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025.世間には三分で出来る料理もあるというのに

 下級回復薬に必要な素材は、蒸留水とパウ草とメル茸。

 と言うわけで、蒸留水を用意しなければと、蒸留器に水を入れて、加熱用の魔道具をセットする。

 授業で使っていた様なアルコールランプを使うのかと思っていたら、魔道具を使うらしい。

 火が出ないから煙も出なくて、繊細な調合を求められる作業に向いているし、火事の危険性も低いし、燃料を入れる加熱器具よりも長時間の使用に耐えるからだそうだ。

 難点は初期費用がかなり違う事だけど、仕事としてずっと使うなら問題にならない位便利らしい。


「デイライト様、お水なら私が出しますわ~」

 目の前をくるりと輪を描いて泳ぎながら、ゾーイが尾鰭を揺らすと鍋の中に水球が落ちる。

「蒸留したお水で良いんでしたよね?」

 ちゃんと学んで来ましたわと、得意そうに胸鰭が揺れた。

 今日は家の中だから他人の目がないのもあって、いつもの水球を纏わずに、空気中を泳いでいる。


 うん、室温に冷ます手間が省けたね。


 次は材料の下処理である。

 パウ草の葉を丁寧に茎から外し、ナイフで主脈を切り取る。


「ナイフが大きすぎてやり難い~! 台所から果物ナイフ取って来よう」

 解体用に使うナイフだと、ちょっと刃が長かったみたいで、細かい作業には向いていなかった。

 メスとかアートナイフ的な奴は無いのかな?

 今度道具屋のアイヴァーさんに他の薬師はどうしてるのか聞いてみて、良さそうなのが無かったら鍛冶屋のエイデンさんに作って貰えば良いかな。


 何とか主脈を取り終えて、次はメル茸の汚れを落としてスライスする。

「汚れは刷毛の様な物で落としていましたわ」

 目立つ汚れを指で取り除いていたら、ララからアドバイスが有ったけど、さすがに刷毛は家に無い。

「刷毛か~、今日は無理だから後で買いに行こうか。取り敢えず細かい汚れはそっと吹き飛ばしてもらえるかな?」


 汚れを落として貰い、石突の部分は落としていたと言うので切り落とし、五ミリ程度にスライスする。


 材料の準備が出来たので、綺麗に洗った鍋に蒸留水とパウ草の葉とメル茸を入れて加熱する。

「沸騰させたら駄目なんだよね……?」

 沸騰させずに鐘半分(約一時間半)か。

「他に何かしてた? 例えば灰汁が浮いてきたら捨てるとか、ずっとかき混ぜてるとか」

 加熱用の魔道具のつまみを弄って火力を調整する。温度が低い内は三番目で、沸騰手前になったら二番目に目盛りを合わせるらしい。

 ちゃんと注意して見ておかないと、沸騰したら薬効が飛んでしまう。


「後は、ずっとゆっくりかき混ぜて居ましたのう」

「水の色が、薄い緑から薄い青に変わったら、火から下ろして布で濾して、それから瓶詰めしてたよ」

「私の見に行った薬師の所は、乾燥させた材料を使っていましたわ」

「灰汁は、沸騰させていませんでしたし、絶え間無くかき混ぜ続けていたので、特に取り除いてはいなかったと思います」


 それぞれからもたらされた情報を基に、鍋の中身をゆっくりとかき混ぜる。


「これって、混ぜる方向はずっと同じなの? それとも適当に変えたりするの?」

 ガラス製の混ぜ棒で鍋の中身をぐるりぐるりと回す。

 中身の液体に粘度が有るわけでも無いので、抵抗らしき抵抗もなくて、会話でもしていないと早々に眠くなってしまいそうな予感がする。


「どうだろう? 回す回数とか特に気にして見てこなかったよ!」

「わしらが見に行った薬師の所は、弟子はずっと右回りにかき混ぜておりましたのう。薬師の方は右に三回ししたら左に一回ししておりましたが、下級回復薬以外を作っておった様なので参考にしても良いものか分かりませんのう……」

