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36話

車内に緊張が走る。

ナックに剣を突き立てるのはカシル。暗い印象の二刀の男だが、こうして人の背後で剣を突き立てる姿はなぜだか妙に似合ってる。

荷台では今にも飛び出しそうなルーフェンをサリューが宥めているようだった。


「だめだよルーフェン、いま荷台から出たら積み荷が見えちゃう。」


レヴィはナックから目を離さずに、言葉だけを後ろに届ける。


「レヴィさんすいません。先輩置いて逃げられても困りますから、一度馬車から降りてもらえますか?」


『待てレヴィ!!!』


引き止める俺に笑顔を向けて、レヴィはドアを開けると車を降りた。

最もドアを簡単に開けさせたのは、今は言う通りいするしか無いと分かっていたからだ。


「クロード…なんの冗談だこれは…。俺も護衛を受けている以上、これ以上はお前らを斬らなきゃならなく成るんだぞ?丸腰とはいえ、お前らで勝てると思ってるのか?」


ただでさえ狭い軽トラの助手席。そこでいつ来るとも分からない依頼主を待っていたので、当然ナックは鎧すら付けていない。辛うじて腰に小さなナイフが刺さっているが、所詮は果物ナイフみたいなものだ。

そんな状況でも、こんなセリフを言えるナックが心底かっこよく見えるが、それ以上に俺の心は恐怖にまみれてた。


『馬鹿ナック、煽るんじゃねーよ』


俺は届かない声を出して、ナックが穏便に話を進めてくれることを只々祈る。


「もぅ…先輩にかかったらいつまで経っても僕らは半人前扱いなんですね。僕たちだってちゃんと成長してるんですよ?」


「半人前扱いなんてしてねぇよ。出会ったときは辛うじてDランクになれたようなお前たちが、今やDランクとして恥ずかしくない腕を持ってるのは、この前の狼討伐を見てたらよく分かる。だからといって俺達三人が一人ずつ対処していた一つの群れを、お前らが5人でようやく対処できていた事を忘れてないか?」


「あはっ!先輩たちに、そう見せれた…」

                バンッ!!!!!


「ナック!!!御託はもういいぜ!育ててもらった恩も忘れて、ぐだぐだぐだぐだ邪魔しやがって。全員さっさとブチのめして再教育だ!!」


クロードの言葉を遮るように、突然激しい音と主に車が揺れた。

同時にルーフェンが飛び出していて、それを止めていたサリューは狭い荷台の中で振り飛ばされていた。


「クロード、確認したよ。後ろ姿だけど、ラプリンサ王女とそのお付きのロレッタで間違いない。」   


俺の後ろについていた、ウムって名前だった筈の弓を持つ女の子がそう言った。


「……ありがとう、ウム…」


鳩豆顔のクロードが、一息ついてウムに礼を言う。

開け放たれたアルミコンテナの扉から、頭をさすりながらサリューが降りるのを確認して、俺は静かに扉を締めるがうまく閉まらない…

本来この手のコンテナは中から開ける事はできなくて、それはこれも例外ではない。

恐らくは蹴り飛ばされたのだろう、コンテナのドアはぐにゃりと歪み、無残な姿になっていた。

今の俺のボディ強度はかなりの物になってた筈だったんだけど……内側からは関係ないという設定であってほしい。


「生意気かもしれませんが…同情しますよ先輩………」


「だったら、邪魔するなよぉ………」


お互いリーダー同士と、通じるものがあるんだろうか?

空気を読まないルーフェンの行動に、二人は敵対してるとは思えないなんとも言えない連帯感を醸し出していた。



キラキラと光を発しながらひしゃげた扉を修理する。


「うわっ直った!…クロード、私これほしい。」


その瞬間を目の前で見たウムは、目を輝かせてそんな事を言っている。


「ハハッ。それはまた後で考えましょうね。」


ウムに向かってそう優しい目で答えたクロードは、打って変わって剣呑な目つきに変わりナックを見つめる。


「すいません先輩。これで僕たちのターゲットが先輩達だとハッキリしてしまいました。…出来れば間違いであって欲しかったんですけどね」


言葉とは裏腹に、殺気を漲らせながらナックの前に立つクロード。

しかしその目は、ナックを睨みつけながらもどこか寂しそうで、言葉に嘘はなさそうだった。


「ちょっと待て、ターゲットが俺達って表現がおかしくないか、お前ら王女の護衛だろ?」


「ハハッ、ちょっと言い間違いましたけど、護衛対象を誘拐した先輩達を倒さなきゃいけないんですから、同じじゃないですか。」


「同じじゃねぇ。俺等冒険者は依頼内容の僅かな言葉の機微で仕事内容が大きく変わる。そんな中でDランクにまで上がってきたお前がそんな間違いを侵すはずがねぇ」


そんなナックの指摘にクロードは、”ふ~”と小さく息を吐くと、懐に手を入れて何かを取り出した。

ちなみにこの時ルーフェンは、飛び出してみたもののナックに突き立てられた剣を前になにすることも出来ず、武器を握りしめて俺の横で歯ぎしりをするばかりで、サリューはウムと睨み合っていた。


「ルーフェン1週間ご飯抜き……」


ミラー越しに壊れたドアを見たレヴィが発した言葉のトーンが、聞いたことないほど恐ろしく…耳から離れない。


「我らグラット・ジ・グロリー、依頼内容は王女と行動を共にする者の殲滅。敷地外で王女に関わったものは一人も生きて返すなと言われています」


「グラット???何を言って……ってそれは!お前まさか闇ギルドに!!!グッ…」


クロードが懐から取り出したのは、ドックタグの様な鎖のついた金属のプレート。

ナックはそれを見て、驚愕するように今日一番の声で叫び、クロードに掴みかかろうとした。

その瞬間、添えられていた腹部剣がブスリと突き刺ささり、ナックは数歩よろめきカシル共々俺の目の前に来る。

細い鋭利な剣先が、目の前で人の体に突き刺さっていて、その周囲からはボタボタとけして少なくない血がにじみ出ている。

特に血が苦手という訳ではなかった俺だが、流石にこの光景は来るものが有った…


「だめですよ勝手に動いちゃ、先輩たちには本当に感謝してるんです。だから殺す前にキッチリお礼を言わせて貰いたいんですよ。」


「何がお礼だふざけやがって!選りに選って闇ギルドだと…ッ……」


痛みに顔を歪めるナックをクロードは複雑な表情で見つめるが、その体から出される殺気は依然ビシビシと伝わってくる。


「こんな形になったのは申し訳ないんですけども、こっちの世界で成功できたのも、やっぱり先輩たちのおかげなんです……。ありがとうございました……さようなら…」


クロードはそう言うと、スッっと、初めてナックから目を逸らせて後ろを向いた。


お読みいただきありがとう御座います。

少し時間が空いたので、久しぶりに2話ほど書き溜めが出来ました。

9/29・10/6は間違いなく更新できると思います。

勿論それ以降も週一更新を目標としていますがテンテンテン

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。


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