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53話 最終話

農地の間の小道を見つけ、森の中からその道に出ようとした所、王女様からマッタがかかった。


「ビーちゃん様、通りに出る前に私達の姿を晒すことは出来ませんか?」


一瞬何を言っているのか分からなかったが、詳しく聞くと、民衆の目がある以上姿を見せていたほうが手出しが出来ない という事だった。


『ナック、大丈夫か?』


「そうだな…ビーちゃんが走れば誰でも一度は目を向けるだろうし、そうすれば必然的に王女様の姿も見るだろう。それを考えれば、隠しているよりは手出しをしにくく成るだろな」


もちろん、周囲は俺たちで囲むけどな と付け加え、キャンプキャリーを収納し、平台のままの荷台に王女様を乗せて走ることにする。

ナッサルの三人で王女様とルーフェン兄を囲い、付き人の娘を助手席に座らせる。


目論見通り、働く農夫たちの視線を一身に浴びながら、遠くに見える城門を目指していった。



城門が間近に迫ると、衛兵たちが騒がしく門の前に集まってくる。

街に入るために並ぶ民衆を脇に寄せ、20人ばかりの衛兵が俺たちに対峙するように整列していた。


「え~と…アレって本当に大丈夫なの?」


立ち並ぶ衛兵の気迫に、流石のレヴィも不安になってるようだった。


「いや、たぶん…アレは得体の知れないビーちゃんを牽制しての事だろう…」


少し言いにくそうに、そう言うナックと、


「あ……そうか……」


なんて、渋々納得してしまうレヴィの言葉に、自覚は有るものの少し傷ついた…


更に距離が近づき、俺が見ても衛兵たちの顔形がおぼろげに見えかけた時、勢いよく、場内から更に多くの兵士が出てきた。

その溢れ出る数の多さに、思わず『うっ…』とブレーキを踏んでしまう。


止まってしまった俺の前半分を、重装鎧を着込んだ兵士が取り囲む。

辛うじて武器は抜いていないようだったが、その重圧に、ナッサル達も身構えた。

荷台からジリジリとした緊張感が伝わってくる。


「も、もしかして、目撃者は全部殺してしまえばい なんて事にはならないよね?」


レヴィが苦笑いを浮かべながら、そんな不吉な言葉をポロリとこぼす。


「陛下は賢王で有らせられます。その様な暴虐は為されないとは思いますが……それ以上に強い愛を姫様に注がれておられますので……」


助手席に座る付き人の娘は、そこまで言って言葉を濁した。


「ちょ…さすがにそれは勘弁してよ…」


珍しくレヴィが弱音を吐くが、勿論俺も同じ気分で、最悪俺たちは王女様が望めば亡命でもしてやるが、何の関係もない人達が殺されるのは、寝覚めが悪いなんてもんじゃない。

キャビン後部の小窓から、レヴィがコソッとナックに話しかける。


「ナック…奴らが手を出す前に動いたほうが良いと思う?」


「あぁ…だけどそのタイミングは俺が見極める。レヴィとビーちゃんは何時でも動けるようにだけしておいてくれ。」


レヴィがナックの言葉にうなずいて、前に向き直しシートベルトに手をかけた次の瞬間


「姫様、アルマンド様、ようこそ無事にお戻りになりました。」


並ぶ兵の中から、そんな言葉が飛んできた。

はじめに並んでいた衛兵の列を割り、一人の騎士が前に出てくる。


「オリンピオ!」


騎士の顔を見て、王女様が名前を呼んだ。


「ホッ……大丈夫です、あの方は姫様の騎士です。たとえ陛下が敵になっても、姫様の味方に成るような方ですので心配ありません。」


付き人の娘がそんな補足をしてくれて、俺達は、はぁ~~~ と一際大きな息を吐いた。





「ありがとう御座いました。この旅を振り返り、貴方方以外ではとても成し遂げて頂けなかったことでしょう。」


レヴィとナッサルの三人が、俺の側面で一列に並んで立ち、王女様は民衆の前にも関わらず俺たちに向かって頭を下げた。

かと思えば、王女様の騎士の合図で、周囲を囲む兵士が一瞬でそれぞれの間を詰めていて、その姿が民衆に晒されることはなかった。


「レヴィ様。貴方様の魔道具で有らせるビーちゃん様には特に助けていただきました。本当にありがとうございます」


そう言って王女様は、レヴィに向かって、深く深く頭を下げる。


「い、いえ、こちらこそ。色々失礼なことをしてしまったと思います。申し訳ありませんでした」


そう言って、慌てて頭を下げるレヴィ。互いに頭を上げると見つめ合い、ふふふ と笑い合う姿を見て、あぁ本当に依頼を果たせたんだなと実感した。


「つきましては、感謝の意を込めて、晩餐にご招待したいのですが…」


ちらりと、自信なさげに俺たちを見回す王女様。


「折角のお誘いですが、我々は直ぐに発たなくてはなりません。お気持ちだけ有り難く頂戴します。」


ナックは一歩前にふみ出ると、皆を代表して誘いをきっぱり断った。

こうなってしまっては、民衆の目が王女様たちを守ってくれるだろうが、俺たちにそれは当てはまらない。正直この時間が惜しいくらいだというのは、ソワソワしてるサリューの後ろ姿から伝わってくる。


