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◆オペレーションルーム

 中はネットとか雑誌でしか見ないような外国のゲーセンみたいになってた。


 いまいち低い屋根、惑星とか星模様が散りばめられた青黒いマットに、立ち遊びの筐体とか古いロムばかりが並んでいた、僥倖!! 右奥トイレ通路側には懐かしのバイクレースゲー「バンクアングル」まである。あの筐体壊れやすいから貴重なんだよなぁ。コース曲がる時にスピード載せないとリアルにバイクが倒れるから自分で起こさないといけないっていう……。


「ボクお薦めのゲームはこの1つ奥の部屋にあるんだぁ。付いてきて」


「あ、はい……」


 勿体無い、この部屋だけでかなり時間潰せるぞ。つっても古いゲームだってそれはそれで金入れて遊ばないんだよな、思い出を食うだけ。でコンシューマー化してるかなって探しても結局買わないわ、糞移植とかって聞いて萎えるわって……老害かよ俺。なんて感じで視線を泳がせながら真っすぐ進んで奥、角の扉からカラオケルームのような部屋にたどり着いた。


 ここが連れてきたかった場所? 扉を閉めると外からの音が一切遮断され、壁の右側全面アクリル張りの奥に見える大型コンピューターからカリカリと情報処理に勤しむ音と、LEDの点滅信号が出迎える。正面には大きなスクリーンに、格好良いのは解るがそれでいいのかってな感じの緑線で光るデジタル世界地図が映ってて、四角い枠が日本を囲って点滅していた。


「その画面、ただ格好良いってだけで実はあんまり意味ないんだよね、フフ」


「ふーんそうなの……って、ええ!?」


 先に入った俺の後ろから声を掛けられ振り返ると、少年はパーカーを脱いてハンガーにかけている。一瞬脱ぐほど暑くねぇだろと突っ込みかけて、中に着ていた服がもっと突っ込みがいのある服だったことに唖然とした。


 ノースリーブ……と言っても襟の方まで生地がカットされたタキシードシャツ、ていうかエプロン? 後ろは襟だけが辛うじて残ってる状態で、肩甲骨がほぼ丸出し。脇の下からようやく生地が背中に回り、腰の辺りからはファスナーで合わせてあった。じゃあその前についてるボタン何の意味があるんだっていうかスラックスがメチャ浅い。パーカーの時はよくわからんかったけど何でそんなに浅いんだ、と心の中でツッコミが入る。


 青白く華奢な体も、こういうDNAなんだろうなと思う他のない人形っぽさで、指なんかの毛細血管が集中してる場所はほんのり赤っぽく染まってるから、なんかエロかった。絶対女にモテモテだろうなこういう奴。とくにバァさんに可愛がられる系。ってな観察が捗る程俺は見とれちゃってたけど、少年は意にも介さず話を続ける。


「じゃ、早速遊ぼ」


「ちょ……っと、まって? あの、その服装とかは一体、後名前も知らないし」


 遊ぼうって言葉にちょっと如何わしい何かを感じて、今更ながらボッタクリかなんかの変な商法かもと疑いつつツッコミを入れた。そしたら少年はああ、と思い出したように横手を打って続けた。


「ボクの名前は、留多高るをたか ユーラルガ。和名は有宇ゆうだよ。」


「ハーフ、和名を後に名乗った……外人さん?」


「生まれも育ちも日本なんだ、でも格好良くない?」


「うーん、まあ」


「お父さんがガガーリンから取って付けてくれたんだぁ」


 またホクロを隠す様に指を当てて笑う。


「じゃあ今度はオジサンの番、お名前は?」


「……鳥越真司、だけど」


「そう、じゃあシンジくん。始めまして!

 僕はこの地下ゲームセンターの支配人です、これからどうぞご贔屓に!」


左手を胸に、手袋の右手は腰に、片足を下げて軽く礼をした。


「いや、クンって……」


「お気に召しませんでしたか? 新愛の証ですよぅ。

 是非ボクにも同じ様、愛称か何かでお呼び頂ければ光栄です」


 なんかハードル高いこと言われちゃった。愛称って、そんなもん付けられるほどの交流まだしてないんだけど……でもやけに目をランランと輝かして見られてるし。ユウでよくね?


「因みに和名で呼び捨てより、格好良い横文字の方でもじってもらえた方が嬉しいです」


 さあ楽しみですねぇ、と更にプレッシャーを掛けられる。つっても一回聞いただけで覚えられる名前じゃなかったんだよなぁ。ガガーリンから取ったっていってたなぁ確か……


「ゆぅら……? えと、あー」


「ユラ、いいですねぇ! ではこれからボクの事はユラとお呼び下さい」


「ああそう、うん」


 なんか結局自分で愛称決めたように思えるの俺だけか? ともかく


「兎も角、早速始めましょう! まずは中央の大きなテーブルへ」


 導く手に促され、部屋の中央に鎮座した高さ腰辺りの、とてもテーブルとは思えない鉄製の箱に向かった。天辺がガラス張りのソレは中を覗くと、これまた黄土色のワイヤーフレームで何処かの地形が表示されていて、画面脇には数々の増えたり減ったりするデタラメな数値。手元の縁にはいくつものボタンが並んでいる。


