14話
「ふぁぁぁぁ、本当に護衛出来たんだねぇ…」
「ちょっ、そこまで俺らの評価下がってたのかよ?!」
突っ込み担当のサリューを差し置いて、ナックが思わず突っ込みを入れる
「だって、アラシシシ積み込んでヘロヘロになった姿と、二日酔いでヘロヘロの姿しか見てないもん」
「あぁぁ、確かにそうか、俺らヘロヘロの姿しか見せてねぇわ…ザンナッサスでもしょうがなかったわ」
ハッハッハとナックは片手を顔に当て空を仰ぎながら豪快に笑う、この笑顔に嘘はなさそうだ。
「でもまぁ、これで俺達を見直しただろ?」
ルーフェンは倒した魔物から剣を抜きながら胸を張る。
「ん~ザナッサスくらいかな?」
「よっしゃぁいっこへったぁぁ!」
サリューは荷台の上でガッツポーズだ。
それで喜んで良いのかお前ら…?
なんだかんだと、気のいい奴らだ。
日が沈み、辺りが薄らと暗くなり始めた頃、突如ナッサスの三人は立ち上がり武器を構えた。
皆がその動きに反応した瞬間、襲撃を知らせる笛が鳴らされた。
ナックから素早く指示が飛ばされる。
指示が的確なのか皆が凄いのかは素人目には分からないが、少なくともその采配に隙は無く魔物が俺の視界に入った時には既に迎撃準備が整っていた。
森の中から飛ぶように現れた5匹の狼のような魔物を一瞬のうちにナッサルだけで撃退した。
素直に尊敬できる、今までちょっと舐めててごめんなさいだ。
レヴィもあんなことを言っていたが、彼女のふぁぁぁぁは本当に感心した時にしか出ない事を俺は知っている。
「今日はここまでにしましょう。流石にこれ以上は私の目でも見えません」
日は沈み空が星で埋め尽くされてようやく獣人ナッサルさんが停止を決めた。
皆で焚き火を囲み夕食をとっている、皆が食べるのはお決まりの干し肉と固いパンで、かろうじて飲みのもだけはミザリーが持ち出してくれた紅茶のようなものがあり、皆の体を温めてくれていた。
因みに今日の移動で発覚した事がある。
道中の移動はレヴィと交互に運転していたのだが、俺が自力で運転する場合かなりの精神力を使うことが分かった。
感覚的には念動力で操作していて、その力を使うのに精神力を使う感じだろうか?
体感で2時間の運転で5~6時間運転した気分になる。
昨日、一昨日と精根尽き果てていたのはこれが原因だったのだ。
『あ…忘れてた…』
パッパッパッとパッシングしてレヴィを呼ぶ
「どうしたの?」
『あれ忘れてた。シチュー』
「あ~ほんとだ、出してみる?」
グローブボックスの性能を確かめるべく、早朝からレヴィに頼んで暖かいスープを調達して貰っていた事を思い出す。
スープは無くてシチューになったが、温かい液状の物なら問題ない。
グローブボックスサイズなので鍋ごととはいかないしタッパーも無いので、小皿に注がれたシチューを一皿づつ収納していった。
『よし…開けてみて』
「あけるよ~」
『どう?こぼれてない?温度は?』
「ふぁぁぁ、凄いよビーちゃん。こぼれてないし熱々だよ」
よしよしよし!異世界収納といえば時間停止。
夢の記憶を辿ると、あの青鬼がこの辺りの設定を決めてくれた筈なんだが、なかなか良く分かってる。
コンビニのない世界じゃぁ、腐らない食料保管場所は非常に嬉しい。
「凄いなレヴィ、馬無しで動く馬車ってだけでも聞いたことが無いのにアイテムボックスまで付いてるのか!アイテムボックスなんて1つの国に10個も無いんだぞ」
ダブルナッサルとワイルドミートが我を忘れて驚き興奮している。
アイテムボックスがそんなに貴重だったとは、情報開示を早まったかもしれない。
「大きな物は入らないけどね、でもこれは内緒よ?」
同じように感じたレヴィが皆に口止めをお願いする。
「あぁ、それは勿論だ。こんな事が世間に知られたら最悪レヴィを奪い合って戦争に発展しかねない」
こんな真剣なナックの顔はアラシシシを持ち上げてる時以来だ。
「いやいや、大げさだよナック…」
「大げさじゃないぞ、ビーちゃんにはそれだけの価値があるんだ。レヴィも今後は人に知られないように気をつけろよ」
お調子者のルーフェンにすら笑顔がない。
「う、うん…気をつける…」
どうにも俺達が思ってた以上に評価が高いらしい、レヴィを巻き込まない為にも迂闊なことは出来ないな…
明日も早朝から移動開始するので皆は早めに就寝する、見張りはレヴィ以外で回してくれるそうだ。
『狭いだろ?外で寝ないのか?』
「みんな良い人だけど、流石にそれはちょっとね…」
こんな世界で冒険者してるし、誰とでも気さくに話す姿を見てきた。
だから勝手に気にしないのかと思っていたが、やっぱり雄に囲まれて雑魚寝するのは落ち着かないらいしい。
「それにベットでもこうやって寝てるから、あまり変わらないよ」
三角座りしながら膝を抱く、丸まって寝るのが好きならしい。
『それなら良いんだけど…そういえば、なんでみんな俺の事ビーちゃんて呼ぶんだ?』
「やだった?」
『いや、そんな事はないけど…』
嫌というよりも、おっさんたちが物に向かってビーちゃん、ビーちゃんと呼ぶ姿が単純にキモイ…
「んっとね、魔道具は名前付けて所有権持つでしょ?だから、それを認めるって意味でもつけられた名前で呼ぶのがマナーなんだよ、魔道具を奪いたい時にはわざと名前を呼ばずに挑発したりする」
『って、奪えるの?所有権は??』
「持ち主の意思で所有権は放棄出来るから、稀に決闘とかあるみたいよ」
『物騒だな…所有者が死んだらどうなるんだ?』
「その場合は魔道具の所有権が無くなるから、新たに名前を付けた人の物だね。」
『オイオイ、それじゃぁレヴィ殺して奪おうとする奴が出てくるじゃないか!』
「それは大丈夫だと思うよ、魔道具も相手を選ぶって考え方が一般的だから。歴史的にも卑怯な手で所有者を殺した人に所有権が付いたことは無いんだよ」




