◆そして会社をバックレた今に戻る
「突然申し訳ありません! 社屋が倒壊なされた会社の社員さんですよね?
実際に見てご感想は? 今のご気分は?」
「はぁ?」
電車への道すがら、いつも近道にと通っていた路地裏から突然どこかの取材スタッフが飛び出した。待ち伏せ取材? 『倒壊なされた』って何だその微妙に合ってるのか合ってないのかよく分からん日本語。見ると女性レポーターにカメラマン、マイク役3人に囲まれてるし。カツアゲかよ、何にも答えねーよと無視を決め込む。
「……あ、突然申し訳ありません! なにかご感想を」
「……」
しっつこ。いきなりスマンなって自分から下手に出りゃ、気を良くして口滑らせるだろうよってか、フザケンんな。お前らにとっちゃ重要な事だから二回聞いたんだろうが、一般人はミーハーでカメラ向けりゃ喜んで何でもかんでもベラベラ喋ると勘違いしてやがる。社名も言わねぇ取材許可も取らねぇ、前置きもなくいきなり撮られるのに腹が立つ。ましてやぶら下げてる社章は偏向報道で有名な日没新聞じゃねぇか。んで聞いてくるやつはメガネで栗毛でボインのレポーターねぇ、色目とか人を何だと思ってんの? 下衆すぎて鼻で笑うわ。
……って思ってたらカメラマンが案の定サッと向き変えて「駄目だコイツ、時間の無駄だし次行こうぜ」とか言いやがる。マイクのおっさんも「何だ今のぼーっとしたヤツ」とか示し合わすように笑ってるし。他に誰も居ない細い道だからってやりたい放題だな、と腹を立てた俺は7割まで飲みかけてた缶をそいつの背中に思いっきり投げつけてやった。
「痛って! 何だこいつ頭おかしいだろ!
うわぁ服濡れたし、つか女にもかかってんじゃん!
クリーニング代と治療費、機材のメンテナンス費用寄越せ!
出せないっつうんならテレビで取り上げてやる!」
俺は記者の話を無視してスマホを取り出し、弄り始める。
「好きにしろよ、ってかむしろ早くやれ。
俺も今から遠慮なくお前らの悪態、ヒで全部晒すからな。
スポンサーと委員会やらの団体名、住所コミで」
「はぁ!? ……っ」
カメラマンは聞いた言葉と俺の仕草に突如、焦る表情を見せた。やがて気持ちを抑える様に通路沿いに置かれた他所ん家の花壇を蹴って、歩き去っていく。ホント、汚すぐらいしか能がなさすぎて同じ人類だと思いたくねぇ。
まあ結局あいつら如きはそんなもんだよな、と考えながら駅に付き電車に乗る。
実はスマホをいじって見せていただけで、音声も映像も撮ってはいなかった。でも晒されたら困るって逃げちまうような暴挙でも、日常の様に報道の権利だとか我が物顔で振りかざしてくるんだから信用ならん、一般人にカメラ向けんなよ。
大体なんだあの脅し? どうせ後で俺を晒したってメディアに信用のない今のご時勢。気持ちを汲めないヤツが社屋の倒壊で心身困り果てる社員に何も考えないで凸したって事で、空気の読めない馬鹿扱いにしかならんわ。脅しにもなってねぇ。
ってかな、何が一番腹立つって……。
スクープだー金だーって、法人とか援助主の大元様にゴマすって嘘バンバン流して。それでも視聴者は馬鹿だから信じるだろ、都合の悪いトコも見せなくて良いだろ、って日々テレビや新聞越しからハナクソ擦ってきやがるトコ。
一報道の会社がどこから援助受けてようが知らん、が下げて見られるのは我慢ならんわ。だから取材にも協力なんかしねぇし、そんなので気を良く答えられる訳がねぇ。そしたお前頭おかしいだろってか? ……あの会社もその内ぶっ壊すか。
でもあのゲーム、どこでも好きな様に好きなだけ壊せるのか? それに一区画だけ的確に壊してたけど、メチャクチャ揺らしてた割には隣の建物とか、見える影響も無かった。……よく考えたら建物壊すってのも人がいたらどうなる? 俺……ゲームだってので感覚麻痺してて、とんでもないことしたよな……。
電車もとっくに降りていて、俺は昨日のゲーセン前にいた。色々考えることも多ければ、時間の進みも早くなる。
時刻は9時で後30分もしたら店は開く。こんな平日から歓楽街の前でボケっと立ってる中年男を時々視線が突き刺しては過ぎてった。早朝サービス? とか思われてんだろうな。よく考えたら俺もやることのない随分退屈な男だ、なんて青空を見る。それでも昨日のゲームが一体何だったのか真実を知りたくてたまらないんだから仕方ない。
……いいやそんなの言い訳みたいなもんだ。体が熱く、左目が疼いて仕方がないだけ。俺は何気に右手で自動ドアに触れる。すると驚くことに、触れた場所と手の間から虹色の光が微かに漏れ、今まで電気も通って無さそうだったガラスの自動ドアが開いた。っていうかこれ、ユラがやってたやつ……だよな?
……左目の力か? と手を眺めながら、俺は勝手に中へと入っていった。