15話
翌朝、日も昇りきらないうちから移動を開始する。
「えぇぇぇぇ!ザナッサルって、Bランクなの!!!」
荷台に陣取るルーフェンと話すレヴィの声が裏返る
「そうだぜ、”ザ”取りたくなっただろ?」
「それとこれは別だけど…ふぁぁぁ…」
組合員は6段階のランクがつけられているらしい、聞いた話から俺の感覚で言うと
A 英雄クラス
B 天才
C ベテラン、エリート
D 並
E 新兵
F 見習い
こんな感じだろうか?
一応、形式的にSランクも存在するが、そこはもう神話の世界の話で現存する者はいない。
このランクは様々な業務毎に付けられていて、例えばナッサルが護衛B・討伐C、獣人ナッサルが採取A・討伐D、ワイルドミートが討伐C・採取D・鍛冶Dという具合だ。
ランクは依頼をこなした数や難度、評判等で決められる為、単純に強さを表したものでも無いらしい、言い換えれば依頼を受けなかったり報告をしなかったりするとランクが上がらないので、ルーフェンが言うには、「採取Aで討伐Dはありえない、実力は少なくともCだろう」なんて事もあるそうだ。
護衛のBランクともなれば王族から指名で依頼を受ける事もあるらしく、出来る奴等だとは昨日思ったが、それ程とは…
ルーフェンと談笑しながら器用に運転しているレヴィを横目に、取り付けてもらった鏡越しにナビを見つめて考える。
(このペースじゃ、絶対間に合わないな…)
昨日は結局100km位しか進めてない。
前を走る馬車の速度は10km/h前後、納期の期限は19時、あと12時間あるがこれも披露宴の開始時間の話だ。
組合長に恩義は無いが、命がかかっているなら何とかしてやりたいし、今後のレヴィの為にもここで恩を売っておくきたい。
さて、どうしたものか…
“ピィーーーーーーーー”
突如、敵襲の笛が鳴らされる
「敵襲!恐らく人だ!多いぞ!!!」
獣人ナッサルが声を張り上げる。
急停止した馬車と車から皆が飛び降りると同時に、荷台に残るサリューが叫ぶ
「馬車から離れろ!!」
展開の速さについて行けない俺の視界に巨大な火の玉が映った瞬間、目の前の馬車が吹き飛んだ
『なっ…』
続く言葉を出す間もなく、再び現れた火の玉が目の前で爆発した。
『なんじゃこりゃぁぁぁ!』
爆心地から盾を構えたナックの後ろ姿が現れた。
ドアを開けようとするレヴィに気付き、必死で耐える
『駄目だレヴィ!出るな!!』
魔法が有るのは知っていたが、あんな規模だとは聞いていない。
吹き飛んだ馬車は原型無く粉々に砕け散り、散乱した破片が燃えている、六頭の馬は肉片すら残っていなかった。
俺の基準じゃあんなのはボスとかが使う大技だ、もっと旅の後半に出てくるものでこんな序盤に出すものじゃない!
逃げ専だと言っていた俺のレヴィをこんな所に出してたまるか。
「「来るぞ!!」」
獣人ナッサスとサリューが同時に叫ぶ。
その声でワイルドミートの事を思い出し馬車のあった辺りを探す。
倒れているザウスとその横で跪くゴメス、二人を庇うように盾を構えるエランとエランの隣で両手を前に突き出して構えるミザリーを見つける。
「うちのザウスになんて事するのよぉぉぉ!」
俺のボディがビリビリと振動する、それ程ドスの効いた声を出しながらも女性の心を忘れなていないミザリーの手がパチっと小さく光った。
間を開けず悲鳴が聞こえる。
悲鳴の方に視線を送ると、街道沿いの木々の隙間で数人が倒れてる。
「レヴィ!ミートの方まで移動できるか?」
いつの間にか運転席の横に来ていたナックが背中越しに叫ぶ
「う、うん。大丈夫、、、」
返事をするも戸惑いは隠せていない。
『レヴィ、危ないから頭下げとけ。ナック動くぞ!』
正直、レヴィよりも荒事に免疫が無い自信のある俺だ。
守るべきレヴィの存在があるから踏み留まれているが、頭の中は混乱から抜け出せていない。
後先考えずに、ボリュームをMAXにして声を出していた。
何かを言いかけたレヴィがぐっと飲み込み頭を下げる。
「よし!サリュー動くぞ!ルーフェン援護しろ」
僅かに残った理性で荷台に乗るサリューの事を考慮し、ゆっくりと車を動かす。
その間も俺に向かって魔法が放たれるが、バレーボール大の火の玉や氷の礫位の物で初めの奴のようなでかい魔法は無い、ルーフェンが軽々と剣で受け止めていた。
10秒程でワイルドミート達のそばに辿り着く。
「動けるか?!」
ナックは俺達を庇う姿勢のままワイルドミートに声をかける
「すまない、何とか回復した。」
ゴメスの回復魔法で治療されたであろうザウスが、頭を振りながらゆっくりと立ち上がる。
「よし、魔法は俺とルーフェンで対処する。ザウスとエランはサリューと共にビーちゃんとゴメスを守れ、ミザリーとナッサスは両方の援護を頼む。レヴィはビーちゃんから出ずに、いつでも動けるようにしておいてくれ」
「ナーーーーク!そろそろキツイぞ!!」
そう叫ぶルーフェンの言葉は泣き言にも聞こえるが、魔法を処理しながらも、サリューの撃ち漏らした敵を一振りで切り伏せたりと、完璧な仕事をしていた。
 




