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第5話 はらぺこ近衛部隊

『Lサイズ一枚で3~4人前と聞いたが、まるで足りなかったんだが』


 ――んなもん知るか!


「…………っ!」


 反射的に怒鳴りたくなったがなんとかこらえる。いつものように仕事の電話を取ると、相手は以前配達した近衛部隊副隊長だったのだ。


「えー、申し訳ございません。あくまでもこちらの基準ですので……」


『む……、そうか。……確かに基準はそちらと異なるやもしれんな』


 国が違えば食う量も違うんだから、当たり前といえば当たり前だ。ってかお宅らはちょっと食い過ぎじゃね? 前回三枚だったから十人くらいか? それで足りないってことは増えるのかよ。

 いやいやそれ以前に……。


 なんでまた俺にこの電話かかってくんだよちくしょー!


 なんなのこれ!?

 異世界からの電話って俺にしかかかってこないの!?

 いや周囲の人に確認したわけじゃねーけどさ、俺だけ運が悪いの!?

 それともこのピザ・チックタックのお店が呪われてるわけ!?

 ねぇ誰か教えてエロイ人! ぎぶみー説明ぷりーず!


 ……いや落ち着け俺。仕事に戻るんだ。今は客と電話中のはずだ。


「ご注文でしょうか」


『うむ。今日もよろしく頼む』


 うぬぅ……、やっぱり注文か……。

 もう来ないでくれと思いつつもどこか期待していた自分が嘆かわしい。前回の注文からすでに一週間が経過しているんだが、支払いでもらった黄金色のコインは本物だったのだ。いやもう懐はウッハウハである。

 だがしかし、何かの拍子で帰れなくなったりしたら目も当てられない。そうなったら絶望しかないのだ。

 ……うん? 異世界転移だって? そこは俺TUEEEヒャッハーするところだろだって? ラノベの読み過ぎもたいがいにしたまえ。最初に「○こでもドア」くぐって出た森の不気味さを思い出したらちびりそうになるぞ。あれはただの一般人が一人で生き残れるとは思えない場所だ。んなの無理に決まってる。


「ではご注文をどうぞ」


 気を取り直して仕事を続ける。さすがに電話対応を放棄するわけにはいかないのだ。


『そういえば他にもいろんな種類があるようだな』


「ええ、そうですね。以前配達したときに同封した広告チラシにもメニューが載っていると思います」


『それなんだがな……。どうにも文字が読めんのだ』


 ……マジですか。いやむしろ当たり前なのか。いやでも日本語は通じてるんだがどういうことだってばよ。それを言うならむしろこうやってピザが配達できること自体が意味不明だな。うん、考えるのはよそう。


「そうですか……。以前お渡ししてから広告デザインは変わっていませんので、上から何番目などおっしゃっていただければ対応できますが……」


『おぉ、それはありがたい。では――』




「お……、重い……」


 Lサイズ十枚とか勘弁してくれマジで。前回三枚だったのになんでこんなに増えるんだ。……食う人数変わってないとすれば、一人一枚食う気か。いやしかし、近衛部隊というからにはガチムチ脳筋ばっかりだったりするのか。

 ひぃひぃ言いながらも誰も配達を手伝ってくれるわけもなく、このおかしな配達先についてわかってくれる人間は増えることはなかった。

 ブツブツ文句を言いながらも駐車場に向かうと、前回と同じく白い魔法陣が広がり俺は召喚された。


「「「「キター!」」」」

「「「「うおおおおお!」」」」


 そこは前回と同じ石造りの部屋だったが、出迎えてくれる人数が多くなっていた。紺色のローブ姿の人物は変わりないが、鎧姿の人間が十人ばかりいたのだ。いきなりの叫び声に後ずさってしまい、荷物の重さも相まってピザの入った保温バッグを落としそうになる。


「はっはっは、すまんの。隊員が待ちきれなかったようでな」


 副隊長のヘングラルが満面の笑みでこちらに近づいてくる。


「そ、そうですか……」


 勢いの良さに面食らっていると、待ちきれなかった隊員とやらもピザを受け取りに近づいてくる。俺としても重くて持っていられないのでさっさと渡すことにした。


「ふむ……、重そうにしておるの」


「さすがに十枚ですから……」


「……そうでもないですがね?」


 受け取った隊員が何でもない風に割り込んできたが、あんたらと一緒にすんじゃねぇよ。こちとらただの大学生なんだ。


「ふーむ……」


 何やら考え込むヘングラル。……よくわからんが、早く帰してもらえないもんだろうか。長考されればされるほど嫌な予感がするんだが……。俺帰れるよね? ……こっちの世界に残ってピザをひたすら作れとか言われないよね? 基本的に俺は電話番と配達がメインだから、材料があったところで作れないぞ?


「おい、ハーキンス。あの失敗作を持ってこい」


「よっしゃ! 承知しました!」


「いや申し訳ない。少し待っていてもらえないだろうか」


 副隊長さんが声をかけると、ハーキンスと呼ばれた隊員が嬉しそうに部屋を出て行く。いったい何なんだ……。


「ええと、ちゃんと帰れるんであればいいですけど……」


「うむ、ちゃんと帰すとも。でないと今後もピザが食えないからな」


 ……やっぱりまた注文するんですね。半ばあきらめながらも今はとにかく待つしかない。


「副隊長! 持ってきました!」


 しばらくすると先ほど出て行った隊員が、大きめのボストンバッグのような革製の鞄を持って帰ってきた。


「うむ……。さて、これを受け取るがよい」


「……えっ?」


 渡された鞄を思わず受け取ってしまったが、なんぞこれ。まさかピザの代金の代わりとかじゃねーだろうな。


「あぁ、もちろん代金はきちんと支払おう」


 心の声が表情に出ていたのか、ヘングラルは金貨の入った布袋も一緒に渡してきた。


「ふふ、心配するな。失敗作といえど性能は保証する。……なに、次からは注文量が増えそうなのでな。ピザはその袋に入れてくるといい」


 増えんのかよ!?

 いやいや、これ以上は持てないからな!?

 注文量増やすんじゃねーぞ!?


「ではまた頼む」


「え、あ……」


 あまりの衝撃に何も言えないでいると、送還の詠唱とともに魔法陣が白く輝き、俺は日本へと送り返されたのだった。

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