「ですわね…今の我々に貴方方をお守りする力が無いことを歯痒く思います。しかし、その時が来ましたら改めて、ご招待させていたくことを約束させてください。」


「はい。その時を楽しみにお待ちしております」


ナックは王女様をまっすぐ見据えてそう答えると、軽く頭を下げて再び下がる。


「兄貴…それを成し遂げるのは兄貴の仕事なんだぜ?解ってんのか??」


突然そんな事を言い出すのはルーフェンだ。王女様の横に立ち、ぼ~と王女様を見つめている兄の手を掴み、耳元で本人なりの小声でそう言った。

しかし、一般的には全く小声の部類に入らず、俺のところまで聞こえてきているのルーフェンらしい。


「ばっ…でかい声でそんな事言うんじゃねぇ!」


慌てた兄は、そのままルーフェンを俺の側まで押し込んでくる。


「お前が活躍したところは見てないが、レヴィ君とビーちゃんさんを連れてきてくれた事だけで、お前が弟でよかったと思えるよ。」


「はぁ?!俺だって行きはシッカリ働いたんだぞ!」


抱き合うようにしながら、ルーフェンの耳元で話す兄対して、やっぱりルーフェンの声はでかい。


「ビーちゃんさん、ラプリンサ共々、貴方には本当に感謝しています。貴方が話せることに関しては、私達、互いの愛の誓いと同等の誓いを持って秘密にすることを誓いますのでご安心ください」


兄は、ルーフェンの声に顔をしかめながらも、本当の小声でそんな約束をしてくれた。


『あ、ありがとう、そう言えば君たちの前で話したことすっかり忘れてたよ…』


最小音量で零した俺の言葉に、レヴィも横で苦笑いだ。


『だけどさ…その誓い方だったら、離婚し……』

                  ”バンッ!!!”


「ビーチャン!!」


ドアを平手で強く叩いたレヴィに、力いっぱい睨まれてしまった……


レヴィが叩いた音で、シン と周囲が静まり返る。

ハハハ と、苦笑いしか出来ないレヴィ。


「それでは、我々はこれで失礼します。」


そんな空気を、ナックがブチッと断ち切ってくれた。


改めて有難うございましたと、王女様とルーフェン兄が頭を下げる。

国境まで兵を付けますという、王女様の騎士の申し出を丁重に断って、レヴィとナッサルは俺に乗り込んだ。


キュンキュンキュン…ブオーン 


エンジンの始動と共に、軽く吹け上がった排気音。

その音に反応した多くの兵士が一瞬身構え、レヴィは再び苦笑だ。

そのまま窓越しに軽い会釈をして動き出す。

兵士たちが割れるように道を開けてくれて、人垣を抜けた所で一気に加速していった。


「ナック、そう言えば聞いてなかったけど、亡命する国の行き先は決めてるの?」


レヴィは、俺を操作しながら助手席のナックに話しかける。


「いや、全く考えてねぇ。ひとまず国境越えてからゆっくり考えようや。」


キリッとした表情で、残念な言葉を吐き出すナック。


「何よそれ!ほんとザナックだね…」


そんなナックの答えに、レヴィはいつもの呆れ顔だ。


「なっ、いいだろ別に仕事外のことなんだからよ!」


「何いってんの、無事国外に出るまでは、私達の仕事は終わってないんだからね?それとも何?ここで降ろして行ったら良いのかな?」


「ちょっ、勘弁してくれよレヴィ………」


『ハハハ、まぁまぁレヴィ。ギルドに行けば当分遊べるだけの報酬が入るんだから、先の事はゆっくり考えようぜ』


レヴィのいつものナックいじりが始まった。

荷台では、いつの間に手に入れたのか、サリューとルーフェンが酒盛りを始めてる。

それを俺がレヴィにチクって、やっぱり降りろと怒るレヴィに、大の男が三人揃って頭を下げる。

俺が、そんなもんでは許さねぇよと 更に追い込み、ナッサルの泣き言を引き出すまで1つの流れだ。


結構な苦難を乗り越えたと思っていたが、結局何も成長してない俺たちが居た。




長々とお付き合い有難うございました。

兎に角軽トラを主役にしたいと、勢い任せで書き始めた当作ですが、予想以上の多くの方が読んで下さったおかげで、見切り発車に苦労しながらも何とか書ききることが出来ました。

何度もご感想頂けたことに励まされたのは、言うまでもございません。


別の作品に置きましても、皆様の御目に適いましたら応援して頂けたらと思います。

有難うございました。

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