 一人は胸を張って答え、一人は首を傾げながら答える。

 まあ、一件だけを抽出して正しいかどうかを言っても仕方の無い事だ。


「調薬は呪い(まじない)ではありませんから、かき混ぜる方向に指定など無い筈ですわ」

 鍋の中身を覗き込みながらそう言うゾーイの言葉を信じて、泡立たせたり渦が出来たりしないようにそうっと混ぜ続けた。




「出来た! いや、出来てない?」

 我慢強く鐘半分かき回しながら煮込んだ結果を前にして、ちょっと首を傾げる。


「どう見ても緑色っぽいよねえ」

 ちょっと多目に火に掛けてみたけれど、薄い緑から薄い青に色は変わらなかった。

 途中で諦めて火から下ろして、小さ目の笊に細い糸で織られた目の詰んだ布を二重に掛けてろ過して、ビーカーの様なガラスの器に入れてみたけれど、上から見ても横から見ても薬草を煮出しましたという感じの薄い緑色のままだ。


「取り敢えず飲んでみよう……」

 先ずはそれからだ。

 横口レードルで容器の中の液体を掬って、五人分の小さ目の器にそれぞれ注ぐ。


「……うん、薬草の煮汁だよね」

 期待はして無かった。うん、だから悔しくなんて無い。

 じっくりと丁寧に煮出された薬草の仄かな苦味と、乾燥させずに用いた事で感じる青臭さ。

 茸から出た僅かな出汁……って程の物は無く、こちらも生のまま用いた為に本の少しだけカビ臭さを舌先に感じる。


「あーあ、鐘半分も煮込んだのになー」

 最初から上手く行くとか、そんな都合の良い事を期待していた訳ではないけれど。


「飲めない事は無いけど、回復薬じゃないよねー……」

 飲めない程不味かったら、諦めも付いて捨ててしまえるのに。 


「薬草の成分は多少なりとも出ておりますから、回復しない訳では無いですがのう」

 薬草をそのまま噛んだり、揉んで傷口に貼り付けたりした程度の効果は有るだろう。


「何が駄目だったんだろうねえ……」

 残りの煮汁も注ぎ分けながら、作成手順をもう一度頭の中でも辿るけれど、調べた書物の内容から逸脱した様な所は無かった。


「……そう言えば、かき混ぜる時に魔力を流していましたわ。ごくごく弱い魔力でしたし、出来上がったお薬に魔力は込められていませんでしたので、気にしていませんでしたけど……」

 ゆらりゆらりと尾鰭を揺らして天井の方へ上がったり、テーブルの上くらいの高さまで下りてきたりしていたゾーイが、関係無いかもしれませんけどと思い出した様に言った。


「違ってても良いから、他に思い付かないしやってみよう」

 もう一回と立ち上がって、使った器具を洗浄して、材料の準備に取り掛かった。




「と言う訳で、出来た!」

 弱く魔力を流すのが難しかったです。じゃぶじゃぶ流して良いなら簡単なんだ。


「でも、また緑色じゃないかな~」

 ガラスの器を覗き込みながら、エドワードは首を傾げる。


「うーん、また失敗なのかなあ……」

 魔力を弱く流せなかったせい?

 回復薬を作るために先ずは魔力操作の練習からすべき?


「主様……。材料のパウ草とメル茸でしたら、沢山使えるように育てますから、安心して下さい!」

「それよりもさ~、そろそろお昼じゃない~?」

「あまり根を詰めてもいけませんわ~。そろそろ休憩いたしましょう」

「お昼ご飯を食べたら、また交代で調べに行きますかのう」


「……そうだね、お腹空くと頭がちゃんと動かなくなるし、一旦休憩しようか」

 お昼ご飯何にしようかなと考えながら立ち上がる。


 焦っては駄目だけど、鐘半分煮出さなければいけないのが、地味に辛いなあと、出そうになる溜息を飲み込む。

 二回もすればもうこんな時間で、色々試して見たくても中々回数をこなす事が出来ないのが問題なのだ。

 お久しぶりです。お待たせしました。

 ちょっと書かないでいたら書き方を忘れてしまって、書けるようになるまでに時間が掛かってしまいました。

 あんなに暑かったのに、すっかり寒くなってしまって……。

 次回はそこまでお待たせせずに書きたいと思います。


 と言う訳で、薬師を目指すべく調薬回。見様見真似はいけませんよ。

 妖精達は四人もいるけど、基本的にはお手伝い出来ません。癒し枠なのです。

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