19話
拗ねるナックを何とか宥め、今後の事を相談する。
『で、他の2組にも話していいと思うか?』
「話すべきだろうな、獣人のナッサスは勿論だが、ミザリーも表には出していないが気が付いてるだろう。お前が判断したように変に勘ぐられる前に話したほうがいい。Cランク以上になると客の情報を漏らすのも命懸けだからな、情報漏れの心配は無いと断言できる。」
組合に所属する以上、組合員には守秘義務が課せられる。
Cランクともなると膨大な信用を元に与えられた物なので、一度でも信用に反した事をすると反動がとてつもないのだと言う。
組合の顔とも言えるCランク以上の者が信用を損なうという事は組合全体に悪影響を与える、悪質だと判断されれば組合から登録抹消される事もある。
更に情報を売った金で豪遊でもしよう物なら、確実に組合から命を狙われるそうだ。
因みに、運搬を請け負ったレヴィの客は組合長とその上の貴族になるのだが、運搬の護衛を請け負ったナック達には、レヴィも客に含まれるらしい。
「どれだけ大金を積まれても、山奥でひっそり自給自足する覚悟がないと出来ねーよ」
『なる程な、それならナックから漏れる心配も無いわけだな』
「あ゛?また拗ねるぞ?」
『ハハッすまん冗談だ。、、、、レヴィ、皆に打ち明けていいか?』
「ビーちゃんが良いならそれで良いよ」
言葉自体は嬉しいが、余り盲目的に信用されても俺にそこまでの自信は無い、、、、
「レヴィ、巻き込まれるのはお前なんだからちゃんと考えろよ?」
流石はナックよく言ってくれた。
「失礼な!ちゃんと考えて言ってるよ!!」
分かりやすく頬を膨らませて横を向くレヴィ。
まぁ、頭の良い子だから本当なんだろう。
『それなら後で皆に話すとして、馬車が無くなったわけだが護衛を減らす事は出来るか?』
「それも厳しいな、今回の襲撃も明らかに裏のある襲撃だ、次が無いとも言い切れん。ビーちゃんなら最悪単独で逃げ切れるかもしれないが、その時取り残される者達のことを考えると賛成はできない。」
契約時の人員で命を落とすのは覚悟の上だが、途中で減らしてとなると話が変わってくる。
まぁ、当然か。
『わかった、それなら無理矢理でも全員俺に載せて先を急ごう、どんな使い方をするか知らないが、開演1時間前には届けてやりたいしな。』
「なっ!間に合うつもりか?!!!」
『開演1時間前でも後9時間有るからな、トラブルが無くてお前等が頑張れば余裕だよ』
岩石かぼちゃが無事に積み込めたのを見計らってナックが車を降りて皆を集めてくれる。
先ずはナックから皆に説明して貰う、その方が幾分か動揺を抑えられるだろうとナックが提案してくれた。
『と、言う訳だ。思う所があるかも知れないが信用してくれると嬉しい。それと、わざわざ言うのも失礼だろうが、この事は絶対漏らさないでくれ、被害を受けるのはレヴィだからな。しつこいかも知れないが、いくらレヴィの為になる事だとしても、レヴィの許可なく漏らすのも駄目だからな。ルーフェン、酔っ払ってここだけの話とか言うなよ?』
「なっ!名指しかよ!!!!」
話を聞いた皆はそれぞれ複雑な顔つきだ、ナックの様に色々と思う所が有るんだろう、俺の降ったネタにも無反応だ。
そんな中でサリューとルーフェンだけが、すげーすげーと素直にはしゃいでいた。
『ナック良い仲間に恵まれたな』
リーダーの信じた事だから無条件に信じてくれるのだろう。
「アイツらはなんも考えてないだけだ。」
『、、、、、、大変そうだな』
「あぁ、、、、、、」
そう答えるナックの背中はとても小さく見えた。
『ハハ、、、それじゃぁ皆、狭いが何とか乗り込んでくれ』
そうして軽トラの荷台に7人の男が詰め込まれていく、ミザリーは「少女の横にむさい男が乗るなんて可愛そう」と言って助手席に乗り込んだ。
ツッコミかけて止めたサリューに少し失望した。
『行くぞー落ちるなよー』
速すぎだ、落ちる落ちると叫ぶ男達を満載し街道をひた走る。
その後心配していた襲撃もなく、小休止を取りながらでも15時過ぎに到着する事ができた。
ズーカの街は見上げれば首が痛くなりそうな高い壁に囲まれ、その門構えもイセコドの比ではない。一時期は十人程の兵に囲まれヒヤヒヤしたがナッサルの顔で事無きを得た。
兵達の一目置くような態度を見て更に感心する。
門から足を踏み入れたその先は4車線の高速道路を思わせる幅広い道路で、脇には4〜6階建ての石造りの建物が建ち並び圧倒される。
その主要道路の突き当りに有る巨大な屋敷が岩石かぼちゃの購入主らしく、人の波を掻き分けながらレヴィは俺を進ませた。
巨大な屋敷の巨大な門に立つ兵に声を掛けると直に人を寄越してくれた。
「よくぞお越しくださいました。遅れるかもしれないと鳥が来ていましたのでヒヤヒヤしましたが、いやぁ良かったです。」
初老の執事服を身に纏った男性が、額の汗を拭いながらそう言って俺達を門の中へと案内してくれた。
屋敷の裏口に車を停め積荷を下ろす、木製の手巻きクレーンの様な物にかぼちゃは吊り下げられ、屋敷の中に運ばれて行く。
搬入口も兼ねているんだろうが、4トントラックでも入れそうな勝手口に絶句した。
納品も問題なく終え一行は広場の片隅に集まる。
「皆さんのおかげで無事依頼を終えました、ありがとうございます。」
レヴィが皆の前に立ち頭を深く下げる
「いや、こちらこそ二人に危ないところを救ってもらった、力不足で申し訳ない。ビーちゃんの事は安心してくれ、何があっても漏らさないと約束する。初めは流石に驚き戸惑ったが、恩人に対して疑いを持つとは許される事ではなかった。重ねて申し訳なかった。」
ザウスの言葉に続きワイルドミート皆が一斉に頭を下げる。
“カッチ”
町中なのでハザードで、回答だ。
「信じてくれて嬉しいって」
レヴィが俺の言葉を代弁してくれる。
僅かな期間でこれ程までに俺を理解してくれる、、、、愛か?愛だよな?
「それは俺も同じだ、非礼を許して欲しい」
後で聞いた話だと、獣人にとって頭を下げる行為は自殺を考える程の屈辱らしい、それにも関わらず獣人ナッサルは深々と頭を下げてくれた。
「それにだ、レヴィ達と友好関係を維持するメリットを考えれば、ビーちゃんの存在自体を秘匿したいくらいだ。」
「それは俺達もだ!レヴィ達に来てもらえれば今まで馬車で辿り着けなかった所の大物も視野に入れる事ができる!そうすればBランクも夢じゃなくなる!!!」
獣人ナッサルの言葉にザウスが乗っかり熱く語り出す。
今までずっと落ち着いた雰囲気だった男が台無しになる程な興奮している。
しかしまぁ、何だろう。どれだけ言葉を並べられるよりこういう俗っぽい理由を聞くほうが信用できるというのは、、、歳は取りたくない、、、、、。




