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34話

決行日より一ヶ月程早く到着したので、時間を持て余さないか心配だったが、結果的には杞憂に終わったみたいで安心した。

流石この国の首都と言うべきなんだろうか、毎晩レヴィが話してくれたのだけど、連日、大半の時間を観光や買い物に費やしても、飽きること無く過ごせたみたいだ。


勿論俺は一緒に観光するわけにも行かず。ほとんど宿の駐車場から動くこと無く過ごしていたんだけど、身振り手振りで一生懸命その日の出来事を話してくれるレヴィを見るだけで満たされた。



首都の中心部、大通りに面した広場がある。広場には無数の小さな露店が毎日開かれていて、日が沈むまでの間は常に多くの人で賑わっている。

レヴィと俺は広場に沿うように駐車して、ボーと広場に行き交う人々を眺めてる。


”コンコン”と窓をノックして、ナックが助手席側に乗り込んできた。


「来るとしたらソロソロだ、一応準備を頼む」


「うん。」


ナックの言葉にレヴィは若干緊張した声で返事をすると、キーを回してエンジンをかける。

ナックが”来るとしたら”と、あえてあやふやに言ったのには理由があって。

まさか俺達が城に王女様を迎えに行くの分けにはいかないので、合流地点まで王女様が出向くことに成っているのだが、気軽に外出出来るような人ではないので、合流は今日から二週間、10時から15時までの何処かといった約束に成っていたからだ。


レヴィは緊張気味に、背筋を伸ばしてハンドルを両手で握ってる。

時折、思い出したようにキョロキョロとミラーで後方を確認して、また前をじっと見つめる。


「期間は2週間有るんだ、そんなんじゃ保たないぞ…」

                      「レヴィさん。何してるんですかこんなところで?」


見かねたナックがレヴィ声をかけた時、同時に車外から男の声が聞こえた。

レヴィは運転席の窓を開けると、声の主を探す。


「おぉ、クロード。お前こそどうしたこんな所で?こっちで受けてた依頼は済んだのか?」


空いた窓から顔を覗かせるクロードに向かって、ナックがレヴィ越しに声をかけた。


「うぇ…先輩まで居たんですか…」


クロードは露骨に顔を引きつらせ、半歩後ろに後退した。


「おい、その反応はどういう意味だ…」


「あはは、いやぁ…先輩こそ何してるんですか………ハッ!まさか!!!駄目ですよ先輩!いくら別れたからって娘さんくらいの歳の娘相手に…」


「ばっ!馬鹿なこと言ってんじゃねえ!仕事の打ち合わせしてるだけだ!忙しんだから用がないならさっさと消えろ!」


意外にも動揺しているナックの姿に、レヴィはクスクス笑ってる。


「いやぁ、仕事までの待機中で結構暇なんですよ。だから昼食でもご一緒にと思ったんですけど…仕事中なら仕方ないですね。それじゃぁレヴィさん、迎えに行きますので夕食は是非ご一緒させて下さいね」


クロードは満面の笑みでそう言うと、手を振りながら人混みの中に消えてった。


「ったくアイツは…それにしても依頼主と鉢合わなくて良かったぜ…」


ナックは巨体を丸めると、腰をずらして狭いシートに深くもたれ掛かった。



結局その日、王女は現れること無く時間が過ぎた。

宿に戻って休んでいると、夕方頃にクロードが現れ、同行するというナッサルに文句を言いながらレヴィを連れて食堂街へと消えてった。


その後、一週間経っても王女は現れなかった。

もしかして、どこかしら話が漏れて王女は監禁されたのか?なんて事が頭をよぎる。

報酬は前金として既に1/3を受け取っているらしい。このまま期日まで現れなかったとしても、キャンセル扱いになるだけだ。

元々の報酬額が莫大なので、1/3と言ってもタダで観光をしたと思えば損はない。

だけど、話の漏れ方によっては、俺等王様に眼を付けられるんじゃないだろうか?


この国の最高権力者に睨まれて、その後快適に暮らせるはずがない…


(だとしたら報酬は満額もらわないと割に合わないよな…)


他国に引っ越す事まで考えれば、1/3程度じゃ大損だ。

そこまで考えて、ようやく気がついた付いたことが一つ…


(これ、成功しても王様に恨まれるのは確定だよな…)


成功報酬の金額に納得した…




待ち合わせ開始から10日が経過した。広場の鐘が15時を知らせて鳴り響く。


「今日も来なかったね…」


連日の空振りにもかかわらず、緊張感を持ち続けていたレヴィは、フ~っと大きく息を吐いて警戒心をOFFにした。

その瞬間、バキン!と何かが折れるような音がした。


「ど、どうしたの?!」


「あー大丈夫だ心配ない。小麦屋の荷馬車が壊れてひっくり返っただけだ。」


不意打ちで受けた大きな音に怯むレヴィに対して、ナックは冷静に外の様子絵を伺ってそう返した。

車輪の軸が折れてしまったようで、荷馬車は傾き、積まれていた小麦粉が散乱して徐々に辺りを霧のように覆っていっている。


『うわぁ…可哀想に、半分以上ぶちまけてるんじゃないか…?』


舞い散る小麦粉を必死で集めようと、空中で手を振り回す行者の男に同情が浮かぶ。

そんな男の姿もやがて小麦粉の煙に巻かれてしまい見えなくなる。

スーパーチャージャーを付けたときに一緒に変わった大容量のエアクリーナーをノーマルに戻して、粉に備える。

直ぐに俺のボディも小麦粉に覆われて、窓の外の世界は真っ白になった。


ギィィ……バタン。


後ろのアルミコンテナが開かれ、閉められるのを感じた。

コンテナ内のカメラに切り替えて様子を窺うと、サリューにルーフェン、そして小柄な人物が二人乗り込んで居るのが見えた。


「レヴィ、合流した。出発してくれ。」


背中の小窓からルーフェンが顔を覗かせレヴィに伝える。

俺は視界ゼロの中、慎重に車を進ませ、小麦粉の煙幕の中から移動した。



ブクマ登録有難うございます。

週間投稿に戻せるように努力しておりますが、なかなかお約束できるほどではありません…

ひとまず次回更新は8/8の予定です。

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。

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