 部屋全体で見るとなんかオペレーションルームみたいで格好良いが、デジタル世界地図って殆ど意味ないって言ってたし、CGだって俺別にリアル志向でもないけど未来感出すには表現が古い。別の専用部屋ってんだから体感型なのかも知れないが、まだイマイチ何がしたいのか分からんかった。


「……」


「ささ。

 ゲームが始まれば色々ご説明いたしますので、まず右上の投入口に百円を」


「えーっと、でいくつ投入すればいいの? 書いてないけど」


「ワンコインで始まります」


 またあのホクロを隠すポーズで微笑んでくる。マジかよ、聞いたこともないゲームだけど五百円ぐらいつっこんで20分程遊ばせたら終わりみたいなゲームだと思ってた。それともメダルゲーか? 対戦型のオンラインカードゲームとかだったら集めたくないしヤだなぁ。でもブースターパックの自販機も見当たらないし。と財布を漁ってみると百円がなくて、札も五千円しか無かった。五千円って機械によっては入らないやつもあるし微妙なんだよなぁ。これは遊ぶなっていう神の啓示かなんかか?


「あれぇ? 五千円札しかありませんね」


 ユラが俺の財布を覗き込んで残念そうに答える。ヤなトコ見られちまった、つか覗くなよ。


「あー……えっと」


「……あ。はいはい、分かります。

 知らないゲームでお金崩すのって、ちょっとハードル上がりますよねっ。

 それに神の啓示かなって考えちゃったりもして、フフッ」


 見破られてる、意外とそういう人多いのか? 俺だけがケチとかじゃないって話なら、それはそれでちょっと安心する。でもまあ何はともあれ見られたもんはしゃあないし、釘も刺されたっぽいから札を摘んでユラに両替を頼もうとしたら、突如声に遮られ手が止まる。


「あ、じゃあこうしよっかな?

 実はボク、この地下ゲームセンターについて悩んでることがありまして。

 ほら、ここ見て下さい」


 顎を少し引き、両指で襟元を差して、何も無い様を見せる支配人。あざといまでのあどけなさで、やけに媚びてて、マジでババアにモテる方法を理解してるって感じ。てか生地の素材薄いしピンク色の浮いたのが見えるし……フィギュアにしたら売れそうというか、何かもっといい商売出来そうでさえあった。


「ね……どうかな? 何か足りなくないですか?」


「あーえーと……タイ?」


「そぅ! よく分かったね。素晴らしいです」


 パンと手を叩き、嬉しそうに話を続ける。いや、そこまで強調されたら流石に……。


「せっかく地下専用の制服を作ったんだけど、まだネクタイが決まってないんだ。

 だからお客様第一号のシンジくんにどんなのが合うか聞かせて欲しい。

 それで1プレイ無料にするよ! どう?」


「えー……」


 俺別にセンスある方でもないしヤだよ。休日だってタダ同然のダレたTシャツで過ごしてるし、外に出ないからこんなもんだろって諦めてる奴だぞ。センスねぇのバレたら傷つく。なんて考えてたら早速パーカーを掛けたハンガーフックのある後ろ壁を開けて、狭い空間からタイを取り出し、片腕いっぱいに吊るして持ってきた。色とか一般的なのじゃない、ループタイとやクロスタイみたいなのまである。


「もっといっぱいありますから、次って言ってくれれば別のを出します」


 嬉しそうに言っちゃって、制服マニア? 集めたんだろうなぁ、俺も凝れるぐらい金が欲しいよ全く。てか胸元に腕寄せられたら別の方が気になるんだが、背中のパックリ開いたデザインも拘りなんだろうが意識高杉なんだよなぁ。


 ま俺如きの感想なんかどうでもいいし兎に角、聞かせろってだけならこれで決まるわけでもないと高を括ってぐるりと一度眺めた。すると腕からスルリ一本のネクタイが滑り落ちていくので、下に手を伸ばし受け止める。見るとやけに短いし、どう見たってコスプレ用だ。


「それですか? 成る程! 良いかも知れませんね」


「へ?」


 言われて目がギョッとする。俺そんな良さそうに凝視してたか? 自分じゃ分かんなかった。でもまあ本人も良さそうだって言ってるし、納得してくれるなら


「うんうん。じゃあ早速、合わせてみましょう」


 ……ま、そうなるわな。てかそう来るよな。つかいつゲームするんだよ、なんていい加減呆れ始めた。なのにユラは後ろを向いてモゾモゾとタイを締めてる。背中綺麗だなぁ……てか遅いなぁ……としばらく待ってたらその内前を向いたので、あぁやっとかよと思ったけど違った。


「……エヘヘ。あのー、シンジさん?

 良ければ何時も手慣れたサラリーマンの方に、代わりに結んでいただきたいのですが」


 苦笑いして、短いタイを鳥の羽みたいにピラピラ泳がせるユラ。めんどくせえのに巻き込まれたなと本格的に思い始める。結べもしないのに買うなよ。多分顔に出てるし向こうも察してる。


 帰りたくて仕方ないイライラを堪え、ヤツの襟元で手を動かすと、我慢してたのかフッとやらかい息が手にかかった。つられて俺も呼吸すると眼の前の前髪がサランと横に流れハニーフローラルの香りがする。なんか良さそうなシャンプー使ってそうだよなぁ。……てかコイツ男なんだよなぁ。

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