれば良いのではないですかのう」

 決まったら、新しい看板を作り直すか付け足すか、またその時に決めれば良い事だと、肩の上に乗ったオスカーは言った。


「よし、じゃあ後はエイデンさん所に寄ってナイフを買ったら、夕ご飯のおかずを買って帰ろうか」

 看板も出来たし、開店祝いって事でお酒もちょっと飲もうか? そう言うと、途端にあれが食べたいとかこれが食べたいとか妖精達が騒ぎ出した。




「はー、お腹一杯」

 買って来たおかずと、ちょっと手を加えて出したツマミと、あれもこれもと用意したお酒とで、ちょっと動きたく無くなるくらいには食べたり飲んだりしてしまった。

 胡桃と干し葡萄入りのミートパイが、赤ワインが利いていて美味しかった。

 トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼも、黒胡椒とバジルが利いていてトマトも甘くて美味しかった。

 作り置きしてあった野菜スープも自分好みの味だし、鶏肉とブロッコリーのクリームパスタも簡単だけど美味しかった。

 その他にもあれもこれもと……つまりは食べ過ぎてしまった。


「ユースタスは、この体勢苦しくない? 大丈夫?」

 夕飯から飲みに移行する過程で、椅子に座ってとかちょっと怠くなって、二階の居間のラグマットの上に靴を脱いで上がり込んだ。


「主殿一人ぐらい軽いものだ」

 気にしなくて大丈夫と、尻尾がぽふぽふと腹の辺りを叩いて来る。


「なら良いんだけど」

 最初はラグマットの上で胡坐をかいていたんだけど、その内にちょっと眠くなってぐらぐらと揺れていたら、それまで酒を注いでくれていたユースタスが狼の姿に戻って寝そべると、寄りかかるようにと言ってくれた。

 ぽふんと身体を預ければ、ちょっとだけ表面の毛は硬めだけれど、下の毛は柔らかで。つまりは、もっふもふな訳で。

 顔を押し付ければ、毛皮の匂いと太陽の匂いが混じっている。

 肉球ってなんで藁の匂いというか、ポップコーンの匂いがするんだろうか。ちょっと固くなっている大きな肉球を突きながら考える。

 後でこの肉球にもハンドクリームを塗り込んでおかなければ。蜜蝋と薬草が主原料だから、多分塗っても大丈夫な筈。


「やっとスタートラインなんだけど、何か凄くやり切った感」


「お疲れ様ですわ、主様」


「生活を安定させつつ、これからは皆のしたい事もやって行こうね」

 美味しい物食べたり、観光名所に遊びに行ったりもしよう。


「魔法の勉強も、ぼちぼちしませんとのう」


「王都中の屋台を制覇するよ~!」


「綺麗な物を沢山見たいですわ」

 人の作る細工物とか、観賞用に品種改良された花とか、欲しいとは思わないけど色々見たいのだとゾーイが言った。

 と言う訳で、第二章は終わりです。まあ開店準備ですしね。いい感じ(?)で〆たけど、お話はまだまだ続きます。全然始まって無いんです……実は。


 三章からはもうちょっとファンタジーっぽい展開を目指したいけど、どうなる事やら。


 ここまで読んで下さってありがとうございます。評価やブックマークなどとてもとても励みになります。

 全然書き溜めが無くて行き当たりばったりなんですが、多分書き溜めてもそれは変わらないんで更新しつつの方がやる気が出るというか、追い立てられてちゃんと書くというか……。


 インフルエンザなど流行っていますので、皆さんも十分ご注意下さい。

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