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31話

俺の荷台に、ナッサルとハンドオブグロリーを詰め込んで、カンパニアに向けて出発した。

狭い荷台に男女7人がひしめき合う。

絵面的にあまりにシュールだったので、仕方なく一番ガタイの大きいナックだけは助手席に座らせた。

車体が揺れる度にレヴィとナックの肩が触れ合って……車幅の狭いKトラなのが悔やまれる。


カンパニアの村は王城に向かう街道から徒歩で2日ほど逸れた場所にある。経由して何処かに行けるわけでもないので、依頼を出してもなかなか受け手が見つからないんだそうだ。


レヴィの運転で進む道中、ナックから簡単にグロリーの紹介をしてもらう。


先ずはリーダーのクロード。俺が知り合った中では珍しく、顔の造形に親しみを覚える。

前世の記憶と照らし合わせても些か不自由な部類に入るのだから、美形が多いこの世界ではさぞ辛いだろう。カンパニア出身の一人で、珍しい万能魔法使いだという。

万能魔法使いというのは、読んで字の如くあらゆる属性の魔法を広く浅く使うことが出来る。一見器用貧乏に思えてしまうが、実践において実用的なのは殆どが初級魔法なため、中~高位魔法が使える固定属性魔法使いよりも格段重宝されるらしい。


次にセリンという女性、通例に漏れず整った顔立ちだ。芸能人ほどではないが街で見かけた綺麗な女性って感じだろう。彼女もまたカンパニア出身の一人でロングソードに小さな盾を持っている。


続くもう一人の女性はウムという。地方で見かけた素朴なかわいい女の子って感じだろうか。カンパニア出身の最後の一人で小ぶりな短弓を持っていて、この三人が初期グロリーのメンバーなんだそうだ。


『ちょっと待てナック。』


荷台に声が届かないよう、小音量で話しかける。


『するとあれか?クロードは両手に花持って、村を出て冒険者してたのか?あの顔で???』


「あの顔ってひでーな……あの三人はそれぞれ親を早くに亡くしててな、村人の助けを借りながらも肩を寄せ合って育ってきたそうだ、揃って冒険者に成ったのも、金を稼いで村に恩を返したいって思いからだからな。あまり邪険にしないでくれよ?」


『いや、邪険にはしないけど……何だそのうらやましい設定は……』


「ハハハッ、羨ましいか。アイツも”いい加減慣れました”なんて言ってたけど、毎晩二人を相手にするのは大変そうだったぜ?…それにしてもほんとビーちゃんは人間くせーな。ガハハハハハッ」


「ナック声が大きいよ。それより、大変そうってどういう事??」


『い、いや、なんでもないよ。それよりナック残りの二人は?』


「お、あぁそうだな…」


両親を無くした彼らに羨ましいとか言っては失礼すぎる話だが、フツメン以下の男なら誰でも憧れるシチュエーションに、レヴィが居るのも忘れて地が出てしまった。

その上毎晩二人とか……クロードに感じた親しみは一先ず取り下げようなんて考えながら、残る二人の紹介を聞いた。


後にメンバーに加わった一人目がロースという、爽やかそうなイケメンだ。

人それぞれに好みが有るのはしょうがないとしても、あの顔でこの顔を後からメンバーに加える余裕が憎たらしい……。おっと、話が脱線したな。ロースは大盾とロングソードを装備している。


最後の一人はカシルという、両目を覆う黒髪が邪魔で顔の殆どが判別できない。雰囲気も寡黙というよりは暗いイメージで、出会ってから今まで声を聞いた事がない。腰には二本の湾曲した剣が刺さっていた。


グロリーの紹介を聞いた後は、俺は声を出すことを自粛して、レヴィに成されるがまま黙々と進んでいった。




道中何度か休憩を挟みながらも、日が沈む前にはカンパニアに着くことができた。


「いやぁ、先輩達から話は聞いていましたが、レヴィさんの魔道具は本当に素晴らしいです。」


そう言って、付いた早々、車を降りたレヴィの両手を掴み興奮気味に話すクロード。


「あはは、有難うございます。でも停まる度にそう言われても、返事に困っちゃいますよ」


なんてレヴィが言うように、クロードは休憩の度に同じ様な感想を述べて興奮していた。

俺も褒められて悪い気はしないのだけど、流石にちょっとクドすぎて…レヴィも若干呆れてる。


「レヴィさんどうでしょう?僕らのパーティに入っていただけませんか?!」


掴まれた両手を振りほどこうとするレヴィを無視して、今度は厚かましくも勧誘を始める。


「う~ん、ごめんなさいパーティーとかは入る気ありませんので。」


「そんな事言わないで下さい。うちには既に二人も女性が居ますし、男性ばかりのパーティより安心して活動できますよ?!」


尚も食い下がるクロードは、そんな事を言いながらレヴィの両肩に手を伸ばす。

悪意や下心は一切感じさせない、純粋に思ったことを口に出してしまう、そんな雰囲気だったから今までのところは見逃していたが、流石にそれはカチンと来るぞ?

そう思ってホーンを鳴らしかけた時、ナックがクロードの肩を掴んで声をかけた。


「クロード…あんまりしつこいと嫌われるぞ?」


「あっ…はい……それもそうですね。すいませんつい興奮してしまって……。パーティーに誘いたい気持ちに変わりはありませんが、勧誘はここまでにしておきます。でも、気が変わったらいつでも言ってくださいね」


ナックに言われて我に返ったのか、慌ててレヴィの身体から手を離して謝るが、尚も諦めないその姿勢にレヴィも乾いた笑いしか出ていない。


「しつけーよ」


見かねたナックが、軽くコツンと頭を突くと


「てへへへ」


とクロードは舌を出してはにかんだ。


その顔でその仕草が出来るとは、その神をも恐れぬ行為に、持てるブサメンと持たざるブサメンの違いを痛感した。







その後村に入った皆は、村長宅で盛大に歓迎されて騒いでいた。


『お帰りレヴィ、また勧誘されたりしなかったか?』


未だ笑い声が聞こえてくる中、レヴィが村長宅から戻ってきた。


「あはは、皆結構お酒呑んじゃっててね、また絡まれそうだったから抜けてきた。」


『ハハッ、そりゃ懸命だな。どうする風呂は入るか?』


「う~~~~ん………入りたいけど今日はやめとくよ…また興味持たれても嫌だし…」


『あぁそれもそうか、それじゃぁベットもやめとくか?』


「うん、そのつもり」


そう言ってレヴィは運転席に乗り込んだ。グローブボックスから毛布を取り出して身体に羽織り、膝を丸めて寝る体制に入る。


「なんだかこうやってビーちゃんと一緒に寝るの、すごい久しぶりに感じるね」


”えへへへへ”なんて笑いながらそんな事を言うレヴィが可愛すぎる。


脊髄反射的にギュッと抱きしめたくなるが、このボディではそれも叶わず…。

今日ほどこの身が生身じゃないことを恨めしく思った事はない。

そんな、何時もとは違う悶々とした思いを積もらせながら、カンパニアの夜を過ごした。


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