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029.すごく簡単にほら出来るでしょって言われても

 隣の部屋は調薬室でした。

 お高そうな機材が置いてある! 当たり前だけど。


「そこにある道具は好きに使えば良いよ。……といきなり言われても困るかね。……これとこれと……これが有れば大丈夫かい?」

 アイビンさんは作業机の上の器具をぱぱぱっと並べ替えてくれる。


「他に必要な物が有れば、好きに位置を動かしても大丈夫だよ。それから材料は、……マリア、言ってあった物を出して上げておくれ」

 いかにもなお仕着せを身に着けて静かに控えていた女性は、声を掛けられて壁際に備え付けられている棚から素材を出して来る。


「あ、材料は一応持って来たんですけど」

 乾燥させた素材を入れた麻袋を、胸の前に持ち上げて見せる。


「ああ、気にしなくて良いのさ。研究所(ここ)は材料の在庫は山程抱えているんだし、貴方のそれは自分で練習する時にお使いなさい」

 必要無いと押し戻されたので、その言葉に甘える事にする。


「分からない事が有れば、作りながらでも質問して良いから。一回好きにやってみてくれるかしらね」

 私はここで見ているから。と簡素の造りの丸椅子を引っ張り出して来て、作業机から少し離れた位置で腰掛けた。


 作業机に向かって一つ深呼吸する。

 こう見られてる感じが授業参観的なのというか、実技試験的なのというか。つまり凄く緊張する。

 確実に工程の一つあるいは二つ以上間違っていて、だからちゃんとした物が出来ないんだって事が分かっているのに、それをやって見せないといけないという矛盾。


 作業机の上に用意された乾燥させたパウ草の葉を、一枚ずつ丁寧に茎から外す。薬研の上で少し揉む様にしながら葉脈を取り除く。

 余り勢い良く円盤部分を回すと、摩擦で薬効に影響が出てしまうから、熱を持たない程度にゆっくりと回す。

 あまり細かくしてしまうと、ろ過する時に布目を通り抜けてしまうから、心持ちざらっとするぐらいに乾いた葉を砕いていく。

 メル茸は既に使いやすい様にスライスした状態で乾燥させてあるから、このままで。


「ゾーイ、蒸留水をお願いして良いかな?」

 アイビンさんはユースタスの知り合いだから、妖精達が出て来ていても多分大丈夫だろう。

 蒸留水を一から用意しようとするとちょっと時間が掛かるから、今回は試験的な奴だ(と思っている)しで時短のためにお願いする。


 ふわりと姿を現したゾーイが、薬草を煮出す鍋の上でくるりと回ると、空中に水球が出現して、ゆっくり鍋の中に落ちた。

 下処理をした薬草に丁度良い量の蒸留水で、特に指定しなくても練習で使った分量から判断してくれたらしい。

 ちなみに後で聞いたのだが、蒸留水も研究所の下働きの人達が、何時でも使えるように常に準備してくれているらしい。


 鍋の中に一旦重さを量って微調整したパウ草とメル茸を入れて、加熱用の魔道具を起動させる。

 乾燥してない素材を使った場合は鐘半分(一時間半)だから、乾燥した素材だとその三分の一(三十分)で良い筈だ。


「こっからなんだよな……」

 多分ここまでは合っている筈。

 本には書かれていなくて、偵察に行った妖精達が魔力を込めていたって言っていた工程。


「済みません、薬草を煮出すのはただ掻き混ぜていれば良いだけじゃないですよね?」

 一回そのまま混ぜるだけで失敗して、魔力を込めるって聞いて込めてみても失敗してって感じで、薬草汁しか作れてないんです。

 このまま何も言わずに掻き混ぜていても失敗作が出来上がるだけだから、早々に助言を求める。


「魔力を込めるって聞いてやってみたんですけど、込めている量が違うのか上手く行かなくて」

 ゆっくり濁らない様に掻き混ぜながら、鍋の中身を見詰める。

 美味しくなれ~とか、回復薬になれ~って念じるとか?

 それとも、回復薬になる様に何か魔法的な物を唱えているのだろうか?


「なる程、なる程。ここで詰まっているのかい。……それじゃあ、ちょっとだけ補助をしようかね」

 よっこらしょとアイビンさんは立ち上がって、年を感じさせない大きな歩幅で歩み寄って来る。


「ここまでの工程は、大体合っているね。蒸留水に入れて熱を加え出したら、魔力を込めるんじゃなくて魔力で押し出すんだよ。……こんな感じだよ」

 混ぜ棒を握っている俺の手の上から握って、こうだよと言いながらアイビンさんは魔力を流して来る。


「魔力で薬草から薬効を押し出して、そうしたら中和剤の助けを借りて、流し込んだ魔力と薬効を反応させて回復薬にするんだ」

 こんな感じだよ。と流している魔力からの繋がりを切らさない様にしながら、ぐるぐると回してみせる。


「ほら、出来上がりだ」

 パッと言うか、色水を入れた風船を水の中で針を刺して割った様な感じと言うか。一瞬にして鍋の中の薄緑色だった液体が、薄青色に入れ替わる。


「えっ……?」

 乾燥させた素材を使ったからにしても出来上がるのが早過ぎて、目を疑う。

 鐘半分の三分の一(三十分)掛かると本に書かれていたのは何だったんだろう。


「回復薬にするのに掛かる時間はね、魔力の量が影響するのさ」

 平民の薬師は魔力が少ないからね。アイビンさんはくすりと笑って説明してくれた。

 そもそも魔力の多い者が権力と結びついて貴族になった経緯が有る事。そして魔力の多い子孫を残すための婚姻を繰り返している事。

 平民でも魔力の多い子は産まれるが、大体は魔法使いになったりと、派手に稼げる職業を選ぶから、薬師をしている者は大体魔力がそれ程無いという事になる。

 王宮薬師は大体が貴族で魔力が平均よりもあって、研究好きの変わり者が多いとの事。

 回復薬を作るために薬効を押し出して、反応させるための魔力が、平民は少ないために時間が掛かるらしい。

 魔力が有ればぐっと押し出して、ぐるぐるっと反応させるのはすぐだよとアイビンさんは言う。


「大体どれぐらいの魔力を込めるとか、目安は有るんでしょうか?」

 そもそもの保有量が多いから、細かい調整が苦手なため、分かりやすい基準があるかどうか聞いてみる。


「個人個人で魔力の量は違うからねえ……。何度も練習して感覚をつかむしか無いんじゃないかねえ」

 貴方は魔力が私より多そうだし、そんなに込めなくても大丈夫だと思うけど。込め過ぎると失敗するからちょっとずつやりなさいと言われる。


「先程見た感じですと、大体指一本分に鱗を出すぐらいの魔力だと思いますわ」

 出来上がった回復薬を覗き込みながら、ゾーイがゆらゆらと身体を左右に揺らす。


「そうだね、明日までに下級回復薬を三本作って来ると良いよ」

 やっと回復薬を作ることが出来ました。補助付きでだけど。

 次で30話なんですよね……。亀の歩み過ぎでは?


 読んで下さってありがとうございます。ブックマークも!

 評価とか感想とかも大歓迎なのでよろしくお願いします。

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