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2話

「はぁあったかい、すごいですねホントこんな魔道具見たこと無いです」

出ました魔道具。

安定の異世界って事である意味安心した。

正直これで、アマゾンの奥地でしたとか言われたらそのほうが救われない。


「えっと、今更なんですが、ゴースト系の魔物か何かなんでしょうか…?」

ゴースト系の魔物?

あぁ、車内に俺という幽霊が居るという設定か……それならば…


”ビッビッ”

で良い筈だ。


「んじゃぁ、この馬車があなたの身体って事ですか?」

ホント頭いいなこの子、発想が柔軟というか。俺には絶対無理な発想だ。


”ビッ”

それともこの世界には結構あることなんだろうか?


「ふぁぁ、会話できる魔道具なんて初めて知りました。ふぁぁ…」

ふぁぁという、溜め息とも感嘆とも言えない声が漏れ続ける。

車内の様子は見れないがきっとポカンと口が空いているんだろう。


「それで……更に今更なんですが…」

さっきまでの少し気の抜けた声とは違い少し緊張したような声で少女が続ける。


「雨宿りだけのつもりが、こんな機能まで使って頂いているのですが…私、魔力が全然無いので対価をお支払いする事ができないんです、代わりに魂を削ればお支払いできる事は知っているのですが…それはとても困るんです……何とか代わりの物を対価にしてほしいのですが……お願いします!」

跳ね上がる少女を感じる。

ゴリッと肩に硬い物が突き刺さる、右手の親指にサラサラと少女の髪が流れかかる。

土下座してるんだろうな…膝が肩に突き刺さり超痛い…。

ってか、魂ってなんだ、そんな物頼まれても貰いたくない。


”ビッ”ビッ”


「ヒッ…やっぱり魂じゃないと駄目ですか…」


”ビッビッ”


「……違うんですか…?」


”ビッ”


「えと、じゃぁお金ですか…?貯えは余りありませんが何度かに分けて頂けたら、、」


”ビッビッ”


「えと…それじゃぁ……」


”ビッビッ”


「…もしかして…対価…必要ないんです…か…?」


”ビッ”


「あ…あ、、ありがとうございます!」


ビィィィ(いてえ)

勢い良く再び下げられた額がシフトレバーに突き刺さる、親指を突き指した感覚そのままだ、同時に体重の乗った膝が肩にめり込み更につらい。

元々肩こりとは無縁だったのでこの手の刺激は痛いだけだ、例えそれが美少女の物だとしても、痛いものは痛い…。

ウォッシャー液が涙の代わりに流れてくれた。


「いててて、ごめんなさい」

安心したのか、照れ隠しなのか、少女は額をさすりながらクスクスと笑いっていた。




「あ、少し弱くなってきましたねぇ、雲も晴れてきたみたいだしソロソロ止むのかな?」

しばらくの沈黙の後、少女が話し出す。

まだ小降りとは言えないがさっきまでに比べれば随分と弱まった、俺の目線じゃ空は見えないが明るさも増しているように思う、夕立みたいな物だったんだろうか。


「よければもう少し小降りになるまで居させてください」


”ビッ”


「フフッ、ありがとうございます」

そうして雨が止むまでの間、少女は自分のことを話してくれた。

聞くところによると、少女は冒険者らしい。

とは言え、まだまだ2年目の新参者で、その上特に戦闘技術に長けているわけでもないため、主に街から街へ手紙などを運ぶ事で生計を立てているそうだ。

普段は決まったルートしか通らないが、途中街道に魔物が現れ、逃げているうちにこの森に迷い込んだという。


「逃げ足だけは自信があるんです」

明るく笑う16歳の少女にこの世界の厳しさを垣間見た。


彼女の背負うリュックは彼女の持ち物で一番高価な物らしく、少々の雨では中に水が入らないように成っているそうだが、さっきほどの大雨では浸水していただろうという。

紙自体がけして安い物では無いようで、


「手紙が全て駄目になっていたら、奴隷として体を売っても弁償できなかったもしれません」

なんてことを、また明るく言った。



一通り話し終えた少女が窓の外を覗き込む。


「あ…止みましたね」

少女の言うとおり、雨は上がり力強い日差しが差し込み始めていた。


「ありがとうございました、ソロソロ行きますね」

そう言いながら少女はモソモソと車内で動くが直ぐには出ない。

何をしているのかと、神経をパーツに張り巡らせる…。

サラサラと布のすれる音…

軽く交互に尻を浮かせて、何かを引き上げている。


「冷たっ、流石に全部は乾かないか…」

そんな声が耳に届く


『まじか…』

車内を見ることの出来ない自分が恨めしい…

せめてもと、先程まで直に触れていただろうシートの感触を思い返す…。




助手席に置かれたリュックが持ち上げられる。


「それじゃ行きます。ありがとうございました」

彼女の声にハッと意識が引き戻される。

余韻に浸ってる場合じゃない!

彼女がドアを開けるより早くドアをロックする。


”ガシャン”


「え??」

戸惑いながらもドアレバーを引く、乗った時もそうだが、この世界の馬車の扉も似たような形らしく迷いは無い。

悲しい事に運転席側はレバーを引けば自動でロックが解除される。

ドアが僅かに開く、其れならばと気合でわき腹に力を籠める。


「あれ、開かない…う~~~~ん」

ドアを開けようと唸りながら力を籠める彼女の力と、俺のわき腹の力が拮抗する。


「駄目だ開かない…えっと…出ちゃ駄目なんですか?」


“ビッビッ”


「じゃぁ開かなくなったんですか?」


“ビッビッ”


「……暗くなると森から出られなくなるのでソロソロ出発したいのですが…」


“ビッ”

シフトレバーをドライブに入れ、ゆっくりと動き出す。


「わわっ、動き出した!馬車さん一人で動けるんですか?!」


“ビッ”


「ふぁぁ、すご〜い…じゃなくて、もしかして乗せていってもらえるのですか…?」


“ビッ”

半ば監禁のようにしてしまったが、この出会いを逃す訳には行かない。

次に出会う人物が、これ程感よく意思疎通できる保証は何処にも無い、魔物がいる世界なら、最悪討伐対象に成り兼ねない。

この子を味方に引き込まないと俺の未来が見えない。せめてこの世界の情報を引き出さなくては。

いや、勿論、これがムサイおっさんだったら、黙って別れていた可能性も否定は出来ないけど……。


いいじゃないか、軽トラなんだから。

乗せる以外出来ないんだから相手くらい選びたいと思うんだ。


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