5話
ハンドルに顔を伏せながら涙を流し続ける少女、慰めることもできない俺は静かに車を進める。
崩れることの無いクールなフロントフェースとは裏腹に頭の中では絶賛会議中だ。
とはいえ打開策が浮かぶわけでもない、慰めの言葉が見つかる訳でもない、試せる事は1つだけだ。
温存しようと決めた所だが、今がそのタイミングである事を願う。
状況確認と念じてステータスバーを広げる、
項目を開いてカーナビゲーションを選択する。
別にナビが可動することを期待している訳じゃない(全くないわけではないが)。
狙いはナビに内蔵されているジャイロセンサーと進行ルート履歴だ。
キラキラと光に包まれてカーナビが現れる。
「ふぁ?ななななんですか今度は?!」
少女は突如現れたカーナビに驚き背もたれに背中を押し付ける。
俺はというと、カーナビを使いこなすべく神経を張り巡らせる。
『よし行ける』
「ひゃっ!ここ今度は誰ですか?!」
『お?もしかして声聞こえる?』
「は、はい…もしかして馬車さんですか?」
『うんそうだよ、話せるようになったみたいだ。』
嬉しい誤算だ、ナビの音声を介して話せるようになった。
「ふぁぁ、馬車さんって女性だったんですね」
『え?なんで??…あぁ…』
ナビの音声を使っているので声は女性だ、正直に言うべきか悩ましい、、、
何とかこの先もこの少女に俺を使ってもらおうと企んでいるのに、中身がおっさんだとバレたら…
俺が彼女の立場ならやっぱり気持ち悪いと思うんだ…。
『ほら、俺は魔道具だから性別とか無いんだ』
ヤバイ思わず俺って言ってしまった。
「あ~なるほど!でも俺っていうんですね?」
『お、おかしいかな…?』
「いいえ、カッコいいと思います♪」
ナビの画面から車内を覗き込むような視点が可能になった、そこから見える彼女は笑ってる。
その笑顔が嘘でないことを今は祈るしか無い…。
それにしても可愛いな、いい目の保養だ。
因みにアラウンドビューもセットになっていたらしく、周囲を俯瞰で見ることが可能になった。
(どんなナビだよ)と、突っ込みながらも損は無いのでありがたい事だ、そもそもアラウンドビュー用のカメラも見当たらないので突っ込むだけ無駄なんだろう。
GPS(この場合周囲の地波を観測して位置を特定している?方位磁石と同じような動きをした)をカットして、ジャイロだけで車を走らせる、そうすれば無意識に方角が変わる事も無い。
狙い通り走行履歴が残って行く、俺の視点からではナビの画面を見ることが出来ないので、少女に説明して履歴の点線が真っ直ぐになるよう誘導してもらう。
地図の倍率をいじりながら、まっすぐ真っ直ぐ進んで行く。
彼女も手応えを感じているのだろう、終始にこやかで会話も弾む。
「そういえば馬車さんの名前はなんて言うんですか?」
『名前はまだないかなぁ』
意識としては佐々隆盛なんだけども、生まれ変わってまでそれを名のるのは違和感がある、だいいち軽トラだしね…
「えっ?それじゃあ、馬車さんの持ち主の方はなんと読んでたんですか?」
『持ち主も居ないよ、俺まだ生まれたばかりなんだ』
「えぇぇ!魔道具って生まれるんですか?!!」
『う〜ん、、、どうなんだろう?正直自分が魔道具なのかも解らないんだ。』
「ふぁぁぁ、不思議ですねぇ、でも産まれたてなら仕方ないのかぁ」
『そうだ、折角だから名前付けてくれない?』
「えっ!私がですか?!良いんですか?!!!」
『うん、何か問題がなければ是非お願いしたい』
「でもでも、魔道具は名前を付けたら契約完了してしまうんですよ?付けた人に所有権が発生してしまうんですよ?馬車さんが困ると思います…あっ、でも、もし魔道具じゃないならそれも関係ないのか……いやいやいやいや、やっぱり駄目です、もし馬車さんが魔道具だったら貴重過ぎて私なんかに釣り合いません!」
『所有権付いたらどうなるの?』
「所有者しか作動出来なくなるんです、だから私しか使えなくなるんですよ、馬車さんなら国王相手でも喜んで契約してくれますよ!」
『俺みたいなのって珍しいの?』
「勿論ですよ!こんな不思議なことがいっぱい出来てその上会話も出来るなんて、伝説の中でも聞いたことがありません!」
おっと、それ程だとは…やるな俺…素直に嬉しいぜ
『それ程貴重なら、尚更君に使ってもらいたいな。世間知らずの俺がたちの悪い奴に騙される可能性を考えたら、君のような信用できる人に使ってもらいたい。迷惑じゃ無ければだけどね』
「迷惑なんてとでもないです!馬車さんが居てくれたらとても嬉しいですけど、やっぱり私なんかじゃ…」
『そんなふうに言ってくれる君だから信用できるし、好きになったんだ』
雰囲気に流されて口説き文句みたいな事を言ってしまった。
少女を必死で口説く軽トラ…シュールすぎるな…
でも必死にもなるよ?
この子が毎日俺の肩に乗ってくれるんだぜ?
両手で頬を触ってくれるんだぜ?
逃す手は無いじゃないか!
「そ、そこまで行って頂けるなら…宜しくお願いします」
頬を赤らめてモジモジしながらちょこんと頭を下げる少女…
俺は今最高に幸せだ。




