4話
カチャッと静かにドアが開かれる気配で目が覚める。
軽トラの癖に眠っていた自分に違和感を感じるのは、身も心も軽トラに馴染んだ証拠だろうか?
車から降りた少女が「ん~~~」と声を出す、体を伸ばしているんだろう。
ホント、狭くてごめんね。
車の前にある倒木に腰を掛け、少女がパンを食べ始めた。
”カッチカッチカッチ”
ハザードを三回ほど焚いてみる、
「あ、馬車さん、おはようございます。起こしちゃいましたか?」
木々の隙間からこぼれる朝日に照らされる少女の姿は輝いている。
うん、すごくいい。
「あっ!ごめんなさい一人で食べて、馬車さんご飯は大丈夫なんですか?」
ご飯と言っても必要なのは燃料だけだ、その燃料も自然回復するようなので、非常に経済的だ。
”カッチカッチ”
朝からホーンはうるさすぎるので、ハザードで応えて見た。
「大丈夫って事ですか?」
”カッチ”
「フフフッ、そんな答え方も出来るんですね」
そう言って少女は懐中時計のようなものを胸元から取り出した。
「あぁ、やっぱり駄目だ、針が回り続けてる…」
方位磁石だったらしい。
乱れた地波は時間の経過で回復する事があるらしく、その可能性にかけて見たが変化は無かったそうだ。
「あつかましいお願いなのは解っています、それでも今は馬車さんに頼る他なくて…お礼は何でもします!街道まででも構いません…もう少し乗せていただけないでしょうか…?」
立ち上がり、俯きながら不安そうに話す、チラリチラリと様子を伺うように上目使いで視線を送ってくるのがたまらない。
『おじさんの方からもぜひお願いします』と言いたくても言えないのは、幸なのか不幸なのか…駄目だよ知らないおじさんに何でもしますとか言ったら。
なんでも、水も食料ももう無いらしい、「これで最後なんです」と半分残したパンを袋にしまい込む。
自力で歩けば3日で力尽きるだろう、俺に乗って体力を温存できれば、5日いや、7日は耐えれるかもしれないと少女が話す。
いつ抜け出せるか解らないこの森で体力の温存は死活問題だった。
”カッチ”
YESの返事を出したとたん、花が咲くように笑顔が戻る。
その笑顔を見るだけで20歳は若返る心境だ。
「それじゃぁよろしくおねがいします」
軽く頭を下げて俺に乗り込む。
出発前に燃料を確認する、
35.6L
ずっとエンジンをかけていたにも関らず減っていない、アイドリング状態では消費と回復が吊り合うのだろう。欲を言えば増えてほしかったが、減らないだけでも十分ありがたい。
方角は完全に見失っている、それでもこの地波さえ抜ければ何とかなる。
俺たちは慎重に真直ぐ真直ぐ進んでいく、それでも地面の僅かな傾斜は方向を狂わせ、障害物を回避するたびに少しずつ曲がっていく。
一時間ほど走ったところで見覚えのある倒木が見えた。
少女が駆け寄り倒木を確認ししゃがみ込む、出発前にナイフでつけた印がそのままあるらしい…、。
気を取り直して再出発。
1時間、2時間、3時間…4時間たったところで少女が呟いた。
「どうしよう、一生出られないかもしれない…」
とたん、ハンドルに涙が落ちる、取り乱すように泣き叫ぶことはないが、シクシクと静かにすすり泣く。
一方で俺はというと、一人脳内でアタフタとする。
元々こういう状況は苦手だ、かける言葉も見つからなくて、『がんばろう』しか浮かばない。
更に今はその言葉すらかけれない、もしもこの身が生身なら、少女以上に取り乱して居るのは間違いなかった。