030.女性は見た目で判断してはいけません
下級回復薬を三本と言われて、家に帰ってから直ぐにやってみる。
原理は分かったし、一応どんな風にやるかもやり方は分かった。
分かったからと言って直ぐに出来るようになるなら、弟子入りする必要なんてない訳で。
「ぐぬぬぬぬ……」
別に悔しくて唸っている訳では無くて、魔力を操る際にこう気合が空回りしていると言うか、アイビンさんがやっていたみたいに簡単には押し出す事も、ぐるぐると混ぜて反応させる事も出来ないのだ。
「無理矢理押し出そうとしても、薬草だとて抵抗します。主様」
押し出そう押し出そうとするから抵抗されるのだと、優しくしてあげて下さいとララは言う。
「優しく、優しくね」
優しくって何だろう。アイビンさんは押し出すって言っていたし、魔力は俺の手を通してすうっと流れて行った。
押し込まない様に指一本分の魔力ぐらいをそっと。
撫でる感じ?
魔力でそっと洗い流すみたいに通り過ぎる様に……。
「あ、何かこんな感じかも?」
薬草に魔力を浸透させて、押し出すんじゃなくて引っ張るというかすうっと入れた魔力を流す感じ。
「そしたらぐるぐるっと反応させてっと……」
掻き混ぜる?
それとも結びつける?
溶けて交じり合う感じが正解かな。
自分の持っている魔力から見ると、ほんのちょっとだけ使うだけだから、調整が難しい。
そおっと、ゆっくり。壊しちゃ駄目だと優しく揺らして。
優しく優しくと呟きながら混ぜ棒を回していると、ふわっと広がるように鍋の中身の色が変わった。
「おおおっ、出来たっ!」
ちゃんと作り方を習ったのだし、出来て当たり前と言えばそうなんだけど、自分一人で何とか出来たと思えば感慨深い。
残りも感覚を忘れない内に作ってしまおうと、出来上がった回復薬を保存用の瓶に詰めた。
「アイビン先生、デイライトです。入室してもよろしいでしょうか?」
昨日通った道を辿って、アイビンさんの研究室の前までやって来た。
途中研究所の入り口で兵士達が同情を含んだ眼差しでこっちを見ていた気もするが、多分気のせいだろう。と言う事にしておく。
「どうぞ、お入りなさい」
女性にしてはちょっと低目の張りのある声が返って来て、ノブを捻って扉を引き開ける。
「どうしたの?」
足を踏み込んだ部屋の中には、見覚えの無い女性がいた。
「あれ、部屋を間違えた……?」
間違えました、ごめんなさい。と一旦部屋を出て扉を閉めて確認するけれど、昨日来た場所で間違っていないし、今日も付いて来たユースタスも何も言わない。
「……あの、間違って無いですよね? アイビンさんの部屋で合ってますよね」
執務机に向かって書類を片づけている女性は、部屋の主であるという風だけれど。
「間違って無いわよ。いやだわ、一晩寝たら分からなくなっちゃったかしら?」
小首を傾げて可愛らしく微笑む相手は、どう見ても二十代後半から三十代前半で。赤くて腰まである長い髪は緩く波打っていて、少しきつめの顔立ちだが美人の部類だろうし、一度会ったら忘れられる様な感じでは無かった。
「……アイリーン。主殿を余り困らせないでくれ」
今日は狼の方の姿で付いて来ているユースタスが、器用に溜息をつきながら文句を言う。
「ふふふ。困らせているつもりは無いのだけど。……ごめんなさいね、こちらの姿の方が本当なのよ」
半分エルフの血が入っているから、寿命が通常より長いのだそうだ。若い姿のままだと侮られる事が多いから、初対面の相手などには年相応の格好に姿を変えて会うのだそうだ。
「半分くらいは揶揄うためだろう?」
知っているぞ。とユースタスが指摘する。
「あらあ、そんな事無いわよ。見る目が無い人にはずっとおばあちゃんの姿で対応したりするけど」
年も見た目も自由にしたって良いじゃない。そんな事に縛られるのは楽しくないわ。とアイビンさんは朗らかに笑う。
「そんな事よりも、宿題の下級回復薬三本は出来たかしら?」
研究室に移動しましょう。と立ち上がると大股なのに優雅な足取りでへやを横切って行く。
ここに出して頂戴と言われて、作業机の上に昨日作った下級回復薬を並べる。
「一応魔道具で調べてみるわね」
とアイビンさんは侍女のマリアさんに指示して、奥の棚から三十センチ四方ぐらいの魔道具を持って来させる。
「これが回復薬の性能を調べる魔道具よ。同じランクの回復薬でも作る人によって多少の誤差が出来るし、納品したりする時に調べられたりもするから、使い方と結果の見方を知っておいた方が良いでしょう?」
そう言って用意された魔道具を、綺麗な布で拭ったり中に入っている魔石を確認したりして準備する。
「前の試薬が残っているかもしれないから、使う前には必ず綺麗にする癖を付ける事。それから動力の確認もね。スイッチを入れると、並べられた魔石が光るけれど、何もない状態の時はここ。それ以外が光っている時は、試薬が残っているか故障を疑う事」
テキパキと説明をしながら、分かりやすい様にその都度手を止めて確認させてくれる。
「準備が出来たら、回復薬を一滴ここの金属板の上に」
と俺の作った回復薬の瓶の蓋を開け、スポイトで少量吸い上げて魔道具の金属板の上に落とす。
「そうすると端から二個目のこの魔石まで光るでしょう? ここまでちゃんと光っていれば性能は十分という事なの。光が足りなければ、回復効果は有る物の不良品という事ね。三個目の魔石が光っていれば、性能が良いって事。……ほら、薄く光っているでしょう?」
指差した先の三個目の魔石は、薄い青色に光っていた。
「後は光の強さとかでどれぐらい性能が良いか見分けるんだけれども、大体弱い光だと一割ぐらい。程々だと二割くらい。強い光だと三割ぐらい効果が高いかしらね」
それ以上になると魔石が橙に光る様になって、そうなると中級回復薬になるのだそうだ。
なお中級回復薬は四個目の魔石がちゃんと光らないと駄目らしい。
「初めて作って一割増しなら、上々の出来ね」
色を薄青に変える位で精一杯かと思ったけど、中々やるわね。とアイビンさんは頭を撫でてくれた。
「じゃあ、一からおさらいしつつ気を付ける点などを説明しましょうか」
魔道具を片付けて薬草の準備をする様にマリアさんに言いながら、アイビンさんはそう言ってにっこりと微笑んだ。
30話目です。ここまで読んで下さってありがとうございます。
しかし、別にここで終わりません。まだまだのんびり続きます。特に区切りで特別な話とかもありません。
目の前の更新にひいこら言ってたら気が付いたら30話。多分50話も気が付いたら書いていると思います。
別にランキングにも乗る訳でも無い小説なのに、読んで下さる人がいて嬉しいなあと思って続きを書けるのがとても幸せです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




