8話
「良く見ればえらい変わった馬車持ってんな」
ルーフェンが俺を見回しながら話す。
「ルーフェン勝手に触るなよ、刺されても文句いえねーぞ」
「解ってるよそれくらい、見るだけだよ。なっ?いいだろ嬢ちゃん?」
ナックの言葉に手を振りレヴィに話しかける。
「うん、まぁいいよ、見るだけなら」
ルーフェンの余りの無防備さにレヴィも警戒を解いたようだ。
「そういえば嬢ちゃん仲間はどうした?逸れたのか?」
ルーフェンに呆れながらナックが聞いてくる
「逸れてないよ、一人だよ」
「一人ってこと無いだろそんなでかい馬車持って……もしかしてやられたのか?!」
「違う違う、ホントに初めから一人なの。」
「カーッ、一人で馬車持ち行商とは。勇気あんなぁ」
「いや、行商って訳じゃ……そうだ!ねぇ。アラシシシの血抜きと馬車に積むの手伝ってくれない?」
レヴィは上目使いでナックを見つめる。
「そりゃぁ構わないが…嬢ちゃん馬も逃げたんだろ?どうやって運ぶんだ?」
「その当りは大丈夫。イセコドで解体できたら一人2キロ渡すよ?!」
「もしかして魔道具か…?」
ニコリとレヴィが笑顔で答えた。
「カーッ、すげーな魔道具とは、どこのお嬢様だ…街まで護衛もするから4キロでどうだ?」
「ん~…ちょっとまってね…」
レヴィが車内に身体を半分入れてナビをみる。
「ビーちゃんこの地図で街までの距離ってどれくらいか解る?」
小声でレヴィが尋ねる。
『画面が見えないからなぁ…ん?レヴィもう少し近づける?』
「いいよ?」
レヴィの唇が画面に触れそうな距離まで近づきドキッとする
『ごめん、それはそれで良いけど近すぎる』
「は~い、これくらい?」
レヴィは気にするでもなく距離を開ける。
『うん…これならたぶん歩いて3時間くらいじゃ無いかな?』
レヴィの瞳に映る画面を意識すると操作はできた、数字は読めないが倍率を調整しながら当たりをつける。
鏡が手に入れば目的地設定なんかも出来るかもしれない。
「ねね?もしかしてこの数字って距離を現してるの?」
『えっ?数字読めるの?!』
「えー!数字くらい読めるよ!!……って、私ってそんなに馬鹿っぽい?」
『いや、ごめん、そういうわけじゃないよ。俺にしか読めない文字だと思ってたからさ』
そう言いながら考えてみると言葉が問題なく通じてる、夢で聞いたことが本当ならこの世界に合わせて作ってくれてるので当然なのかもしれない。
それならばと、レヴィにナビの見方を説明しておいた。
「了解、ありがとう」
外に出たレヴィがナックに向きなおす。
「街までもうすぐじゃない。それで4キロはボッタクリすぎじゃない?!」
「なんだ、迷ってるかと思ったがしっかり場所把握出来てるんだな。仕方ない一人3キロでどうだ?!正直帰りの仕事が無かったから厳しいんだよ…助けると思って…な?」
「ん~…人数は三人で間違いないよね?」
「ハハッ、抜かりないな。間違いなく三人だ。依頼内容はアラシシシの血抜きと積み込み、そしてイセコドまでの護衛。報酬はイセコドで解体が終わり次第アラシシシの肉三キロを三人に渡す。これでどうだ。」
「しょうがないなぁ…その代わり私は血抜きも積み込み手伝わないよ?それでいい??」
「ハハッ、それくらい問題ない。それでは契約成立だお嬢さん。……よしやるぞ!!」
身体を覆う針を慎重に抜いていく、大変そうだと見ていたが意外に針は簡単に抜けて10分もかからず丸坊主になった。
続けてアラシシシの血を抜いていく、本来はロープなどで吊り上げるのが良いのだが、今はロープが無いので俺の荷台を利用して体を傾け血を抜いていく。
針抜きとは違い今度は間違いなく大変だ、推定400~500キロありそうな巨大なアラシシシの後ろ足を持ち上げて荷台に積んでいく。
先ほどのオカマで歪んだ荷台はあおりを開く事もできない、鍛えられた屈強な異世界の男達でも流石にキツイらしく、顔を真っ赤にして持ち上げている。
「ふんがぁぁぁ」「ぬりゃぁぁぁ」「どらぁぁぁぁ」「ブリッ」「とぉりゃぁぁ」
ナッサルの面々は様々な異音を発しながらようやく一頭を積み終えた。
髪まで汗だくになった三人は、ほうほうの体でありながらどこか満足げだ。
「ありがと~流石だねぇ。ホント助かったよ」
レヴィは三人に惜しみなく賛辞を送る、この三人が居なかったらそれなりの財産になっただろう獲物を捨てていくしかなかったんだから当たり前の事かもしれないが。
「まぁ、これくらい軽いもんよ。ちょっと休憩したら直ぐに出発できるぜ」
サリューが肩で息をしながら、さわやかな笑顔で親指を立てる。
「よかった、日が暮れるまでに街に入りたかったから。これなら何とかいけそうね。
もう一頭はこっちの方に居るから準備できたらおねがいね」
「「「なっっ、もう一頭?!」」」
抜群の呼吸で三人の目が見開かれる。
「一頭だけとは言ってないよ♪」
可愛い笑顔とは裏腹に、それが確信犯である事は誰が見ても瞭然だ。
それでも、文句を言わずに積み終えた三人の思いは、プロ意識なのか雄の性なのか…。