6話
『じゃ、早速名前決めてくれるかな?』
「えーと…**チャン…」
レヴィは少しうつむきながら小さく呟く
『ん?ごめん聞こえなかった』
「えっと…ビーちゃんって言うのは駄目ですか…?」
『……………』
何と言うか、予想外の名前がやって来た…
「だって…初めて聞いたビーって音がとても印象的で…駄目ですか…?」
両手の指を合わせ人差し指だけクルクルと回しながら上目遣いでハンドルの辺りを見つめている。
うん、無理です。そんな可愛い仕草されたら嫌とか言えません。
ビーちゃん良いです。
最高の名前です。
『駄目なことなんてないよ、嬉しくて言葉に詰まっちゃったんだ。ビーちゃん。いい名前だよ。ありがとう』
“ビッビィー”とホーンを鳴らしてみる。
「良かった、それじゃぁこれから宜しくお願いします!」
『こちらこそ宜しく。そうだ君の名前まだ聞いてなかった』
「ほんとだごめんなさい!レヴィって言います」
『レヴィ?』
「はい!」
『おんなじ”ビー”だ』
「ウフフ♪そうですね」
くぅぅぅぅ、たまんない!まるで新婚夫婦のようなやり取りにおっさんの心は完全に捕まった。
人知れず悶えるおっさんとレヴィの他愛も無い会話は時間を忘れて広がっていった。
「やった!出れたぁ!!ほらほら見て!」
俺の車内視点はナビの画面に有ると言っておいたので、そこに向かって方位磁石を見せてくれる。
磁石の針はピタッと止まり方位を示している。
『うん、ホント良かった。これで街に行く目処が立ったかな?』
「うん、もう大丈夫だと思う。ビーちゃんのおかげだよ!」
道中の会話で、丁寧語は止めてとお願いした、少女にですます口調で慕われたら、勘違いしそうになってこそばゆい…。
恩人にそれは出来ないと断られたが、レヴィは俺の主人なんだからと説得する。
結果、俺もレヴィに丁寧語は使わない事を条件に了承してくれた。
因みに呼び名も”ビー”だけで言いといったのだが、”ちゃん”までが名前なんだと力説された、丁寧に俺を呼ぶ時は”ビーちゃんさん”が正しい事になる。
『とりあえず、このまま真直ぐでいいのかな?』
「う~ん、方角が解っても現在地が解んないから街道に出て目印探さなきゃ、また地波が狂わない限り真直ぐ行こう」
『はいよ~』
とは言ったものの、帰る目処が立ったと聞いて気が抜けたのか、どっと疲れが押し寄せて来た。
『レヴィ、ごめんやっぱり少し休憩していいか?』
「あ、ごめん!朝から走りっぱなしだったね、気にしないでゆっくり休んで!」
時速10~15km/hで半日走ってこれだけ疲れるって言うのは大きな誤算だ、対策を考えないとこの先色々問題が出てきそうだ…。
「ん~~~気持ちいい~」
レヴィが荷台に寝転び身体を伸ばしている。
木々の隙間から差し込む光が気持ちよさそうだ。
『ごめんね、車内狭いだろ?』
「ぜ~んぜん!ずっと座ってから少し体が凝ったけど馬車に比べたら全然揺れないし快適すぎるよ、それよりこのエンジンだっけ?動かしたままで休めてるの?」
『うん、移動さえしてなければ疲れないから大丈夫。それにほら、忘れてたけど魔物とか出るんだろ?いつでも動けるようにしておきたいからエンジンはかけたままでいいよ』
「地波の乱れた所に魔物はこないから私も忘れてたけど、そうだよね、何が出るか解らないから気をつけなきゃいけないよね、うん。」
そう言いながらレヴィが慌てて車内に乗り込む。
「よし、ここなら安全だ」
『だったら良いんだけどね、正直そこは自信がないな。もし魔物と出合ったら一目散に逃げるからね』
「あはは、私と同じだね」
魔物がどんな物か知らないが、軽トラの紙装甲で耐えれる程甘くは無いだろう…。
そんな会話をしながら俺はナビの調整に入る、GPSを有効にして地波が正常に習得できているか確認する。
『よしこれでどうだ?!』
「ん?なにが??」
『ナビの画面に地図表示されてないか?』
「んー真ん中以外全部緑色だね」
『じゃぁ、画面左下にある上向きの矢印を何回か押してみて』
「んと、、、これかな?」
”ピッピッピッピッピッ”
「あ、なんか地図っぽくなってきた。」
『お、使えたら儲け物だぞ!上の矢印押せばどんどん高いところから見下ろした地図になるから見覚えのある地形探してみて』
”ピッピッピッ”
「青いのが川で緑が森だとしたら、これが街で…ふぁぁ、ビーちゃんほんと凄いねぇ」
『どう?解りそう?』
「うん、私の知ってる地図とは少し形が違うけどタブン大丈夫だと思う。ここから左に向かえば街道に一番近い感じだね」
『よし、それじゃもうひと頑張りするか』
一時間程の休憩、回復したとはとても言えないが暗くなるまでに森は抜けたい。
「ビーちゃんちょっと待って!」
『っと、どうした?』
「ビーちゃんの身体って私が動かす事できないの?これで進んで、これで止まって、これで曲がるんだよね?」
俺が操作していてもアクセルやブレーキ、ハンドルは実際のように動いている。
その様子を観察してたんだろうか、ちゃんと理解してるようだ。
『タブン出来ると思うよ、ってか本来はそれが正しい形だし…やってみる?』
「うん!やりたい!!!!」
キラキラと輝く目、夢と希望に満ち溢れている。
そんな目で見られたらどんな事でも断れない。
『よし、それじゃあゃって見よう。危ない時は俺が操作するから手足放してね』
「はい!わかりました先生!!」
『ハハハハハ、なんだそれ。シートベルト忘れないでね』
こんな姿で元の世界はご免だと思ってたけど、教習車として世界狙えてたかも知れないな。
軽トラで教習はないか…
「それじゃぁ、いっきま~~~す」
ブォォォォン
一気に踏み込まれたアクセルに反応して、急発進する
『お・や・く・そ・くぅぅぅ』
「キャッ!」
待ち構えていたブレーキをフル作動、50センチも進まず車が止まった。