032.開店準備の準備
下級回復薬と中級回復薬の作成方法を習うだけの筈が、上手い事乗せられて弟子期間が継続になった。
俺は魔力が多いから、魔力が必要な調薬を手伝って欲しいらしい。
そして、魔力が沢山必要な調薬方法は難しい物が多いらしく、もっと経験を積む必要があるらしい。
体良く使われているだけの様な気もしないでもない。
兎も角、王宮薬師はお給料を貰いながら研究している訳で、研究以外に一月の納品ノルマと言う物がある。
下級回復薬や一部の中級回復薬なんかは、平民の助手達が頑張って作っているのだけれど、上級回復薬や魔力回復薬や病気治療薬(総称してそう言うだけで、本当は症状に合わせて色々な薬がある)なんかは、調薬するのに魔力が多くないと作れないので、貴族である王宮薬師に予めある程度在庫を作らせるのだとか。
そういった面倒な作業が、経験を積むためという大義名分の下に大部分回って来たりだとかしている。
上級回復薬の調薬法何かは教えて貰えてとても有難かったのだけど。
「でもこれ、材料の入手出来るんだろうか……?」
完成品は店頭価格で銀貨五十枚なんだそうですよ……。平民が十か月暮らせるってどういう事?
調薬の合間に、王宮図書館からアイビンさんが借りて来た、それなりに貴重な資料も読ませて貰ったりしている。
本当に貴重な資料は、上級貴族でも限られた権限持ちの者しか借りられないのだとか。どんな本があるんだろう?
魔物の持つ毒の種類とか、王都近辺の毒草の種類とか。
毒と言っても色んな種類が有って、これさえ有れば安心という様な毒消しは無いらしい。
ただ、どこにでも在る様な毒草や弱い魔物の毒なんかは、それ程成分に違いが無いので汎用的な毒消しで何とかなるんだとか。
そんな訳で、毒消しの調薬方法も教わった。
そしたら市井で薬師として開業するには十分では無いけれど、必要な知識と技術は有るって事で、アイビンさんが裏書してくれてあっさり薬師免許を貰ってしまった。
「ついでにこれも書類を用意させたから、帰りにでも商業ギルドと薬師ギルドに出して来ると良いわよ」
と軽い調子でお使いメモの様に渡されたのが、薬師の営業許可の申請書だった。
申請書と言いつつ、こちらもアイビンさんからの、うちの弟子だからよろしく頼むわねみたいな感じに一筆付いているので、許可が下りるのは確定らしい。
ありがたやありがたや。
「それでも週に一回ぐらいは顔を出して頂戴な」
と言われたし、まだまだ読みたい資料も有りそうだし、暇な時はなるべく寄る様にしたい。
「と言う訳で、営業許可証ですよ……!」
台所のテーブルの上に、羊皮紙で出来た営業許可証と、薬師ギルドと商業ギルドのギルドカードを並べて置く。
登録は冒険者ギルドと同じ様に登録料が銀貨五枚ずつ掛かったのが、予想外の出費でした。換金用の魔石を予備で持ち歩いていて助かった。
税金に関しては登録した年は掛からずに、その後は売上から一割を商業ギルドに、もう一割を薬師ギルドに納めなければならなくなる。
「まあ、許可が出ただけって奴ですけど」
調薬用の器具は初心者用の奴が有るから、追々自分好みのに換えて行けば良いし、足りない器具もその都度増やせば良い。
後は商品の在庫を用意しないといけないのもだけど、現状顧客の当てが一つも無いという事がある。
「どうしても売れなかったら、冒険者ギルドで一定枠は買い取りしてくれるらしいけど」
勿論自分で売る価格と比べると二割程安くなる。
回復薬を作るのに材料費諸々で四割から五割が経費なので、更に二割値引きすると買い取って貰える数が限られているのもあって、生活して行くのにギリギリぐらいになるらしい。
俺は、アイビンさんの所でお手伝いすれば、助手の給料が支給される事になっているし、魔力量が多いから一日に作成できる本数もそれなりだしで、早々に生活に困る事は無いだろうけど。
「売れる売れないの前に、在庫をある程度作って置かないと……」
下級回復薬と中級回復薬を少々、それから毒消しも。
「素材を全部購入すると、売れなかった時切ないから、森に採取しに行くかなー。ついでに中級の素材も分かったから、それもちょっと取って来たいし」
薬師が自分で薬草を取りに行かないのは、採取できる薬草の量とその時間で作成できる回復薬の値段を比べると、回復薬を作っていた方が効率が良いからだ。
でも俺の場合は、先ず作った回復薬が売れるかどうか分からない。それから、妖精達が居るから薬草を見付けるのは普通の人よりも容易なのだ。
「大漁でした」
小鬼さんも大漁でした。要らないけど。
いや、要らない事は無いか。魔石を冒険者ギルドに持って行けば、魔石代と討伐代で半銀貨一枚にはなる。それだけで駆け出し冒険者の日当ぐらいにはなるのだ。
中級回復薬に必要なメドワ草とアギル茸は森の奥の方に生えているから、そっちの方は狼とか熊に似た魔物が出るんだけど、顔にファイアボールをぶち当てて、怯んだ隙に首を切り落としてしまえば大した事のない相手でした。
霊銀製のナイフに魔力を流せば切れ味抜群だし、動く速度とか動体視力とか地力の部分でこの体は大分楽をさせてくれるみたいで。
「これ持って帰るべきだと思う?」
狼も熊も大きいんだよね。
「どうですかのう? ある程度の金にはなると思いますがのう」
「一匹、一匹ぐらいでしたら、私でも持てると思いますわ!」
キリリっとした顔でララが言うけど、それ絵面が悪過ぎるので却下です。
「うちの子達、皆小さいからなあ」
特に不満は無いけど、荷物が多い時はちょっと困る。
「主殿、私の事を忘れて貰っては困る」
森に着いた途端に見回りして来ると一人奥に行ってしまったユースタスが、そう言いながら戻って来た。
「何かまた獲物が増えたし……」
咥えて持って来たのは鹿なのかな……?奥で捕まえて来たのなら、魔物なのかもだけど。
「簡単な台車でも有れば、それに乗せて運べば良いのでは?」
台車を牽く位は簡単だと、一人大きな体を誇る様にユースタスが顎を反らす。
「台車なら、僕だって牽けるし~!」
任せてよっ! とエドワードがポンポン跳ねるけど、それも絵面悪いので……!
「ん~、台車にする木は俺が切り倒すから、エドワードは車輪を作ってくれるかな。ちょっと石に当たっても割れない様な丈夫な奴で、丸くて同じ大きさじゃないといけないから」
頼むよと言えば、ぐねぐねと身体を捩って喜びを表す。
「ララは、台車になる木材を括る為の蔦をお願い。ゾーイは獲物の血抜きをしておいて貰えるかな?」
それぞれに役割を振る。
「オスカーは……。えっと、帰ったらご飯作るの手伝って!」
適材適所と言うのがあるんです。平等にするのは難しいよね……。
薬師免許を手に入れました。
材料自前ならタダだから……とゲームでもやりがちなのですが、自分の時間給とかを換算していない駄目なパターンです。
とは言え売れる保証が無いので仕方が無いんですけど。
読んで下さってありがとうございます。ブックマークも嬉しいです。
季節感の無い話を書いているのであれですが、この前家から見える山の上が白くなっていました。冬ももうそこまで来ていますね。
日に日に寒くなって参りますが、皆さんもお風邪など引かれませんよううがい手洗いをしてくださいね。




