52話
何度も転がっているうちに、俺の視界は暗転していた。
暗闇の中で何度も転がった俺のボディは、やがて横倒しになって停止した。
『レヴィ!大丈夫か?!!!』
最大音量で声を掛けるがうめき声一つ帰ってこない。
耳がおかしくなったのかと思いたいが、皮肉にもシャラシャラと回る俺のタイヤの音だけはしっかり届いている。
暗闇に混乱しながらレヴィの気配を必死に探す。
運転席に集中すると、確かに人の圧と温かみを感じるが、ピクリとも動いている気配がない状況に、最悪の事態が頭をよぎった。
必死に否定しながらも、このまま徐々にレヴィの体温が無くなっていくのを想像して、気が狂いそうになる。
「っててててて…オイ、みんな無事か?」
数秒遅かったら頭の中の何処かの線が切れていたかもしれないその瞬間、耳に届いたナックの声で正気に戻った。
『ナック!その声はナックだろ?!レヴィ、レヴィは無事か?!!』
建前も何もかも忘れて、俺はただレヴィの安否を気にかける。
「おい、大丈夫か?」
ユサユサとナックの動きに合わせて、運転席が小さく揺れて、
「……う……」
っと、か細い別の声が聞こえた。
『ナック!それは誰の声だ?!レヴィか?レヴィは無事なのか?!おい、ナック!!なんとか言えよ!!!!』
「大丈夫か?何処か怪我はないか?」
興奮状態の俺とは違い、ナックは穏やかな声で話しかける。
「え?あ…うん。チョット頭がくらくらするけど、どこも怪我はしてないと思うよ」
『レヴィ!!無事だったか!!!!くらくらするって大丈夫か?!本当に何処も怪我してないのか?!事故の直後は怪我してても気が付かないからな?ちゃんと触って、動かして確かめるんだぞ?!!』
ナックの言葉の後に聞こえた声は、確かにレヴィの声だった。嬉しさのあまり、俺は矢継ぎ早に無事を確認する。
「ってか、ナック…なんでこんなに顔が近いのよ?」
「しょうがねーだろ。ビーちゃんが横倒しになっちまってんだからよ」
「そうだ!ビーちゃん。ビーちゃんは無事なの?!!」
『あぁレヴィ。俺は大丈夫……』
「ビーちゃんの心配するのも分かるけどよ、少しはこっちも気にかけてくれよ…」
「あ、ルーフェン……後ろのみんなは大丈夫?」
『あ、すまん、俺もすっかり忘れて……』
「あぁ、兄貴も王女様も目立った外傷はないから、気を失ってるだけだと思う。」
「オイオイ、お前こそ俺の事忘れてないか?」
「おぉサリュー、お前も無事だったか」
『って、何だよお前ら、さっきから俺を無視してんじゃねーよ!!』
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王女様とルーフェンの兄貴は、その後直ぐに意識を取り戻した。
俺のボディは横倒しには成ったもののキャビンに歪みはなく、空を向いた助手席側のドアがすんなり開いて、ナックとレヴィが外に出た。
生憎、キャンプキャリーの扉は歪みが激しく、簡単には開かなかったが、ナックとルーフェンのが無理やりこじ開け、全員が車外に出ることに成功した。
改めて、皆に異常がないか確認しあったが、タンコブすらも無かったようで、付けれるだけのカーテン式エアバックを取り付けておいた甲斐があったようだった。
俺はと言うと、大きなところでは右フロントタイヤ周りの大破と、キャンプキャリーの歪みだけの筈だったのだけど、ナッサルに起こしてもらって、それらを修理した後も、俺の声はみんなに聞こえず、視界も戻らず、更にはエンジンすらかからないという状況に陥って……
30分程半泣きになりながら原因を調査した結果、メインコンピューターに繋がる線が、断線している事に気がついた。
結果だけ見れば、その程度で済んで良かったねと、皆で奇跡を祝うところなんだけど…
実際の所は…
ピクリとも動かない俺に、レヴィは死んでしまったと泣き叫び、あわや私も死ぬと言い出して、
俺はと言うと、そんなレヴィに一刻も早く無事を知らせてやりたいが、一向に原因が見つからず、もしかして一生このままなのかと、泣きそうになったりと、
前世と合わせても、間違いなくブッチギリで長い長い30分だった。
俺が再び意思疎通できるようになり、取り乱していたレヴィが漸く落ち着きを取り戻すのに更に30分。
そろそろ行こうかと動き出した時、
「プッ、何だありゃ」
サリューが亀裂の向こう側の様子に気がついた。
亀裂の向こう側には、騎士のみたいな奴から山賊みたいな奴まで100人以上居て、
それぞれが、罵声や、弓矢や、魔法や、石なんかを俺たちに向かって飛ばしていたが、どれ一つ届いていなかった。
「すげーなアイツラ。この一時間位ずっとアレやってたのか?」
届く気配のない攻撃をひたすら続けて居たのであろう敵に、ナックはある意味尊敬できると、軽く笑った。
『ここにおびき寄せるとか言ってたのは、これの事だったのか…』
アクティビティが言っていた言葉を思い出し、ここで囲う魂胆だったのかと理解した。
『そう言えばアイツどうなったんだ?』
落ちた姿は見た気がしたが、見間違いの可能性もあるので、皆にも聞いてみた。
だけど、俺以外はみんなフロントタイヤがぶつかった衝撃で気を失っていて、
そのかわり、ナックが車外から出たときに、亀裂の下から、キラキラと光の粒が登っていくのを見たという。
その光の粒は、一つ一つは小さいが、俺が部品を変えたときに出る光によく似ていたそうだ。
あの亀裂に落ちて無事で住むとはとても思えないが、万が一生きていてもすぐには登ってこれないだろう。下手をすれば一生出られない可能性も低くなく、そんな事なら死んだほうがマシだろうなと同情した。
方角的には、王城までまっすぐ続いているであろう、地図に載っていない道を行く。
「地図に無くともこの様な道が有れば流石に気がつくと思いますが……」
ってな風に、王女様は今更ながらにこの道に不安を覚えたようだった。
(『アレだけ苦労して飛び越えたんだから、今更行き止まりとかは勘弁してくれよ…』)
なんて言葉は流石に口にできなかったが、なんだかフラグが立てられたような気がし…
どうにも落ち着かない道のりを強いられることに成った。
しかし、そんな心配を他所に、何事もなく俺たちは王城に近づいていていき、直線距離で残り10キロ位になった時、誰もこの道に覚えがない理由が判明した。
道路は突然、切って貼ったように様に森に変わり、木の立ち並びからこの森が植樹によって作られた事がわかる。
整然と立ち並ぶ木々の間を暫く走り続けると、やがて木々の隙間から湖が見え。
更に進むと湖を背負った王城が姿を表し、そして目の前には広大な農地が広がっていた。
「ウナチオネです。ウナチオネが見えます…」
この旅のゴールである王都ウラチオネを目の前に、王女様は感極まったのか涙を流し始めた。
「まだ泣くには早いよラプリンサ……」
ルーフェン兄はそんな事を言いながら王女様の肩を抱きつつも、瞳の奥はウルウルと潤んでいる。
俺は、農地を踏み荒らすわけにも行かないので、王城を右手に見ながら、ゆっくりと森の中を迂回していった。
ブクマ有難うございます。
まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。
稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。




