◆会社をぶっ壊してた
テレビで見てた通り、会社がぶっ壊れてたから驚いた。ほんのちょっとだけな。
よし、これで掴みはOK。ビジネスの世界じゃまず結論を述べ、そっから経緯を話せってのが当たり前なんだよな上司サマ。つっても毎度経緯を話す前に怒号が飛んで、話は決まってキャンセルされるんですけどー、マジでアレ理不尽なんですけどー。
と眺めていた上司は何やら支店長と顔を青くさせながら話してる。そこに俺より若いやつが空気読まず割って入っていくもんだから、うわ怒られるぞと思って見てたら他の社員に手ぇ振って嬉しそうに、そのまま帰っていきやがった。今日は有給使って休むーってスキップして、そんな軽い身のこなしで上司に気に入られてるもんだから羨ましい。人間って雰囲気とか顔だよなぁ、俺はどっちも持ってねぇから真似出来ねぇ。
「よ、よし! 取り敢えず皆で瓦礫の除去だ!」
「いや待て! それで怪我されたら労災が……」
「で、でも業者に任せたら損失が更に膨らむと今……」
相談が終わっても尚支店長と上司が揉めてああだこうだとワチャワチャやってる。俺も含め周りはうんざりだ。どうしろってんだよ。普段から鼻くそほじるぐらいしか仕事してないから、いざってときに動きが悪いんだっつうの。
「とりあえず怪我しないように作業を進めなさい!
はぁ!? ヒールじゃ無理って、なんでそんな物を履いとるんだ!
明日からは皆ランニングシューズで通勤しなさい!
出来る営業は皆ランニングシューズだぞ馬鹿モンが!」
最後の馬鹿っているか? てか馬鹿はお前だよ。
言われた通り皆が瓦礫に向かい始める。壊れたのは夜だったから人が居ないのは皆知ってて、でもお互い複雑な顔を合わせながら撤去に望む。
まあ、そらそうなるわな。撤去っつったって回収カゴもないし右から左へ、どこに捨てる訳でもなく細かいコンクリートの塊を移動させてるだけ。何だこれ馬鹿らしい。なのに手を動かしてないと上司が怒るんだからめんどくさい。意味のない業務命令、先を見てない、予定も組まない、そんなスケジュールにウンザリする。
大体手でどけられる程度の瓦礫を開いた土地に移して何するつもりだよ。平たくしたってテトリスみたいに消えないし、隙間が空いたらまた崩れる可能性だってあること考えてないのかよ、ほんとアッタマねぇな。
とか考えてたら、女社員の一人が手ぇ切ったって早速騒ぎ始めた。んで怪我したって言ってんのに上司ときたら
「言った側から何してるんだ! 馬鹿!」
社員を心配しなーい。手当もしなーい。何もしないで騒ぐだけー。
……ウンザリだっつうの、もう帰るわ。
「取り敢えず、時間を待って他の支店に移動する事になる!
それまで瓦礫の撤去を継続して行うから、慌てず急いで続けなさい!
ん? 鳥越どこに行くんだ!!」
呼び捨てかよ、テンパるとこうだから腹が立つ。俺こと鳥越真司は上司の言葉を無視して電車の方へと歩いていった。多分後で怒られるんだろうが、もう知ったこっちゃない。
……いや、知らないなんて嘘だな。今のでまたイラッとしたから俺、言ってた次の支店もぶっ壊すことに決める。
突然スマホが鳴った。案の定上司の糞今井だ、どうせ戻ってこい馬鹿って話だろ? 大した指示も出来ないし、勤務時間中の労働力が勿体無いから手を動かさせたいだけだよな、出ねぇよ。もし重要な連絡なら来た直後スッと判断して言えばいいだけだし、それが出来ない時点で指示者として終わってるわ。
途中自販機でジュースを買う。もしかしたら明日、俺は無職になるかもしれん。でももうどうでもいい。キツい炭酸を味わった後頭が冴え始めて、ルービーにすれば良かったと缶を片手に昨日の場所へと向かった。