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027.前言は撤回するためにあるんだ

「ああ、お客様にお茶も出さないでいた」

 もううちの子だからお客様じゃないけど。

 思い出したように立ち上がって、調合用の部屋に行って失敗した薬草の煮出し汁魔力込めバージョンを取ってくる。

 コンロに掛けて少し温めれば、ちょっと苦いお茶の範囲だ。

 処分するための口は多い方が良い。


「はい、どうぞ」

 全員の器に注ぎ分けて出す。


「主殿、これは?」

 困惑したように頭を右に傾げ左に傾げして目の前に置かれた器を眺めているけれど、上から見ようが横から見ようが別に変わる物じゃ無い筈だ。


「薬草茶です」

 異論は認めない。


 妖精達は別に青臭さかろうと苦かろうと気にならないのか、にこにこと口を付けている。

 済まん、済まんと心の中で謝りながら、自分も同じ様に飲めない訳ではない器の中身を飲み干す。


「……何やらえらく魔力を帯びているようだが」

 そう言いながらも、ユースタスはてちてちと器の中身を飲む。


「そうなんだよねー。何かね~、回復薬を作ろうとして魔力を込めたんだけど、上手く行かなくてさ~。薬草の煮出し汁と魔力って感じになっちゃったんだよねー……」

 はあー、と溜め息が零れる。


「本の通りにやってる筈なんだけどなー」

 何でかなー。テーブルに突っ伏してうだうだしながら管を巻く。


「それはそうと、質の良い魔力が込められた水は、精霊達にはご馳走なんですわ」

 だから気にしないでと、ゾーイが言い、


「まあ、この家は結界を張って有るから、精霊と言えど許可無くは入って来れないんだけどね~」

 と、転がりながらエドワードが言う。


「まあ、味はともかく、主殿の魔力の込もった物だから、有り難く頂こう。……ところで、主殿は調薬をするのか?」

 回復薬を作ろうとしたという事だが。


「うん。この家を見ても分かる通り、薬師としてやって行きたいんだよね。都市部で生活するにはお金が必要だし、俺は山でとかは暮らせないし」

 戦ったりとかも向いていないから、どうしようか皆で話し合った結果、回復薬を売るのが良いのではという結論に至ったと答える。


「何か理由が有って、師に付いていないのだろうか?」

 下級回復薬の調薬なら、特に秘匿するような情報でも無いし、道具や薬草の扱いと共に真っ先に教えられると思うのだが。


「そもそも俺は、王都に来たばかりだし、それ以前に記憶が無くて一般的な常識も分からないんだ。だから、薬師になるのに弟子入りする必要が有るとしても、頼めるような伝がなかったんだ」

 先ずそれが理由の一つ、と親指を折る。


「それから、薬師に成ろうという理由が、そこそこの収入が見込めて、妖精達に手助けがして貰えて、多分俺にも出来るんじゃないかっていう事。だから、もし上手くいかなかったら別の手段を探せばいいや位に軽く考えていた事」

 つまり、一生師の下で働いて、その内工房を継ぐなり何なりする程の気持ちが無かったっていうのが一つ、と人差し指を折る。


「後はまあ、記憶が無いにしろ魔力は使えるし、身体も丈夫だしで、自力で何とかなる気がしたんだよね」

 根拠の無い自信て奴です。どうにもなら無かったけど。


「ふむ。……それなら丁度良さそうなのが居るぞ。弟子は取りたく無いが、取引内容に依っては話を聞かないでもない奴でな。欲しがっていた素材の一つも手土産にすれば、調薬のいろはぐらいは教えてくれるだろう」

 既に二つ三つ貸しがあるから、頼むのは簡単だが。


「うう……。大変で無いならお願いします」


「承った」

 主の用を足せるのは僕に取っての喜びよ。大変な事など欠片も無い。嬉し気に尻尾を緩く振りながら、ユースタスはそう言って出掛けて行った。




 あの後、日が暮れてからユースタスは銀のプレートを咥えて帰って来た。

「三日後の朝から来ても良いそうだ」

 褒めてくれと目の前にお座りをして見上げて来るので、これは犬、これは犬と心の中で呟きながら、わっしわっしと頭を撫でる。

 首の裏辺りの鬣部分が、超もふもふだった。


「ありがとう。何か準備して行く物などは?」

 後、手土産的な物は何が良いかな?

 こっちの習慣が分からないから、一から聞いておかないとさっぱり分からないのだ。


「特に何も要らないぞ。素材は在庫が沢山有る筈だし、器具も余分に備えている筈だ。手土産も先に珍しい素材を渡してあるから、特に持って行かなくても良いだろう」

 それよりもこれは通行証代わりになるから、忘れない様に持って行ってくれ。と銀のプレートを手の中に押し込んで来る。


 受け取ったプレートを失くさない様に肩掛け鞄の中に仕舞う。

 何も持って行かなくても良いと言われても、そんな訳には行かないよなあ……、と考える。

 取り敢えず下処理をしたパウ草とメル茸を持って行くのと、手土産に何かお菓子でも持って行こう。食べれる物ならそう邪魔になる事も無いだろう。

 甘い物としょっぱい物のどちらが良いだろうか、こっちの人はお茶の時には甘い物を、お酒の時にはしょっぱい物を合わせる事が多いから、甘い物で良いだろうか。




 結局、妖精達と連れ立って手土産になりそうな物を探したけれど、候補を一つに絞り切れなかった。

 相手がどんな人なのか、男性なのか女性なのか、若いのか年寄りなのか、全然情報が無いので決めかねたのだ。

 と言う訳で、鞄の中に包みが二つ有ります。相手を見て決めれば良いんだ……。


「ところでどこまで行くの?」

 商業区を抜けて、金持ちが住んで居る区画も抜けて、貴族の住む区画へ入ろうとしている。

 そろそろ徒歩で移動する者など居なくなって、道幅が広くなって馬車が通り過ぎて行く。


「ん? 言ってなかったか? 王城にある薬師の研究棟に行くんだ」

 今日は人型を取っているユースタスが、こちらを見下ろして言う。


「えええ……。そんな簡単に行っても良い所なのかよ?」

 貴族街ですら、服装から浮いている気がしてドキドキするのに。


「そのために、通行許可証を貰って来てあるだろう?」

 この前渡した銀のプレートだ。ちゃんと持って来たよな? と確認される。


「これにそんな効果が……」

 鞄の内ポケットから取り出して、銀色に輝くカードぐらいの大きさの板を眺める。


「裏側に研究主任の裏書があるだろう? 王城の中心部には入れないが、西の通用門から入って城壁沿いに奥に進むと、研究棟があるんだ」

 ルートを外れたりすると見張りの兵士が飛んで来るから、余りうろうろしない方が良いぞ。道に迷った時は、名前を呼んでくれれば直ぐに行くから覚えておいてくれ。まあ、滅多な事では傍を離れないが。


「分かった。初めて行く場所だし、大人しくしておく」

 そんなに緊張しなくても良いと言うユースタスに頷いて、それでも縁が無いと思っていた王城に向かう事に胸がわくわくするのを止められなかった。

 デイライト君は記憶が無いのもあって、自分の置かれている状況に現実味が薄いのです。なので一生涯この仕事に就いて頑張るぞ~的な気持ちになれないでいます。

 まあ、この話もゆるくふんわり行きたいので、そんな職業物語みたいな師匠と弟子とか書くつもりは無いからですが。


 読んで下さってありがとうございます。

 ブックマークも評価もとてもとても嬉しいです。今日の分もう後ちょっとだけ書こうかなっていう燃料になってます。本当に!本当にですよ!

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